『情報を活用して、思考と行動を進化させる』の「はじめに」部分を公開します。
こんにちは、田中志です。
先週からAmazon上で予約が始まった私の書籍『情報を活用して、思考と行動を進化させる』ですが、予約段階でナレッジマネジメントカテゴリのベストセラー1位を獲得しています。ハーバードビジネスレビューより上にあった...いまはもうランキング上も落ち着いているのですが、知り合いのみなさまの起こしてくださった風に感謝です。
また神の単行本のみの予約なのですが、4/23頃にはKindle版もリリースされるはずです。電子書籍派のみなさま(私もです)、もう少々お時間を頂きたく。
さて、今回はこの書籍の冒頭、「はじめに」の部分を公開しようと思います。内容にイメージを持って頂きつつ、買うかどうか迷っている方にイメージを共有し(同時にもう買ってしまった人にキャンセルの機会を提供し)、ぽちった後に「なんやねん、こんな話かいな!」みたいなのが亡くなるといいなと思っています。
緩くふんわりと、ご覧ください。
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はじめに
本書は、情報収集やリサーチ・調査をテーマとして、どうやったら効率的・効果的な情報の収集と活用ができるのか、ということについてお伝えするものです。
企業の中で新しいプロジェクトや事業創出に取り組む方、転職や就職などで新しい業界・仕事に挑もうとされている方、真面目に学業・研究に取り組もうとする学生の方など、情報の収集と活用を必要とするすべての方のお役に立てればと思っています。
ところでみなさん、情報収集は得意ですか?
現在、私は情報収集のプロとして活動していますが、最初から効率的・効果的にできていたわけではありません。
例えば、次のようなシーンがありました。
シーン①:2時間調べてもわからなかったことが、上司が2分Google検索するとわかる
入社してすぐ、まだコンサルタントとして独り立ちする前にトレーニングとしてアサインされたプロジェクトの中で、上司から「○○業界のXXが現状どうなっているのか、最新のレポート等をGoogleでわかる範囲で探してみてくれる?」という依頼をもらいました。新卒一年目の私は必死になってGoogle検索をし、1〜2時間、いろいろなキーワードで探すわけです。しかし、なかなか求めている資料は見つかりません。そこで同じプロジェクトを担当している先輩に助けを求めることにします。
私 「先輩、先程お話を頂いた資料なんですが、なかなか情報が出てこなくて……もしかしたらまだ情報がないのかもしれません」
先輩「え、そんなことないでしょう。このくらいの情報ならGoogleで見つかると思うんだけど」
私 「2時間調べてみたんですが、見つかるのは5年前のものまでで。最新のデータはエキスパートに聞いたりしなければわからないのでは、と思います」
先輩「そうか。ちょっと待ってね」
(先輩が手元でGoogle検索を始め、2分ほど経過)
先輩「見つかったよ、ほら」
私 「えっ、本当ですか!」
先輩「うん、このURL先見てみてよ、欲しかったファクトが出ているでしょ」
私 「そうですね……」
シーン②情報活用の壁:調べた情報同士が矛盾
シーン①と同じプロジェクトにて。上司に報告ができました。それを踏まえて、上司からのコメント。「ありがとう。次は○○業界の市場規模と主要なプレイヤーについて、Googleでわかる範囲で探してみてほしい。明日報告をもらっていい?」シーン①の後に先輩に教えてもらったGoogle検索のコツを実践しつつ、今回は早々に市場規模や主要企業のリストを作ることができました。
私 「先輩! さっきのミーティングで上司から言われたファクト、揃え終わりました」
先輩「お、早いじゃん。内容はどんな感じ?」
私 「A社が出しているレポートによると、○○市場の規模は2020年で2500億円、2025年には3200億円になるとされています。業界の主要なプレイヤーはB社、C社、D社の3社で、この企業群で市場シェアの80%を占めているとのことです」
先輩「あれ? 私がさっき見ていたレポートだと、この市場の規模は2020年ベースで3400億円になっていたよ。ほら、ここ。あとさ、とある業界の人に聞いたところ、この市場ではE社というプレイヤーがここ数年成長していて、2020年時点でだいたい市場の25%シェアを持っているはずなんだけど、それに関する記載ってなかった?」
私 「え、市場規模全然違いますね。あと、E社のことはレポートの中で記載がありません」
先輩「そうか……これからどうしたら良いと思う?」
私 「……それぞれの情報がありました、と伝えるのはどうでしょう」
先輩「『どれが正確なファクトか掴むのが君の役目だよ』と(冷たい目で)言われて終わりだと思うよ。自分の頭で考えなきゃ」
私 「ですよね……」
いかがでしょうか。以上はGoogle検索に限ったほんの一例ですが、みなさんも情報収集や活用において、思い当たる節があるかもしれません。
本書では、情報収集・情報活用全般について、私が経験したようなみじめな思いをみなさんがしないように、具体的な方法とコツを精一杯お伝えします。
“巨人”を味方につける
私がやったことの大半は他人の模倣である。
サム・ウォルトン(世界最大の小売チェーン・ウォルマートの創業者)
