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子どもの頃のおねだり

子どもの頃、デザインが可愛い上に、プラスティック性の何回も貼って剥がせるポケモンパンシールに恋焦がれて、何度も親におねだりをした記憶がある。近所の友達と交換する遊びも流行っていたので、その仲間に入るためにも、どうしても欲しかったのである。ポケモンパンに入っているシールは、可愛いものであると同時に、子どもの世界の通貨のようなものだった。私はポケモンパンシールに対して、「欲しい」と「必要」の中間のような感覚を持っていた。でも、自分で財を生み出すことのできない幼き頃の自分には、おねだりをするしか術はなかった。そして、私の家庭ではおねだりはほぼ通用しなかったのである。

大人になると、ポケモンパンの「値段の高さ」を実感した。他の菓子パンと比べて、値段がちょいと高い。パン自体もそんなに大きくはないので、それだけではお腹いっぱいにならない。当時の親の年齢に近づいてきてはじめて、「値段も高いし、朝ごはんにこれだけ出しても足りない」という感覚を持った。新しい発見だった。とはいえ、一人前に働きはじめてお金を稼いで生活するお年頃になったので、「欲しい」と思えば、自分の欲に従って買うことができた。

夏休みに帰省をすると、よく昔の話をする。私はどちらかと言えばよく我慢をした子らしく、親にとっては、このポケモンパンの話は、後悔と懺悔の一つらしい。たまにしか会えない娘をスーパーの買い物に誘い、パンコーナーへ連れて行って、「どれがいい?好きなだけカゴに入れなさい。」と言う。「じゃぁ、これにするよ。」といちごの蒸しパンを一つ手に取ると、「いいや、遠慮しなくていい。全種類持っていきなさい。」と4つ、5つあるパンをカゴに入れるのだった。もう私は自分でポケモンパンを買えるのに。

毎回そんな親の姿を見ると、嬉しくなる反面、同時に鼻がツーンとして、なんだか切なくなる。買い物に来ている小さな子が集まる場所で、自分の背丈を越した娘を連れてくる親の姿に何とも言えない感情を抱く。この行き場のない気持ちを抱きながら、お土産のポケモンパンを持って、帰りの電車に揺られる夏は、もうあと何回できるのだろうか。

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