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「技能実習制度」って何が問題?〜身近な誰かと話してみよう〜

関心を持ったニュースの話題を誰かに話そうとした瞬間、言葉に詰まる。
「結局何が問題なんだっけ?」
身近な誰かと話をするには、問題に衝撃を受けて興味を持ったあと、もう1歩踏み込んで知ることが必要です。

NO YOUTH NO JAPANの今月のInstagram投稿は「移民難民」。日本における難民認定率、入国管理局の対応、外国籍の方の選挙権等、様々な現実を取り上げています。

Instagram投稿は最初の入り口。「知らなかったけど衝撃的だった。もっと誰かと話したい!」そんな人への次の一歩として、この記事では「技能実習制度」を解説します。

コロナ禍で解雇や人権侵害のニュースを目にするようになったこの制度。
そもそもどんな制度なのでしょうか。そして、制度のどんな点が、様々な問題を引き起こしているのでしょうか。

目的と現実の大きなギャップ

技能実習生の受け入れ業務を担う国際人材協力機構は、実習制度の目的を、

技能実習制度の目的・趣旨は、我が国で培われた技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進です。

と説明しています。

つまり、外国から日本へ来た方が、出身国では学べない日本の技術や知識を学ぶために、日本の会社の中で働きその技能を身につける、という制度なのです。

しかし実際に実習生が働くのは、食品製造の工場や建設現場、農業などの中小企業。例えば、コンビニやスーパーのお惣菜やお弁当を詰める仕事、高所での作業を行う鳶職、縫製工場でミシンを使い衣服や布製品をつくる仕事等に従事しており、

日本人の人手が足りない分野の労働力の担い手とされてきた側面があります。「国際協力」という制度の建前と、現実のあいだに大きな乖離があるのです。

問題の原因はどこにある?

Instagram投稿でも取り上げたとおり、この制度のもとでは、賃金の未払い、長時間労働、低賃金、パワハラ・セクハラ、理不尽な解雇、契約をしていなかった業務をさせられる…といった様々な問題が噴出しています。

こうした問題の背景にあるのは、実習生側が安心して就労できない制度の構造です。
ここでは、①実習生が抱える借金、②実習生を支える支援体制 を取り上げます。

まず、実習生は日本に来る前に大きな負債を抱えて「後に引けない」状態になっています。

ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイなど、技能実習生の多くは、アジア圏の国々の出身。
実習生は、日本に来る前に日本語や日本企業でのルールを学ぶための教育を受けねばならず、その教育費用等は彼ら彼女ら自身が負担します。
(※ ただし、この仕組は国によって異なり、例えばフィリピンからの実習生は、こうした費用は1円もかかりません。)

法令でその金額の上限が定められている国もあるものの(ベトナムの場合、教育費及び手数料で約43万円)、100万円を超える手数料を支払った実習生も多いと報告されています。

実習生の出身国として最も多い割合を占める、ベトナム国内の平均月給は約17,000円。100万円は 約5年分の年収にあたります。

それでも実習生が日本へやってくるのは、日本に「出稼ぎ」に来る方が、数年間で沢山のお金を稼ぐことができるから。
親戚や地域の方からお金を借りていることも多く、借金の返済に加え、帰国後に家族を養うためのお金をつくるまでは、なかなか本国には帰ることができません。だからこそ、勤め先で問題が生じても、日本国内で働き続けたいと考えるのです。

次に、日本で問題を抱えても、それにきめ細かく対応できるような体制は整っていません。

他業種への転職は認められておらず、初めての会社や仕事が自分と合わないという場合も、我慢して続けなければいけません(※ 同業種内で勤め先を変更する「転籍」は可能ですが、それにも非常にたくさんの手続きが伴います)。
困りごとが生じた際のサポート体制も充実しておらず、NPO等支援団体への相談が絶えない状況です。

実習生が安心して日本で生活でき、労働者としての権利が守られる状態で働けるような環境を整備できていないことが、この制度の根本的な問題なのです。

2018年の技能実習生の失踪者は9,052人。技能実習の在留資格を持つ方の2.1%にあたります。

みなさんは、この数字を多いと感じるでしょうか、少ないと感じるでしょうか。割合としては意外に少ないから、現行制度のままでいいや、と思うのでしょうか。それとも、誰もが日本で幸せに生活できるような制度へ向けて、改善を望むでしょうか(※)。

※ 2019年4月から改正入管法が施行され、現在は技能実習制度に加えて「特定技能」という在留資格が新設されています。技能実習制度との違い、ぜひ調べてみてください!

ひとりの「人間」と向き合うということ。

受け入れ時にどのようなサポート体制をつくるのか、来ていただいた方々に対し日本国内でどのような権利を認めるのか。海外から日本に働きに来ていただく方々へのスタンスは、その国の受け入れ制度に反映されます。

もし、身近な人と離れてひとりで海外で過ごし、その国でパワハラやセクハラにあったとしたら。苦しくても、どこにも相談する場所がなかったとしたら。
最長で3年の滞在となる技能実習制度は、家族の同伴も認められていません。

実習生として日本に来ている方々は、感情を持ち、自分の国に親しい人がいて、日本で生活をする一人の人間。決して、日本にとって都合のいい、労働力ではありません。

5分でかまいません。
今月の投稿で、日本の移民・難民政策に関心を持った方は、ぜひ、気になった言葉を調べてみてください。その5分が、周りの誰かに話をする自信に、そして周りの誰かに影響を与える力につながります。

この記事が、誰かに問題を共有するためのヒントになれば、とても嬉しいです。

(文=名倉早都季)

出典:
NHK「外国人実習生度の闇 〜彼は駅に捨てられた〜」2020-10-22. (参照: 2020-11-30)

朝日新聞「月給数万円、借金100万円…失踪した技能実習生の実態」2018-11-20. (参照: 2020-11-30)

公益財団法人 国際人材協力機構「外国人技能実習生制度とは」(参照: 2020-11-30)

澤田晃宏(2020)「ルポ・技能実習生」ちくま書房

日本貿易機構「2018年版ベトナム家計生活水準調査結果を公表(ベトナム)」2020-5-21. (参照: 2020-11-30)

法務省 技能実習制度の運用に関するプロジェクトチーム(2019)「調査・検討結果報告書

法務省「令和元年末現在における在留外国人数について」2020-3-27. (参照: 2020-11-30)

在ベトナム日本大使館「技能実習生に対する手数料の上限について」2018-1-17. (参照: 2020-11-30)

参考:
望月優大(2019)「ふたつの日本「移民国家」の建前と現実」講談社


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