見出し画像

午後の曳航 (著)三島 由紀夫 「逞しい肉体」と「反発or急落」

「読めば、投資の幅が拡がるかもしれない小説」
私が都合よく小説の内容を脳内変換して、株式投資(トレード)に関連する暗喩が含まれる作品を紹介していきます。

移動平均線タッチ銘柄 小説
「逞しい肉体」と「反発or急落」

 株式投資(トレード)をして、最初に覚えたテクニカルな指標が”移動平均線”という人は多くいると思います。(一定期間、その終値の平均を折れ線グラフに表したもの)。移動平均線で株価の足跡を辿り、今後はどのように推移していくのか予想することはひとつの楽しみになります。

 株価が移動平均線にタッチすると、売買のシグナルが点灯して相場が読みやすくなります。また短期の移動平均線が中長期の移動平均と交差をすると株価が反落or反発の勢いが増します。高い水準まで上り詰めた株価は、いずれ勢いを失って落ちてきます。実社会において評価が高い人間が、それを永遠に維持し続けるのは容易ではありません。

『午後の曳航』には評価の高い人間が徐々にその評価を落としていく場面があります。人の評価や企業の株価は、常に偏見に満ち溢れています。良いことをしても評価を落とす時もあります(前年比で業績を伸ばしている企業の株価が落ちるように)。反対に、悪いことをしても評価を上げる人もいます(大きな損失を出した企業に対して、悪材料でつくしと株価が暴騰するように)。

 評価や株価が落ち続けるとある転換点を迎えるはずです。そこで持ち直すのか、そのままどこまでも落ちていくのか? どうなるのでしょう。株価は上がるか下がるかの2パターンしかありません。しかし、それは無限の2パターンです。

あらすじ
船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実からの挑戦であった。登は仲間とともに「自分達の未来の姿」を死刑に処すことで大人の世界に反撃する――。少年の透徹した観念の眼がえぐる傑作。

引用元:(著)三島 由紀夫 (作品名)午後の曳航 (新潮文庫)

興味深いところ
 三島由紀夫のイメージを人に訊くと、その人のパーソナリティが少しわかる気がします。拒絶反応を起こす人、熱意を帯びて語り出す人、距離をとる人、小説の素晴らしさを伝えてくれる人……。世の中にはいろんな人がいるなと痛感できます。ご存知の通り、著者について、小説だけを語るにはアンバランスなぐらい豊富な人間性と思想の持ち主です。

 しかし、ここでは「小説」×「投資」ですので割愛させて頂きます。(他にもっともっと詳しい情報が書籍やネット上にたくさんありますので、そちらをどうぞ)

 まず毎度ながら、新潮文庫の裏表紙のあらすじは書きすぎていると思います。ほとんど内容がわかってしまいます。

 著者の物語には、冒頭から終わりにかけて、キャラクターの心が動いていない作品は皆無と言っていいぐらいです。成長、あるいはひねくれてしまった感情、様々あるが上下を繰り返す株価チャートのように一進一退揺れ動いています。

 この小説の主人公である登は、個人投資家のように船乗り竜二に惚れています。株式投資でいうならば、買っています。序盤から竜二の逞しい肉体に魅せられた登は心酔していくのです。著者特有の美文で描かれたその文章は、詩的で唸るような箇所が多々あります。

 竜二に憧れを抱き、登自身も船乗りの象徴ともいえる大きな鉄のアンカーの刺青をしたいと思っていたほどでした。しかしその後、母と竜二の濡れ場を目撃したことを起点に彼の評価が急落します。

 実際の株価と移動平均線が大きく乖離をすると、また移動平均線に引き寄せられるように。雲行きが怪しくなっていく中、「首領」の異名を持つリーダー格が登場します。これがまたあらぬ方へ株価を誘導するような奴です。

 落ちていく先には、移動平均線が無表情に待ち構えているのです。


紹介文
 登は硬い心を自慢にしていたから、夢の中でさえ泣いたことがなかった。海の腐蝕に抗し、船底をあのように悩まず富士壺や牡蠣とも無縁に、いつも磨かれた身を冷然と、港の泥土の、空瓶やゴム製品や古靴や歯の欠けた赤い櫛やビールの口金などの堆積の中へ沈める、大きな鉄の錨のように硬い心。……彼はいつかじぶんの心臓の上に、錨の刺青をしたいと望んでいた。

引用元:(著)三島 由紀夫 (作品名)午後の曳航 (新潮文庫)

 著者の作品はどれも素晴らしいものですが、この『午後の曳航』はふと思い出して身震いするときがあります。『午後の曳航』の他にも著者の作品には、少年がメインで話が展開する小説があります。それでも『午後の曳航』が私の記憶にくっきりと刻まれているのです。小説を読んでいるとキャラクターに対して、無意味な注文をしたくなるときがあります。こうした方がいいのに、なぜそんな行動をするのか? とかです。『午後の曳航』を読んでいるとそんな感情を強く持ちました。

 どうすることもできず、引き寄せられるように全てパーツが移動平均線に収束していくのです。強い引力を感じます。

 ラストへ向かう過程が計算されたものではなく、14歳にも満たない生身の未熟な精神のはためきによって自然と流れていきます。

 自由落下していく物体が地上に接触する直前の恐怖、スローモーションになったとしてもそれだけです。ただただ、硬直して傍観するしかありません。

著者紹介
三島 由紀夫
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。’47(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される

「BOOK著者紹介情報」より


こんな人におすすめ
・テクニカル分析タイプ
・長期投資家
・短期投資家

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?