神戸からのデジタルヘルスレポート #99 (癌・がん・オンコロジー領域)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
2022年は、昨年2021年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信を予定しています!
今回は「がん領域」をテーマにご紹介します。検査テクノロジーから治療系まで、幅広く取り上げます。
1. MedicaMetrix:前立腺検査の新デバイス
MedicaMetrixは前立腺検査機器のイノベーションに取り組んでいる企業です。
もともとは既に操業停止している同名の会社が開発していたデバイスの権利を現MedicaMetrixの創業者が買い取り、2020年に法人化されたばかりです。
初期診断~定期健診まで、治療のプロセス全体を通して利用できる前立腺の体積測定デバイス、ProstaMetrixを提供しています。ProstaMetrixは2020年9月にISO認証、2021年9月にはCEマークを取得しています。
デバイス自体は直腸診(DRE)の+αとして使えるようです。
血清前立腺特異抗原(PSA)や画像診断などの結果と組み合わせることで、前立腺の状態をより正確に診断できるようになり、擬陽性や偽陰性のリスクが減らせるとのこと。また、生検を行うかどうかや薬物療法などその後の治療方針を決める際の手助けにもなります。
一番正確な生検は組織を採取する検査なので患者さんへの負担大、かといってPSA検査だと確定診断はできない、といった現状でもう一つ数値指標が増えることはかなり有意義に思えます。
2. OncoPrecision:腫瘍の薬物反応解析プラットフォーム
OncoPrecisionは”腫瘍学の民主化”を掲げ、がん治療薬の決定を支援する機能アッセイを開発しています。
一口にがんと言っても、腫瘍の種類や進行度合いはケースバイケースです。それゆえ薬の種類も多く、場合によっては作用の異なる薬を組み合わせて処方されることもあります。
OncoPrecisionのプラットフォームは、患者さんの腫瘍細胞の一部を採取して培養し、いろいろな薬の組み合わせを体外で試してみることで薬物反応パターンを解析、独自のアルゴリズムにより薬物活性を可視化してくれます。
近年NGS(次世代シーケンシング)技術により、一度に大量のゲノムを解析できるようになったことでひとりひとりに合った治療が進んでいます(=がん治療の個別化)。
ただ、ゲノム分析だけでは対象が分子標的療法に限定されてしまうというデメリットが。一方で機能アッセイは個々の薬に対する細胞の反応に重点を置いているもので、化学療法全般と一部の免疫療法をカバーしています。
機能アッセイに目が行きがちですが実は培養技術が高く、全ての分析が7~10日で完了できるとのこと。臨床実験では6人中3人の「処方された薬が効かなかった患者さん」を予測できたほか、適用外薬(オフラベル医薬品)がベストチョイスという分析結果が出たケースも。となると製薬や臨床試験などへの応用も期待できるかもしれません。
見るからに人が良さそうな創業者はもともとはコルドバ国立大学の研究者で、会社自体もスピンオフ的な側面があります。チームにも細胞生物学や免疫学の若手研究者がずらり。事業内容とは無関係ですが女性のメンバーがかなり多い(!)。
↓こちらはCEOが概説している動画です。
3. MiMARK:子宮内膜がんの新たなバイオマーカー開発
MiMARKは子宮内膜がんの新しいバイオマーカーを開発・診断キットとしての臨床実装を目指しています。
EUとアメリカでは毎年900万人の女性に不正出血があり、そのうちの10%が子宮内膜がんであると言われています。子宮内膜生検(ピペル生検)がポイントになるわけですが、この方法では感度が高くなく、診断が不正確な場合があるそうです。より侵襲的な検査手法に移行する前に、負担は少なく精度の高い結果を出せるような診断ツール「WomEC」の開発を行っているのが同社です。
WomECは子宮内膜がんに特異的な5つのタンパク質バイオマーカーから構成される抗体検査で、
2024年のローンチをめがけて現在はプロトタイプ開発中ですが、2016年と17年にそれぞれ特許を取得してがっつり研究を行っています。
↓スペイン語オンリーですが開発風景はこんな感じ。映っているのはスピンオフ元のバルデブロン研究所で、創設メンバーはここの出身です。現在はパートナー関係にあります。
4. Abdera Therapeutics:α線を用いた次世代がん治療の開発
Abdera Therapeuticsは難治性のがんの治療法を開発している企業です。カナダのライフサイエンス系ベンチャーadMare BioInnovations社によって立ち上げられた子会社で、α線でがん細胞だけを選択的に破壊する特殊な抗体を使ったTAT(標的核医学治療)という新しい治療法を開発しています。
健康な細胞を温存できるので副作用が少ないほか、特に再発したがんや転移性・難治性といった従来の治療では予後が良くなかったタイプのがんへの適用が期待されています。
Abderaの技術の強みは、がん細胞を集中的に攻撃する「アクチニウム225」という放射性同位体に最適化された独自の ”モジュール式放射性免疫複合体プラットフォーム” で、これをベースに幅広くスピーディーな開発を行っていく、とのこと。 (このプラットフォームが実際に体内で機能するものを指すのか、研究開発用のデータプラットフォームを指すのかよくわからない)
立ち上げ元のadMare BioInnovationsに加えて、University of British Columbiaのスピンオフで抗体発見のAIツールを提供するAbCelleraという企業ともパートナー関係にあります。こちらの会社もクールなのでぜひチェックしてみてください。
TATは次世代型がん治療として注目度も高く、推定される市場規模も莫大なので今後も業界全体の動向に注目です。
5. AI Talos:サーモグラフィー+AIで乳がんスクリーニング
AI TalosはAIによる乳がんのセルフスクリーニングアプリを提供している企業です。
統計上、乳がんはアメリカの女性の8人に1人が発症するそうです。そしてとにかく早期発見が大事な病気です。
TalosCamという赤外線サーモカメラと同期することで、胸部の画像からリスク判定をしてくれます。AI Talosは機械学習とディープラーニングによりサーモグラフィーの異常を見つけることに特化しており、画像をアップロードするとAIがそれを細かく分割して分析します。だいたい30秒以内で結果が出るそう。10段階評価で8-10が危険ゾーンということみたいです。
この検出技術は現在特許を申請中。会社の研究チームとして論文も発表しています。
”自撮りぐらい簡単”と謳ったこのツールですが、乳がんのスクリーニングで「手軽さ」はものすごく大切です。女性の方なら共感されると思いますが、乳がん検診を病院で受けるとなると検査は相当痛いしもろもろさらけ出す必要があるので心理的なハードルが高いんです。もちろん診断には病院の検査が必要ですが、その前段階として写真を撮るだけで疑わしい点がないかチェックできる技術は早期受診を促す効果的な一手になりそうです。
こちらの紹介動画も短いのでぜひどうぞ。
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