さて、情報収集とは、つまるところ「他人の知識や知見、感覚に頼ること」だと私は考えています。人間一人でゼロから行うと、とてつもない量の時間や労力が必要になる時に、先人たちが蓄積してきた知識・知見やその分野のプロフェッショナルが持っている情報に頼り、それを集めることで、より短い時間で精度の高い意思決定ができたり、適切な行動が取れるようになる、それが情報収集の意義です。情報収集は、人間の知の蓄積や体系を活用することで車輪の再発明を防ぎ、私たちが「巨人の肩に乗る」ことを助けてくれる、そんな行いだと思います。
情報と付き合って生きるには、現代はとても悩ましい時代です。200年前であれば情報の記録装置は紙か人の頭にしかなく、情報を引き出すためには、紙を読み込むために保管場所に赴くか、情報を持つ人を探し対面で会いに行くしかなかったでしょう。しかし今では、デジタルツールの拡大により、保存される情報量も圧倒的に増加、私たちのような一市民が情報を探したり実際に触れてみるのも簡単になりました。「情報洪水」「情報過多」等の言葉に代表されるように、たくさんある情報の中からどのように必要なものを見つけ出すか、そこに至るか、という部分で工夫が必要になってきています。
肩に乗るべき巨人をどう見つけ、いかにそこに上り、そこから見える景色をどう意思決定や行動に活かすのか。この問いとみなさんが向き合うお手伝いができればと思います。
私は、これまでのキャリアでずっと「どうやって価値ある情報・ファクトを掴むのか」「得られた情報をどのように活用するのか」というテーマに向き合って(苦しんで)きました。大学院修士課程修了後に入社したボストン・コンサルティング・グループでは、「様々な情報源から得られたファクトをいかに統合し価値ある行動示唆を生み出すか」という問いに、その後移った博報堂グループのスタートアップスタジオ・quantumでは「アイデア発想を促す情報とはどのようなものか」「そのような情報をどう集めるか」という課題に、デジタルヘルススタートアップのエンブレース社では「限られた予算・時間・人員の中でどうやって情報収集を進めるか」「限られた情報の中でどう意思決定・行動に繋げるのか」ということに頭を悩ませ続けました。
このような悩みは、企業組織や個人としての意思決定と向き合うみなさんの中でも、広く起こっているのではないでしょうか。私自身、2018年に独立・起業して以来、プロジェクトをご一緒している大企業やスタートアップ、NGO、行政などの方々から情報収集や調査に関するお悩みや課題感を共有いただく機会が多くなりました。そんな中で2020年夏に開催した情報収集・リサーチに関するオンラインセミナーは想定の3倍、1千名以上の方に申し込みをいただき、改めて情報収集やリサーチに関する企業人の方々の悩みの深さ、広さを痛感した次第です。
この本では、外資コンサル、クリエイティブ企業、スタートアップの中で私が身をもって培った情報収集、リサーチの知見・ノウハウを余すところなくお届けしたいと考えています。前提となるフレームワークや課題設定の方法から、今日から使えるハウツー知識まで、実際のケーススタディなども含めつつ、活きた知識をお届けします。
「知っている」を超えて「できる」へ
最初にお伝えしておきたいのですが、情報収集においては、すべてを解決してくれる銀の弾丸的な手法やツールはありません。既に誰かがまとめて世に出してくれたメディア情報やレポートは、みなさんの問題意識に応えるために書かれたものではないし、調査会社にアンケート調査やインタビュー調査を依頼して個別対応してもらったとしても、そのレポートに知りたかったことがすべて載っているわけではありません。
情報収集のツールや手法を考える上で重要なのは、その「深さ」と「組み合わせ」です。
例えば、同じGoogle検索という手法でも、それを行う人によって、そこで得られる情報の幅や深さには大きな差があります。先ほど書いた通り、私がまだ新卒一年目で情報収集のイロハもわからなかったとき、何時間もGoogle検索をして見つけられなかった情報を、先輩コンサルタントはわずか数分で見つける、ということが何度もありました。また、コンサルティングファームでは、とある流路から得られた情報を他の方法で検証する、他から得られた情報と足し合わせることでより深い示唆へと繋げるといった行動が日常的に取られています。どんなツールややり方、情報源でも、それをどの程度使いこなせるか、他のどんなものと組み合わせるかで、結果として生み出される価値は大きく変わります。
本書の中で取りあげる個別のアイデアには、さほど目新しいものではないものも含まれています。「そのやり方やサービスはもう知っているよ、使っているよ」という方がいらっしゃれば、「それをどんな風に使い込んでいるのか、どんなものと組み合わせて使っているのか」そんな視点で読んでいただくとためになるかもしれません。そのツールの深さや他のものとの組み合わせは、文字通り無限にありますから。
前提:情報そのものが価値を持つことはない
本論に入る前に前置きが長くなってしまい恐縮なのですが、情報との向き合い方のお話も少しだけさせてください。そんなことはいいから早く情報収集・活用の話を、という方は、ここを読み飛ばしていただいて、第1章以降に移っていただいても大丈夫です。
