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【新釈】走れメロス (著)森見 登美彦 「芽野史郎」と「時代のサイクル」

「読めば、投資の幅が拡がるかもしれない小説」
私が都合よく小説の内容を脳内変換して、株式投資(トレード)に関連する暗喩が含まれる作品を紹介していきます。

現代版 銘柄 小説

 昨今、テクノロジーの進歩によって、様々な企業が新商品・サービスを世に送り出しています。便利な世の中になってきたなあと他人事のように関心するばかりです。常に真新しいものが市場に出回っているかと問われれば、必ずしもそうではありません。このサービス・商品は”なるほど、知っている”と既視感を覚えるものもあります。

 例えば、皆さんご存じのフリマアプリの「メルカリ」です。従来のフリーマーケットは、不用品や再生が可能な商品を、公園や広場で個人が持ち寄って売買する C to C の「蚤の市」と呼ばれるものでした。それをオンライン上で成立させたのが「メルカリ」です。他にも玩具であればたくさんあります。「タカラトミー」は「ベイブレード」という3構造からなる現代版のベーゴマをリリースしてちょっとしたブームになりました。

 こうした新商品・サービスは、既に認知されているものであり親しみが持てます。一旦再燃すると、テーマ株となってひとつの流れを作り、それが大きなトレンドになることもしばしばあります。

『【新釈】走れメロス』は、説明するまでもなく太宰治氏の同タイトルからきています。小説や映画、物語のオマージュやスピンオフ、アレンジ(言い方は何になるのか明確な定義は不明ですが)は、調べ出すときりがありません。

 昔話や寓話、聖書、古典から着想を得た作品なんてものは、あたりまえのように存在します。それは、企業が提供する商品・サービスも同じことです。 

あらすじ
芽野史郎は激怒した―大学内の暴君に反抗し、世にも破廉恥な桃色ブリーフの刑に瀕した芽野は、全力で京都を疾走していた。そう、人質となってくれた無二の親友を見捨てるために!(「走れメロス」)。

引用元:「BOOK」データベースより

興味深いところ
 あらすじにもある通り、本家の『走れメロス』の有名な冒頭と同じです。これ以上にないつかみで始まるわけですから、次の文章を読みたくなるはずです。

 私が初めて著者の小説を読んだのは、山本周五郎賞を受賞した『夜は短し歩けよ乙女』だったと思います。大型の書店に平積みで置かれていて、そのタイトルセンスに惹かれたのを覚えています。このタイトル自体は、歌の歌詞からとられているようでしたが、小説の内容は近代文学を現代版にアレンジしたエンターテイメント性がありました。

『【新釈】走れメロス』の短編にも個性的なキャラクターのエピソードがいくつかあります。それらはほとんどが他人から見ると滑稽であり、へっぽこですが著者の筆力、語り口にユーモアとは別の文学的な表現が光っています。さらりと読める娯楽の底に、知性がベースとなっていることがわかります。

 この短編集自体も文豪の過去作品を現代版に置き換えて書かれているため、端々にリスペクトを感じます。しっかりと原作を著者独自の視点で読み解かれた痕跡がわかります。収録されている短編は『山月記』『藪の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』の5篇です。これらが著者の一番のお気に入りではなく、書きたくなった作品(アレンジしたくなった)ということもあり、勝算があったのかもしれません。

 企業が過去の作品を現代版にアレンジした結果、爆発的に成長するケースがあります。それらの企業が提供するサービスや新商品の中には、マーケット自体を根底から破壊するようなものもあります。例えば、Amazonは当初オンライン書店でしたが、今では生鮮食品すら取り扱っています。

『【新釈】走れメロス』には数々のオマージュやアレンジ作品とは一線を画す強烈な差別化がされています。

 長官に少しでも刃向かえば、初恋の想い出、恥ずかしい趣味、生協食堂における釣り銭のごまかし、「ヨリを戻してくれ」と泣いて元カノに土下座した事実など、ありとあらゆる秘密が全学部の掲示板に貼りだされる。図書館警察長官の行くところ、屈強な男たちがキャアキャア泣いて逃げ惑うという。

「これは恐怖政治なのだ」

 部員たちはぷるぷる震えた。

引用元:(著)森見 登美彦 (作品名)【新釈】走れメロス (祥伝社)

 紹介文のようなキャッチーさは、文学作品の堅苦しさをとっぱらい若者やエンタメ小説愛好家の心をうまく掴みました。それでいて、文学をこよなく愛する層に対しての配慮あるベース知識が受け入れられたのでしょう。


 ジャスダックやマザーズにIPOするスタートアップ企業の中には、過去のものをうまくアレンジして、現代版の要素を掛け合わせるクロス戦略をとっている企業もあります。海外ではユニコーン企業も多く誕生しています。

 こういった企業は見つけるのは至難の業ですが、投資先としては応援のしがいがあり、うまく成長することは投資家冥利につきます。テンバーガーも夢ではないと、そういった淡い期待を胸にいただき続けたいです。 

著者紹介
森見 登美彦
1979(昭和54)年、奈良県生れ。京都大学農学部大学院修士課程修了。2003(平成15)年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。2007年、『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞。2010年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞する。ほかの著書に『四畳半神話大系』『きつねのはなし』『新釈 走れメロス 他四篇』『有頂天家族』『美女と竹林』『恋文の技術』『宵山万華鏡』『四畳半王国見聞録』『聖なる怠け者の冒険』『有頂天家族 二代目の帰朝』『夜行』『太陽と乙女』『熱帯』がある。

引用元:新潮社


こんな人におすすめ
・ファンダメンタル分析タイプ
・長期投資家
・新興市場投資家

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