片腕 (著)川端 康成 「借りた片腕」と「貸株」
「読めば、投資の幅が拡がるかもしれない小説」
私が都合よく小説の内容を脳内変換して、株式投資(トレード)に関連する暗喩が含まれる作品を紹介していきます。
信用取引 銘柄 小説
初めて”空売り”をしたとき、その融通性や汎用性の高さに驚きました。”空売り”はただの投機ではなく、資産を守るためのヘッジ手段としても有効です。
(現物株を保有せず株を借りて高値で売り、株価が下がった時点で買い戻して利益を得る信用取引の一種)
あまりに有効な武器のためその仕組みをわかっていないまま、信用取引を繰り返すといつか大きな損失を出してしまう可能性が高くなります。(この場合、頭では信用取引の仕組みを理解しているが、そのリスクについて実感していないという意味です)
一般信用取引であれば期限は無制限ですが、制度信用取引の場合は6ヶ月であったり、信用取引は株式を借りているので金利もかかります。そのほかにも細かいルールがあります。
一番厄介なのは、信用取引とわかっているにもかかわらず、その保有株式が自分のモノだと錯覚してしまう点です。あなたは、友人や知人からCDや本、服……そしてお金等を借りた経験があるでしょう。それが短期間であれば問題ありません。しかし、数ヶ月も借り続けていると他人のモノと、自分のモノの境目が曖昧になる瞬間が訪れるでしょう。
頭では、理解していても感覚が鈍くなっていくような体験です。知らず知らずのうちにその感覚は進行して、あなたの所有欲を増幅させていくのです。気づいたときには、取り返しのつかない結果になっていたとしても後の祭りです。
あらすじ
ある娘から「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と言われ、右腕をはずして”私”の膝の上においた。”私”はその片腕を雨外套の中に入れたままアパートに持ち帰る。”私”は片腕と戯れ、会話をしながら一夜を描いた珠玉の短篇。
この作品を読んで、あまりに現実離れをしたシュールな展開が冒頭から始まるにもかかわらず、物語の世界観にすぐに入れました。短いながらあまりに衝撃を受けたので、腕や体の一部分を失った人がどのような感覚になるのか興味が湧きました。
切断された手足の感覚がまだある幻視(ファントム・リム)を主張する人たちを脳科学の観点から書いた『脳のなかの幽霊』/ V・S・ラマチャンドランという本を買ったほどです。(この本も面白いのでオススメです)
ちなみにテネシー・ウイリアムズにも『One Arm』(片腕)という短篇集がありますが、白水社から出版されている本は他の短篇作品である『呪い』というタイトルになっています。訳者は、原題にすると川端康成氏の『片腕』と紛らわしいので変更したようです。それほどこの『片腕』は短いながらも評価の高いものです。
株式投資に慣れてくると、信用取引をしたくなるのはわかりすぎるぐらいわかります。一気に取引の選択肢が増え、えもいわれぬ万能感すら覚えるぐらいです。しかし、いくら信用取引だからといえ制限がないわけではありません。
保証金も必要です。セオリーとして資産の大部分を投資にまわしてはいけないように全体を把握し、常にコントロールする必要があります。レバレッジをかければ、資産は影が伸びていくように高くなります。影は影であり、実態はそのままです。あなたは、あなたの力を超えてはいけない、それはあなたの力ではないと幻聴がするかもしれません。
紹介文
娘は私の好きなところから自分の腕をはずしてくれていた。腕のつけ根であるか、肩のはしであるか、そこにぷっくりと円みがある。西洋の美しい細身の娘にある円みで、日本の娘には稀れである。それがこの娘にはあった。ほのぼのとういういしい光りの球形のように、清純で優雅な円みである。娘が純潔を失うと間もなくその円みの愛らしさも鈍ってしまう。たるんでしまう。美しい娘の人生にとっても、短いあいだの円みである。
引用元:(著)川端 康成 (作品名)片腕 (新潮文庫)
紹介文の描写はさらに続いていきます。普通ならあり得ない状況であるにもかかわらず、妖艶で美しい文章を駆使して惹きつけられます。 全体よりも部分的な性的な執着は、よりマニア性の高いフェチシズムとなって人気を博しています。谷崎潤一郎が書くフェチシズムにも共通する部分がありますが、文章自体は短くスピード感のあるテンポは心地良いです。
人の片腕を借りて悦に浸っていると、足もとを掬われかねません。この美しく幻想的な体験で得られるモノこそ、まやかしの取引であると自覚したとき、あなたに残っているものが何か見えてくるでしょう。
著者紹介
川端康成
1899~1972。医師の息子として大阪に生まれる。両親、姉、祖父母と次々に肉親を失い、15歳で孤児となる。中学2年から作家を志し、東京帝国大学英文科に入学後、今東光らと第6次「新思潮」を発刊。新感覚派の旗手として創作・批評に活躍する。68年にノーベル文学賞を受賞。72年に自殺
引用元「BOOK著者紹介情報」
こんな人におすすめ
・デイトレーダー
・楽観タイプ
・ハイリスク・ハイリターン投資家
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