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遠い山なみの光 (著)カズオ・イシグロ 損切り銘柄 小説

「女たちの遠い夏」と「投資リスク」
 あなたが株式投資やトレードを始めた当初、資産が減る可能性があることについて、どれほどリアルに想像ができたでしょうか。私は、けっこう軽く考えていました。経験が大事だから、少しぐらい損しても、失敗してもいい、と。

 資産の分散投資をするために、株式以外にも元本保証の国債や不動産、外貨、ゴールド……等のポートフォリオを組んでいる場合は、ある程度のリスクは回避できるでしょう。しかし、実際には利回りを計算して投資先の選定ができたとしても、それだけの資金を捻出することは容易ではありません。平均的なサラリーマンであれば、株式投資をするだけで精一杯です。

 しかもそれにリスクを伴うわけですから、軽々に決断できることではありません。一旦資金を株式投資に注入してみれば、実現、未実現の利益や損失というのは、体感的にはほとんど境目はありません。投資や会計についての知識があったとしても冷静な判断を失うからです。それまでに貯金した苦労を考えれば考えるほど目が曇り、手が止まります。

 機械のように自身の感情を切り捨てたり、くっつけたりすることは並大抵のことではありません。 

あらすじ
故国を去り英国に住む悦子は、娘の自殺に直面し、喪失感の中で自らの来し方に想いを馳せる。戦後まもない長崎で、悦子はある母親に出会った。あてにならぬ男に未来を託そうとする母親と、不気味な幻影に怯える娘は、悦子の不安をかきたてた。だが、あの頃は誰もが傷つき、何とか立ち上がろうと懸命だったのだ。淡く微かな光を求めて生きる人々の姿を端正に描くデビュー長篇。王立文学協会賞受賞作。『女たちの遠い夏』改題

引用元:(著)カズオ・イシグロ (作品名)遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)


興味深いところ
 著者の小説群に共通するわたしのイメージは、良いものではありません。読んでいていて心がざわつくままです。それは読後の余韻にもなるので、極力読みたいくないというのが正直なところです。それでも時間が経てば、そんな気持ちは薄れていてまた読んでみようと購入します。『わたしを離さないで』を最初に読みましたが、そこで止めておけばいいとすら思うことがあります。

 誤解が生まれないように明言しますが、この小説を”損切り”したいという意味ではありません。決して面白くないという訳ではありません。むしろ気になる布石が多く、続きを読みたくさせるような展開があります。

 しかし、この小説の登場人物の中で魅力的な人物を挙げろ、と言われれば私は躊躇します。彼らは現実世界の私たち同様に苦悩や傷があり生きています。どうしようもない過去や現実のネガティブなものを切り捨てることができません。多くの場合そういった傷を克服して前に進んでいくというのは、とてもセンシティブな問題で容易ではありません。乗り越えることが難しいのであれば、切り捨てるしかありません。

 株式トレードにおいては、エントリーをする前に損切りと利益確定の値決めをして、その方針やルールを徹底的に守る必要があります。取得原価が時価を下回り含み損が膨らんでいく段階で、どうするか判断をしても既に遅いのです。

 放置していれば傷口がどんどん拡大していくかもしれませんし、数ヶ月後に回復するかもしれません。しかし、そんなことは誰にもわかりません。

 短期でトレードをする場合は必ずどこで損失を食い止めるか、損切りラインによってリスクヘッジします。

 この小説の登場人物たちは、”損切り”できずにズルズルと流されるままに人生を彷徨っているように感じるので、私は読んでいて苦しく感じるのです。

紹介文
「でも、わたしはよかったと思ってるのよ。わたしはほんとに……」

「万里子はアメリカへ行っても大丈夫なのに、どうしてそれを信じてくれないの。子供を育てるには向こうのほうがいいわ。向こうのほうがずっといろいろなチャンスもあるわ。女にとては、アメリカの生活のほうがずっといいのよ」

「わたしはほんとに、あなたのことを喜んでいるのよ。わたしのほうだって、今の暮らしは申し分ないわ。二郎の仕事も順調だし、こんどはちょうど欲しいと思ったときに子供が生まれることになったし……」

引用元:(著)カズオ・イシグロ (作品名)遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)


 この小説は『女たちの遠い夏』から改題されて『遠い山なみの光』になっています。私は『遠い山なみの光』の方がしっくりきています。遠くに光(希望)が見えていれば人は進んでいきます。痛みを伴いながら、抱えながらも突き進むことができるからです。

 しかし、本当にそうだろうかと考えることがあります。光は本物なのか、この道を一旦やめて別の道に行くべきか、常に考える手もあるかもしれません。

 著者の小説は「薄明の世界」と表現されています。薄明かりが差し込む中、心地よく歩いているのであれば問題はないかもしれませんが、そうでなければ暗闇を歩くのもいいでしょう。

著者紹介
カズオ・イシグロ
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、5歳のとき、家族と共に渡英。以降、日本とイギリスの2つの文化を背景にして育つ。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。本書『遠い山なみの光』で長篇デビューし、1982年の王立文学協会賞を受賞した。長篇第二作『浮世の画家』でウィットブレッド賞を、1989年には『日の名残り』でブッカー賞を受賞した。1995年の第四作『充たされざる者』につづき、五年ぶりに発表した『わたしたちが孤児だったころ』は、英米でひじょうに高く評価され、発売以来たちまちベストセラーとなった

引用元:「BOOK著者紹介情報」より


こんなトレーダーにおすすめ
・スイングトレーダー
・ナンピンタイプ
・長期投資家

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