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神戸からのデジタルヘルスレポート #96(遠隔患者監視(RPM)/特定疾患管理)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

2022年は、昨年2021年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信を予定しています!

今回はRPM(Remote Patient Monitoring:遠隔患者モニタリング)と特定疾患管理をテーマに紹介します。

1. Gathermed:RPMエンドツーエンドサービス

企業名:Gathermed
URL:https://www.gathermed.com/
設立年・所在地:2020年・ニューオーリンズ
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

GatherMedは、患者の生理学的データを任意のデバイスからリアルタイムで取得し医療チームへ連携できるエンドツーエンドサービスを提供しています。生理学的データとは、動脈血酸素飽和度(SpO2)、血圧、HRV、体重、体温、ECG、睡眠データ等の患者状態を測るデータを指します。特定のデバイスでデータ取得できるサービスは他にもありますが、GatherMedでは特定のデバイスを限定しておらず、任意のデバイスからデータ取得ができます。また、患者の同意取得・オンボーディング、服薬管理等の管理リマインダー機能も備えています。画期的。

下記は実際にGatherMedを取り入れているサービスを表現しているのですが、宇宙服のイラストで表現しているのがなんとも可愛く面白いです。

独自のデバイスもつくっています。1人患者あたり$25/月、思ったよりも高くないです。任意デバイスで利用する場合も同じ金額。

動画もシンプルでわかりやすいので、ぜひ。

2021年2月には、Skylight Health(以下、Skylight)と提携して高血圧患者対象に保険償還のできる遠隔患者モニタリング、患者オンボーディングを開始しています。米国では成人の45%以上、約1億3500万名もの人が高血圧で苦しんでいるそうです。ゆくゆくは高血圧と関連する心疾患にもこのモニタリングサービスを拡大できるのでは、と考えているみたいです。手始めにSkylightが新たに買収したワシントンクリニックからデバイスを発売し、全国で12万人の対象患者に拡げていくとのこと。

*Skylight Health:遠隔医療に対応した独自の電子健康記録システムの提供をしているヘルスケアテクノロジー企業。複数のクリニック(医療機関ネットワーク)も有しており、プライマリケア・サブスペシャリティの医療サービスを患者に提供。

創業自体は2020年ですが、GatherMedチームは何十年も医療診断分野でテクノロジー開発をひた走ってきた最強チームだそう。救急医、心臓病専門医、エンジニア、ファイナンスのプロ等、様々。

Data Bridge Market Researchのレポートでは、2020年から2027年の予測期間に8.76%のCAGRで成長すると推定されています。Research 2 Guidanceという別のレポートでも、パンデミックの影響で国の医療制度と地方自治体が遠隔医療サービスの障壁を減らす努力を進めていると補足。パンデミックでRPMの動きが加速していますね。

2. Qardiax:血圧モニタリングウェアラブル

企業名:Qardiax
URL:https://qardiax.com/
設立年・所在地:2020年・ニューヨーク
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Qardiaxは、血圧・心拍を測定するモニタリングデバイス&アプリを提供しています。ウォッチ形式のウェアラブルとパッチデバイスがあり、装着することで血圧や心拍等のバイタルを測定します。従来のデバイスでは、ユーザーが休んでいる間(つまり動かない状態)の短時間しか血圧を測定できず、もしユーザーが測定前に移動したり、話したり、コーヒーを飲んだりすると、結果が不正確になっていました。Qardiaxは、ユーザーがアクティブでもに血圧がどのように動作するかについての正確なデータを収集することが可能となっています。いつでもモニタリングできるようになっているので、心臓発作の前に異常検出もできるのでは、と期待されているそうです。

アプリをダウンロードすることでデバイスと同期し、測定した記録をユーザーも見ることができます。また、アプリ上で体重や体温等の患者の全体健康状態を定点観測(アンケート形式)でき、ユーザーの全体状態を記録していきます。AIアシスタントも搭載されていて、ユーザーの生活習慣改善のためにアドバイスしてくれます。

モニタリング記録はダッシュボード化されて医師やケアチームに連携されます。患者本人もアプリ上で記録を確認することができます。

こちらの動画で使い方を詳しく説明しています。約5分程です。

QardiaxのポータブルECGデバイスが心房細動(AF)の検出にも役立つかもしれない、という研究結果も発表しています。今後、心疾患の事前検出・モニタリングの技術が加速していきそう。

3. FlowView Diagnostics:白血病患者モニタリング

企業名:FlowView Diagnostics
URL:https://www.flowview.eu/
設立年・所在地:2020年・アムステルダム(オランダ)
直近ラウンド:Pre-Seed(2020年5月)
調達金額:N/A

