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ゆすり屋は撃たない (著)レイモンド・チャンドラー 「マロリー」と「新興市場」

市場変更銘柄 小説

「マロリー」と「新興市場」
 同じ銘柄を数年保有していると、稀にビッグIRに巡り合う機会があります。国策で計画される大きな契約が決定したり、長年無配当だった企業が復配をしたり、大企業との合併があったりと様々です。中でも長期投資家として嬉しいのは、市場の変更があります。

 例えば、マザーズやJASDAQに上場していた企業の業績が伸び、東証へ変更されたり、東証の中でも一部から二部に昇格したりです。実際に株主総会では、「御社は、東証一部へ市場を変更する気はあるのでしょうか?」というストレートな質問すら飛んできます。

 当然ですが、市場を変更するにはいくつかの形式的な要件があります。株主数や時価総額、事業の継続年数や純資産の額等です。(詳細を知りたい方は日本取引所グループの基準を検索ください)

 形式的な要件をクリアしたとしても、社内体制が整っていないと簡単にはいきません。市場が昇格されれば、基本的には株主が増えます。個人投資家だけではなく、機関投資家、それも日本だけではなく海外の機関投資家も増えます。

 企業の広報・IR担当者にはより一層の鋭く厳しい質問が投げかけられます。外部に開示する決算情報の資料も英語で作成する必要が出てくるかもしれません。数え上げるとキリがありませんが、それでもやはり企業の発展のためには市場の変更(昇格)はメリットがあります。

 マーケットからは好材料として受けとられますので、株価は大きく上昇することが見込まれます。

 『ゆすり屋は撃たない』の著者であるレイモンド・チャンドラーといえば、探偵”フィリップ・マーロウ”を連想する人が多いのではないでしょうか? ”フィリップ・マーロウ”はハードボイルドのタフな男として、盤石の人気があります。知名度もメジャー級です。小説をあまり読まない人でも聞いたことはあるのではないでしょうか。

 この小説(短篇全集)には、市場昇格前企業のようなキャラクターが複数登場します。キャラクターの確立、その地位に到達する為の下積時代です。”フィリップ・マーロウ”の人格が形成される基礎固めのような作品群です。

あらすじ
 スキャンダラスな手紙を手にした”ゆすり屋”のマロリーは、女優であるロンダ・ファーに1万ドルで買い取ってもらうように持ちかける。手紙が重要なのは受取人のせいだと続け、賭博師や金に目のないならず者といった類の男と接触していることが公になればまずいことになると。

 ロンダ・ファーはあくびをしながら、ボディーガードを呼びつけて立ち去る。そこから事態は急速に動きだす。

興味深いところ
 ハードボイルド、クライム小説は、大沢在昌や北方譲三、大藪春彦、馳星周あたりしか読んだことがありませんでした。それまでは視野が狭く、世界的に有名な文学小説を除けば、日本の小説にしか見えていなかったのです。

 私がレイモンド・チャンドラーに出会ったのは、村上春樹作品の中でした。何度かレイモンド・チャンドラーやその世界観に触れるうちに強く惹かれていきました。そして”フィリップ・マーロウ”に出会い、魅了されました。

 正確にいえば、私(1979年生まれ)より少し年代が上の方から、映画『カサブランカ』や『三つ数えろ』のフィリップ・マーロウ役である”ハンフリー・ボガード”の魅力は何度か聞いたことがありました。その時はほとんど興味を持っていなかったので、聞き流していたのでしょう。

 描写がとにかく分厚い、率直に感じました。人がどう動いたか、その瞬間瞬間を切り抜いています。その反対に心理描写がありません。また、気の利いた台詞、タバコや帽子、ハイボール等の小道具も合わさりハードボイルドの世界観を構築しています。種々のお作法を盛り込み、著者の”これを書きたい”という強烈な意志を感じ取ることができます。

 どの短篇にも”フィリップ・マーロウ”の要素が散らばっています。実際に”フィリップ・マーロウ”という名前も出ます。しかし、そのキャラクターが完成されていないというか、一種の揺らめきのようなものが見えました。

『ゆすり屋は撃たない』に登場する”マロリー”には、本家が持っている余裕が感じられませんでした。すぐに顔をしかめ嫌悪感を現し、陰鬱さもあります。次のステージに行くには、もう1段階寛容さを持つべきと考えたのでしょうか。

 この短篇集の表題作である『キラー・イン・ザ・レイン』は『大いなる眠り』の原型となっていてそこに本来の”フィリップ・マーロウ”が誕生するわけです。企業でいえば、”フィリップ・マーロウ”は最も収益の見込める商品、事業の柱となる存在です。そして経営基盤が出来上がると成長の速度が加速して、市場昇格となります。

紹介文

「痛みは終わってからやってくるものさ。一杯飲むんだな」

 彼は少し歩いて、ふり向いた。「行かなきゃならない。ある男と会う約束があるんだ……花でも送ってくれ。あんたの目のような、野生の青い花を」

 彼はアーチウェイをくぐって出て行った。ドアが開き、重い音を立てて閉まった。ロンダ・ファーはすわったまま長いあいだじっと動かなかった。

引用元:(著)レイモンド・チャンドラー (作品)チャンドラー短篇全集1 キラー・イン・ザ・レイン
 

企業の大躍進の陰には、必ず強力な武器があります。市場を荒らすようなたった一つの勢いでも構いません。それがブランドとして認められると敵はいなくなります。”フィリップ・マーロウ”というブランド戦略がハードボイルド市場を席巻しました。日本のファンを作り、現代においても息が長く人気を博しています。

 新興市場で活躍している企業が飛躍的に業績をあげ、市場昇格する為には何が必要なのでしょうか。主力事業の改善を繰り返すことで、より高い次元へと昇華していくのだと信じています。

著者紹介
レイモンド・チャンドラー
1888年シカゴ生まれ。1933年に短篇「ゆすり屋は撃たない」で作家デビューを飾る。1939年には処女長篇『大いなる眠り』を発表。1953年に発表した『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』で、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長篇賞に輝いた。1959年没。享年70。

引用元:(著)レイモンド・チャンドラー (作品)チャンドラー短篇全集1 キラー・イン・ザ・レイン

こんな人におすすめ
・長期投資家
・ファンダメンタル分析タイプ
・直感タイプ

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