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読書記録 「ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化」

「ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化」 中川裕著 集英社新書

「ゴールデンカムイ」という漫画が人気らしい。
 私は未読なのだが、本書「ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化」は、漫画を読んでいなくても、アイヌ文化を知る入門書として楽しめる内容になっている。
 本書は、漫画「ゴールデンカムイ」のストーリーに沿って、アイヌの民俗や言語などについて解説されている(よって、漫画未読の人には若干のネタバレあり)。漫画の巻数、ページ数も書かれているので、漫画を持っている人は照らし合わせながら読むことができる。また、漫画から引用されたイラストも豊富で分かりやすいし、興味深い。

 アイヌを語る上で欠かせないのは、「カムイ」という言葉だ。漫画のヒロイン・アシㇼパ(*1)は、「人間も含めすべての者はカムイと呼ぶことができる。しかしいつもカムイと呼ぶ者は限られている。人間ができない事、役立つものや災厄をもたらすものなどがカムイと呼ばれる」(*2)という。著者は、「伝統的なアイヌの世界では、世界のあらゆるものにはラマッ『魂、霊魂』があると考えられています。その中でも精神・意思を持って何らかの活動をしていると感じられるものを、特にカムイと呼びます。」(*3)と解説する。漫画に描かれた時代、大自然の中で生きたアイヌの人びとは、カムイを拠り所とし、畏れ、カムイと共に生活を営んできたのだろうか。

 アイヌの人びとは、「はるか昔から海を渡って交易をしてきた人びとなのであり、その交易資源を得るために、農耕から狩猟を主体とする生活に転じたとみる人もいるほど」(*4)という。国家を持たなかったがゆえに、文字も持たなかったそうだ。自然を熟知し、危険を伴う狩猟を生業とし、交易のために海を渡る、ダイナミックなアイヌの姿が読み取れる。

 本書には、「ゴールデンカムイ」に出てきたアイヌ語の他にも、絵で表された物の固有名詞もアイヌ語で紹介されている。アイヌ語、難しい。日本語にない文字(小さい「ㇼ」とか)はどう発音するのか。私には、名詞すら読みにくいし、覚えづらい。しかし、漫画「ゴールデンカムイ」にてアイヌ語がつかわれていなかったら、漫画の魅力が損なわれてしまったと思う。
 著者はアイヌ語研究者なので、「ゴールデンカムイ」の人名の由来や、祈りの言葉などの「となえごと」の解説も、書いている。アイヌの言葉にも方言があり、標準語というものはなく、方言のネイティブスピーカーもいない、「辞書も文法書も、語学教材も、開発途上」(*5)であるという。文化、言語を守り、後世に伝えていく大切さ、労力の大きさについて考えさせられた。

(*1) 文字化けしていたら、小さい「り」ということで。
(*2)「ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化」 P26より引用
(*3) 同P28より引用
(*4) 同P218より引用
(*5) 同 P521より引用

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