FlowView Diagnosticsは、白血病患者の血液の状態をモニタリング&アラートする、臨床意思決定支援プラットフォームを提供しています。
急性リンパ性白血病(ALL)の治療目標は、白血病細胞の根絶(total cell kill)なのですが、抗がん剤の投与や根治切除手術後でも、患者の体内にまだがん病変(細胞)が残っていると推測されています。この治療後の病変=微小残存病変(MRD:minimal residual disease)を重要な予後因子の指標として、モニタリングできるような技術を開発しているのがFlowView Diagnosticsです。

オランダのユトレヒト大学病院とラドバウド大学に所属する研究者と臨床医がこのアルゴリズムを開発しています。オランダではMRDモニタリングを必要とする白血病患者が毎年3,000人以上いるんだとか。

従来、MRDの検出はMulticolor flow cytometry(MFC)と呼ばれる化学物質とレーザーを用いた手法がとられていますが、手動で、かつある程度のトレーニングを積んだ人でないと検出できないようです。そのため、利用できる人の範囲が限定され、かつ手動なので結果の正確性が担保できないという側面があります。

FlowView Diagnosticsでは、この属人的スキルに左右されてきた検出方法を自動検出可能なアルゴリズムにしています。患者の検体データを自動処理してくれる上、その数値が危険なのかどうか標準化されたデータを用いて判断し、アラートを出してくれます。ソフトウェア上で可視化されているので見やすいため、医師は、MRDモニタリングによって血液と骨髄にまだ存在する白血病細胞の数を把握し、再発の可能性を診断しながらMRDを少しでも減らす治療を行えるようになります。白血病患者の予後改善が期待できそうですね。

ヨーロッパのヘルステックベンチャーキャピタルNLCがベンチャーパートナーとしてチームにジョインしています。(NLCは創業してから40ものヘルスケアベンチャーのポートフォリオを形成実績あり)

4. Recon Health:仮想ケアパッチ

企業名:Recon Health
URL:https://www.reconhealthai.com/
設立年・所在地:2020年・ペンティクトン(カナダ)
直近ラウンド:Seed(2021年7月)
調達金額:N/A

Recon Healthは、貼り付けるだけでユーザーの心拍数や心拍変動、血中酸素飽和度等のバイタルサインを自動測定することができるケアパッチを開発しています。エッジコンピューティングと組み込みAIが搭載されており、医師はいつでもどこでも、患者の状態をモニタリングすることができます。貼るだけなので、ユーザーにとっても負担がかなり少ないですね。

対象疾患領域は呼吸器系、心疾患系、そして認知症だそうです。

生体認証系のハード&ソフトウェア開発企業XCO TechとAIウェアラブル開発企業Atlazoによる合弁会社としてスタートしています。

2021年12月には中核体温を測定できるパッチを公開、世界初。中核体温とは、体の臓器の温度のことで、通常の皮膚表面温度測定よりも個人の健康状態を判断するためには重要な指標だそうです。

5. EnlitenAI:てんかん管理AIシステム

企業名:EnlitenAI
URL:https://enlitenai.com/
設立年・所在地:2020年・トレーシー
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

EnlitenAIは、神経疾患の管理および治療を目的としたウェアラブル&クラウドAIツールを開発しています。NeuroLitenと呼ばれるウェアラブルを使用して患者のバイタルパラメータを監視し、AI / Analyticsを用いてどのような治療が望ましいかを医師へ提供します。

てんかんは予期せず突如発作が起こる疾患です。かつ、てんかん発作時の状態によって治療方法が変わりますが、突如起こるが故に発作時の記録が難しい疾患でもあります。NeuroLitenはバイオマーカーとして記録する機能も搭載されているので、医師らケアチームの診断/意思決定に大きく作用しそうです。

主に「てんかん」に焦点を当てていますが、自閉症やADD、行動・睡眠障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、その他の神経疾患にも拡張できるのでは、と期待されているそうです。

なぜ「てんかん」に焦点をあてた神経系疾患のシステムを開発しているのか、その背景は創業者の2人自身がてんかん患者家族の当事者であることが大きく影響しています。

創設者兼CEOのHimanshu Misra(イリノイ大学)は、ご子息がてんかん持ちです。また、てんかんに係る発作等の神経系疾患に20年以上携わっているベテランでもあります。共同創設者兼CTOのNavaneeth SeshadriMSもてんかん患者家族の当事者であり、ふたりともAI/機械学習、IoT分野での立ち上げ経験者。ふたりの原体験とキャリアが接続して出来上がったのがEnlitenAIといえます。


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