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「子の連れ去り」に関する政府見解

1 概 要

 2020年11月25日に、海江田万里衆議院議員が衆議院議長に提出した質問主意書について、内閣総理大臣から同年12月4日付けで、衆議院議長あてに答弁書の送付がありました。

 そこで、次のリンク先(衆議院ホームページ)にあるのは、質問書、答弁書それぞれ別様式でしたので、改めて、一問一答方式に直してみました。(漢数字も算用数字に併せて修正)

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/203036.htm


2 質問主意書及び政府答弁書(一問一答形式)

衆議院議員海江田万里君提出欧州連合欧州議会本会議より、我が国での子の連れ去りに関する決議が採択され、「子どもへの重大な虐待」と強調されたことに関する質問に対する答弁書

【質問前文】我が国は、米国務省より所謂ハーグ条約に基づく義務の不履行国に認定されております。国連の児童の権利委員会より、両親が離婚後も「共同養育権」を行使できるよう、勧告されております。そして、本年7月8日、欧州議会本会議は、我が国での親による子供の連れ去りから生じる子供の健康や幸福への影響について懸念を表明し、我が国に対して、ハーグ条約を履行し、「共同親権」を認めるよう国内法の改正を促す決議を賛成多数で採択しました。これらを受けて、以下質問します。

【質問①】平成29年の人口動態統計の確定数(厚生労働省)によると、およそ3組に1組が離婚し、毎年20万人以上の未成年の子供が親の離婚を経験します。離婚後の単独親権制度を採用する我が国では、離婚に伴う子供の親権・監護権争いを優位に進めるために、婚姻中における一方の親の同意なしでの子の連れ去り別居とそのあとの親子引き離しが絶えません。往々にして、弁護士が子の連れ去りを指南していることも多く、欧州議会本会議はこれらを問題視しております。第185回国会(臨時会)参質第18号でも、同じことが議論されており、チルドレンファーストの考えで、離婚後の単独親権制度を見直す考えはありますか。

【政府答弁①】父母の離婚後の親権制度の在り方については、現在、法務省において、子の利益を最優先に考える観点から、検討しているところである。

【質問②】子供と会えなくなった別居親の中には自殺を選ぶ者も後を断ちません。兵庫県明石市は地方自治体として、積極的に離婚後の親子関係の維持に取り組んでいます。各地にて、現状を改善したい多くの別居親が、陳情・請願を試みています。少子化対策と同様に政府は、離婚後の親子関係の維持に前向きな見解を地方自治体に向けて示すべきだと考えます。政府の見解を求めます。

【政府答弁②】お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、法務省では、父母の離婚後の子の養育に関し、養育費及び面会交流に関する合意書のひな形及び記入例を掲載するなどしたパンフレットを作成して、全国の市町村等において離婚届の用紙と同時にこれを離婚をしようとする者等に配布することができるようにするなどの周知活動に取り組んでいるところである。


【質問③】内閣府は両親揃った育児を重要視しております。例えば、里帰り出産などで母親が産まれたばかりの子供と共に実家に留まり、母親が母方の祖父母と共に子供を独占する、挙句に離婚を主張して離婚となった場合、育児の意思を持つ父親は何もできない実態があります。厚生労働省の児童虐待の定義よりネグレクトについて、所謂児童の権利条約も考慮して、「一方の親の同意なしでの両親揃った育児放棄」を含めることを提案します。政府の見解を求めます。

【質問④】「同居親の別居親に対する嫌悪感や恐怖感と病的に同一化して別居親を疎外ないし拒絶する現象」は、「片親疎外症候群」と呼ばれています。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD11)に「ParentalAlienation (片親疎外)」が精神及び行動の障害の分類インデックス(QE52)に記載されいるため、子供の疾病にもあたります。生労働省の児童虐待の定義より心理的虐待について、児童の権利条約も考慮して、「片親疎外」を含めることを提案します。政府の見解を求めます。

【政府答弁③④】御指摘の「厚生労働省の児童虐待の定義より」、「「一方の親の同意なしでの両親揃った育児放棄」を含めること」及び「「片親疎外」を含めること」の意味するところが明らかではないため、お尋ねにお答えすることは困難である。なお、児童虐待については、児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)第2条において、保護者がその監護する児童について行う同条各号に掲げる行為をいうものと定義されており、保護者の行為が児童虐待に該当するかどうかは、当該定義に照らし、個別事例ごとに判断されることとなる。


2 最後に、ひとこと感想

 今回改めて読んで感じたことは、過去の嘉田由紀子参議院議員等の質問主意書に対する政府答弁と比べても、目新しい答弁内容は皆無であったということです。

 では、この海江田議員の質問主意書の提出に意味がなかったかというとそんなことはなく、むしろ大きな一歩であったと考えます。

 大前提として、海江田議員への陳情に関わっていただいた当事者の皆さまの賜物ではあることは言うまでもありません。そのうえで、海江田万里議員は民主党政権下にあって、経済産業大臣、経済財政担当大臣、民主党代表などの要職を歴任されるなど、その政治キャリアから現・立憲民主党の重鎮であり、東京1区という日本の中心の選挙区からの選出議員でもあります。

 その海江田議員がこの質問主意書を提出していただいたことは、親権制度を所管する法務省当局に対する大きなプレッシャーになるばかりではなく、国会内のパワーバランスにおいても、立憲民主党内における共同親権・共同養育に対する議論の進展が期待されるところであります。(この質問主意書提出を契機に、海江田議員は共同養育支援議員連盟に入っていただいております。)

 個人的には、質問主意書中に「子供と会えなくなった別居親の中には自殺を選ぶ者も後を断ちません。」との文言が入っていることにも大きな意義があると考えます。親子の絆という「無償の愛」を断絶することが、日本の家事制度の運用において黙認されている現状に対して、大きな警鐘を鳴らしている一文であると考えております。

 拙文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。(合掌)

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