市場調査やリサーチを主業のひとつとしている私ですが、クライアントの中には、「他社がまだ知らない情報を取りたい」とおっしゃる方がたまにいます。そう口にしないまでも、「他者・他社に先んじて情報を得る、より豊かな情報を持つことこそが現代において競争を勝ち抜く重要な要素だ」こう思っていらっしゃる方は多いと感じます。
私は、情報そのものに価値はない、少なくとも情報自体の価値は下がり続けてきたし、今後も下がり続けていくと考えています。それは、インターネット社会の拡大等により、多くの人がこれまでアクセスが難しかった情報でも安価かつスピーディに得ることができるようになっているためです。おそらく15世紀の大航海時代のような状況であれば、自分が知っていて相手が知らない情報を元に商売をすることで大きな利益を生むことができたでしょう。しかし現代において、自分・自社しか知らない情報は限られており、それを他者・他社が得る手段も多く準備されている状況です。
問い:それでもなぜ情報収集は大切か
さて、情報の価値が下がるのであれば、情報収集の価値も同様に下がるのか。
私は、そうではないと思います。これからの情報収集の価値の源泉は、収集した情報そのものではなく、情報収集をすることの向こう側「情報を活用して思考と行動を進化させる」ことにあるはずです
⃝昔:情報を「自分だけが知っている」ことを前提に、その情報の非対称性を活かした行動をとる
⃝今・これから:情報を「自分だけが知っているわけではない」ことを前提に、その情報について、意味や物語のレベルまで自分なりの解釈を行い、行動に反映する
『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)などの著作でも知られる研究者・事業家の西内啓さんは、物事を考える、ということについてTwitterでこんなことをおっしゃっています。
個人的に「自分の頭で考えましょう」というよくある言説は限界があって、やはり「自分の頭で調べて試して考えよう」までがセットであるべきだと思う。批判的思考含め調べられること、調べた結果の不十分なところを実際に試せることを抜きにして「考える」だけでは大した判断はできない。
この本を手に取って下さったみなさんは、必ずしも経験が豊かで、事実認知も十分にあり、深く構造的に考える訓練を存分に受けてきた方ばかりではないと思います(だからこそ、このような本を手にとっていただいているはずです)。自分の中に経験や貯め込んだ情報がないのであれば、ただ考えるだけではなく、まずは調べることがしっかりと考えることの前提になります。それなしに、価値あるインサイトを生むことはほぼ不可能です。
考えること、考え抜くことは、ビジネスパーソンとして価値ある活動を行うために必須です。しかし実際に「自分の頭で考えろ!」「ちょっと〇〇について考えてみてよ」と言われたときに、腕組みをして歩きながら考えを進展させ、依頼者を満足させる考えを生み出せる人は稀でしょう。多くの人には、情報収集が必要なはずです。そんな思考のための情報収集が、この本における主題です。
現代の問題:情報収集と活用のアンバランス
情報収集に関するセミナーや講演会に呼ばれることがあります。その中でいただくお困りごとは大きく2つの方向性があります。
⃝情報をどう集めたら良いかがわからない
・ そもそも情報収集についてどこから手をつけていいかがわからない
・ 欲しい情報のイメージは明確だがどうすれば情報が取れるのかがわからない
・ Google検索やインタビュー調査等を行うものの欲しい情報を得ることが難しい 等
⃝集めた情報をうまく活用できていない
・ 情報はたくさん手元にあるものの、資料や製品への反映方法やまとめ方がよくわからない
・ 情報をまとめて上司や同僚に提示するものの、内容がうまく伝わらない
・ 考えていたアイデアや事業内容に似たものを情報収集の中で見つけると、そこで諦めてしまい、自らの思考の進化のために情報を使えない 等
先述の通り、情報単体が価値を持つ時代は終わりを迎えようとしています。(あるいは、もう終わっているのかもしれません)そのため、漫然と情報を収集するだけでは、その行為自体は無駄になってしまうでしょう。
私は、そんな無駄が嫌いです。不完全な情報収集で適当な意思決定をすることも、だらだらと情報収集を続けて意思決定しない状態も、せっかくお金と時間をかけて集めた情報を活用力不足で見捨ててしまうことも嫌いです。情報は、無駄なく効率的に集め、目的と意図を持って前進するために活用してこそ意味を持つのです。
みなさん個人や所属している組織がより効率的・効果的な情報収集・活用を行い、関わる人がハッピーになるような意思決定、行動へと一歩を踏み出していくことを願っています。本書がその一助となるのであれば、こんなにうれしいことはありません。
(第1章に続く)
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いかがでしたか?
もし皆さんの問題意識に合うようであれば、ぜひ本編も読んで頂けるとありがたいです。Kindle版の発売ももうすぐ。ぜひ皆さんのためになればと思っています。
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