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サンクチュアリ (著)ウイリアム・フォークナー 「ポパイ」と「恐怖指数」

VIX 小説

 市場関係者だけではなく、誰が見ても世界経済全体の危機を感じる場面があります。察知するのは毎日経済ニュースをチェックしていれば誰でも可能です。しかし、その事象がどれほど株式市場に影響を与えるのか、それを高い精度で当てられる人はほとんどいません。機関投資家やアナリストがよく公表している予想株価も非常にばらつきがあり、素人でも言えるようなレンジを提示している事例もあります。

『サンクチュアリ』の冒頭には、ポパイという人物がまず登場します。彼がこの小説の恐怖指数をコントロールするのであろうと、私は察しました。それもそのはず、手には拳銃を持っています。その後にベンボウという弁護士が登場。

 物語は、確実によくない方向へいくのであろうと鼓動が高鳴ります。

 投資やトレードをしていると、危機察知能力やリスク回避能力が嫌でもあがります。痛い目に何度も遭遇しているからです。

 VIX指数はそういった、恐怖を表す指標です。様々な人が怯え、最悪の事態を予想をすると、株価は乱高下します。その変動率を表したものです。

 書き出しの数ページで、肌感覚で伝わる未曾有の非常事態が起こるであろうと思い、私はページを進めていきました。

あらすじ
 ミシシッピー州のジェファスンの町はずれで、車を大木に突っこんでしまった女子大生テンプルと男友達は、助けを求めて廃屋に立ち寄る。そこは、性的不能な男ポパイを首領に、酒を密造している一味の隠れ家であった。女子大生の凌辱事件を発端に異常な殺人事件となって醜悪陰惨な場面が展開する。ノーベル賞作家である著者が”自分として想像しうる最も恐ろしい物語”と語る問題作。

引用元:(著)ウイリアム・フォークナー (作品名)サンクチュアリ (新潮文庫)
興味深いところ
 この小説を読もうと試みた人は、内容にある程度の前情報を持っていたからだと思っています。著者のウイリアム・フォークナーはノーベル文学賞の受賞者であるし、「サンクチュアリ」は代表作のひとつでもあります。

 私は日本の繊細な小説とは異なる、刺激的なものを読みたい時期に出会いました。事前に予習していただけあり、冒頭から緊張感が走りました。これは恐怖指数が高いとすぐに悟りました。どんな凄惨で、心を乱されるのかと期待してページをめくりました。有名なシーンを予め知っていたからです。不安の細波はずっと立っていました。しかし、これはという決定的な恐怖を得られずに私は最後まで読んでしまったのです。 

 正直なところ、1回読んだだけでは、この小説の恐ろしさ、奥に潜む折れ曲がってしまった欲望を理解することができませんでした。恐ろしいでも、この程度なのか? いや違う、これはフォークナーの文体と翻訳によるものだと、自身に言い聞かせていました。暗喩や暗示が多く、直接的な描き方がされていなかったからです。

 残念ながら私には文学的な読解能力が足りていなかった、そう結論付けました。それにフォークナーの作品を読む上での、予備知識が足りていませんでした。

 著者の生い立ちや、なぜ「ヨクナパトーファ・サーガ」と呼ばれる架空の街を舞台にした作品を描いているのか? そして『サンクチュアリ』が他の作品、例えば『響きと怒り』『八月の光』『アブサロム、アブサロム!』といった作品群と異なり、注目を集めるため? に描かれた「扇情的な恐怖物語」と世間に評価されていました。

 小説を読むとき、その著者に少しは興味を持っていました。それでもこの著者の作品を読むには、著者のバックグラウンドを理解するのが先だと感じました。

 世界的な経済恐慌が、株価に直撃するときVIX指数は跳ね上がります。なぜそこまで投資家やトレーダーは怯えているのか? その背景を探らなければ、紐解くことはできません。

 物語全体を覆う恐怖指数が誰に起因するものか? それはギャングの首領であるポパイなのか? それともヨクナパトーファ・サーガという架空の地に流れる根底の不条理な暴力なのか?

 この古来変わらぬ悲劇の世の中から腫瘍をさっぱり取除き、焼き捨てしまえばいい。そしてぼくもだ--なぜってぼくらはみんな孤立しているからだ--彼の頭に浮かぶのは眠りの長い廊下を吹き過ぎていく柔らかな暗い風、絶えまなく雨の響く低い安穏な棺の下に寝ている自分は悪、不正、涙から逃れた自分。

引用元:(著)ウイリアム・フォークナー (作品名)サンクチュアリ 

(新潮文庫)
 株式市場が悪意に満ちたものであるか、わかりません。少なくとも私はそうは思いません。確かに悪意が感じられる場面もありますが、全てではありません。一方的な搾取や、身を守るため、誰かを陥れようとしたり、ある銘柄への偏愛、希望、様々な感情が入り混っています。現在では、アルゴリズムが勝手に過去のデータから統計予測をしている部分もあります。それでもその背景には、人がいて将来の不安に怯えています。

 『サンクチュアリ』を読むと、そんな不条理な恐怖を切り取った一面が映るのです。

著者紹介
ウイリアム・フォークナー
米国ミシシッピ州生れ。曾祖父は鉄道建設者・政治家・作家として知られた人物。第一次世界大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピ大学に入学するが退学、職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(1929)、『サンクチュアリ』 (’31)、『八月の光』(’32)などの問題策を発表。米国を代表する作家の一人となる。’50年にノーベル文学賞受賞した。

引用元:(著)ウイリアム・フォークナー (作品名)サンクチュアリ

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