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箱男 (著)安部 公房 「箱男」と「オンライントレード」


「読めば、投資の幅が拡がるかもしれない小説」
私が都合よく小説の内容を脳内変換して、株式投資(トレード)に関連する暗喩が含まれる作品を紹介していきます。

個人投資家 小説
「箱男」と「オンライントレード」
 あなたが株式投資(トレード)したきっかけがなんであるか、思い出して下さい。誰かに勧められた、会社の確定拠出年金の資産運用で興味を持った、仕事柄財務分析をする延長線で株式投資に至った、人それぞれあると思います。もしかすると証券会社に勤めていてそのまま脱サラをして専業トレーダーになったケースもあるかもしれません。

 専業の投資家(トレーダー)あるいは専業ではないにしろ、株式投資をしようと選んだのは”あなた自身”であることはほぼ間違いないと思います。仕事以外で、強制的に株式投資をやらされているような状況にもないはずです。

 実際に株式投資を始めてみるとその孤独さを感じた人もいるでしょう。私は株式市場にエントリーして瞬時に切り替わる株式注文画面の板情報に圧倒されました。株式銘柄の売買注文と数の気配がわかる板情報は、短期トレーダーにとって死活問題になる程重要なものです。

 無機質さの中に自分が注文した株価と数量が文字情報として映し出されています。そこには、私の注文が特別なものではなくただ事実としてあるのみです。注文すべては匿名性に満ち溢れて、そこにアイデンティティはありません。画面の外で板に食いつきながら見ている私がいるだけです。異様な空間だと感じました。

 この『箱男』という小説は、非常に解釈が多く存在します。誰がどのように解釈をしたとしても正解も間違いもないと思うことができる作品の一つです。オンラインで証券会社の売買注文画面に飛んだ時点で、自分の存在証明ができなくなり刻一刻と変動する数字の渦に飲み込まれるだけです。

 箱男が箱を精緻に作り、その中に入るとき初めて株式市場にエントリーした時の感覚が蘇りました。

あらすじ
 ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されていく、実験的精神あふれる書下ろし長編。

引用元:(著)安部 公房 (作品名)箱男 (新潮文庫)

 実験的精神とあるように、困惑しながら私はこの小説を読みました。いや、この小説だけではありません。著者の小説は一回読んですんなりと納得できるものが少ないです(私の読解力の乏しさを露呈することになりますが)。しかし、それでも著者の小説には他の作家にはない独創的な視点が多くあり読んでみたくなるのです。

 魅力の一つにディテールの深さがあります。私が初めて読んだ小説は『砂の女』ですが、砂地の描写が淡々とマニアックに続きます。この小説も同様に箱男がかぶる箱について、材料は何を準備してどのように進めていくのかの製法まで仔細に描写しています。実際に安部公房氏が作ったのだと思わせるような、こだわりが見えます。(実際に作ったのかは知りません)

 世界観の説明や、設定はSF小説のそれです。著者は世界的にも有名なSF作家でもありますが、『箱男』については、SF小説どころかどのジャンルに属するものなのか頭を抱えます。不条理、シュールという安易な言葉で片付けられません。

 箱男は浮浪者とは違う、というくだりがあります。しかし、職業に就かず、住所不定で、名前や年齢すら証明できないという共通点があります。

 2005年ぐらいから定職に就かずに株式トレードやFX等で生計を立てる”ネオニート”と呼ばれる人種が現れました。彼らには住所や名前他、自身を証明できるものが揃っています。それでも、個人投資家や”ネオニート”、そして「箱男」には共通する何かを感じられずにいられませんでした。

紹介文

 箱男にとっての、箱の意味を、軽く考えすぎている。強がりなんか言っているわけじゃない。ただの強がりで、三年ものあいだ箱生活を続けたり出来るものか。甲殻類のヤドカリだって、いちど貝殻生活をはじめると、胴から後ろが殻に合わせて軟化してしまうので、無理に引き出されると千切れて死んでしまうということだ。ただ元の世界に引返すためだけに、箱を脱いだりするわけにはいかないのである。箱を脱げるのは、昆虫が変態するように、それで別の世界に脱皮できる時なのだ。

引用元:(著)安部 公房 (作品名)箱男 (新潮文庫)

 莫大な資金を注ぎ込み、企業の保有株式割合が5%を超えるようであれば、大量保有報告書として開示されます。しかし、ほとんどの個人投資家はそんなことはありません、市場に与える影響は軽微です。板情報の上では、やはり匿名性の高い存在であることには変わりません。

 箱男は、段ボールの中の覗き窓から世間を見ています。箱の中は、現実世界と隔たりのある異世界であり、仮想空間ともいえます。そこから見える景色は、通常のモノとは確実に異なるはずです。(同じ場所で”箱”をかぶって見るのと、そうでないのは) 

 バーチャルな空間の中で、高いリスクを取りながら匿名性のある存在である個人投資家。箱男は複数存在し、箱男になろうとした経緯は人それぞれです。箱男にもそれなりのメリットがあり、それを考えると堂々巡りのスパイラルに陥ります。

 株式トレードをしているとき、板情報を覗くと「箱男」の心境に一歩近づいた気分がします。 

著者紹介
安部公房
東京生まれ。東大医学部卒。1951 (昭和26)年、(壁)で芥川賞受賞。’62年発表の『砂の女』が読売文学賞、フランスの最優秀外国文学賞受けたほか、戯曲「友達」の谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』の読売文学賞等、受賞多数。’73年より演劇集団「安部工房スタジオ」結成、独自の演劇活動を展開。’77年には米国芸術科学アカデミー名誉会員に推され、海外での評価も極めて高く、急逝が惜しまれる。

引用元:(著)安部 公房 (作品名)箱男 (新潮文庫)


こんな人におすすめ
・個人投資家
・短期トレーダー
・ビギナー

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