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2024/05/27 #10 〜グッドフード、グッドライフ〜

朝、事件が起こる。

いつものように7:30前に家を出て、最寄りの駅に向かった。通学ルートは、中心地から少し北に外れた郊外の駅から、いわゆる都会のど真ん中まで20〜30分ほど電車に乗る。そこからは歩いて20分学校まで南の方に降って行く。最初のコマは、9:00からだからゆっくり歩くにしても、30分程度は余裕を見て家を出ているのだ。

いい天気。最寄りの駅まで気持ちよく歩き、プラットフォームで電車を待った。すると、今まで聞いたことないアナウンスが流れた。珍しいなと思い、注意深く聞きながら、ふと電光掲示板を見ると、電車が全て、最寄りから2駅先までしか行かない表示になっているではないか。アナウンスでも同様に、不具合のため中心部には行かないという旨の話をしている。

困ったな。電車以外での通学はしたことないし、なんならプラットフォームにもう入ってしまっている。電車自体は、程なくしたら到着したため、とりあえずと思い乗り込んだが、しばらくすると、「次の駅で降りるのがおすすめです。中心部へのバスならこの駅からが良いです。」とのアナウンスが流れた。

このまま乗っていても仕方がないし、電車に乗っていたほとんどの人がそこで降りるようだったので、自分も同じように下車。他の乗客と同じように、バス停を目指した。初めての駅だったが、幸い、バス停は改札を出たすぐのところにあったので、迷うことはなかった。しかし、そこにはとんでもなく長い行列。

これバス乗れるか?という疑念をそっと頭の片隅に置いて、他に選択肢もないことからバスを待ってみることにした。この時点で、1コマ目の遅刻はほぼ確定である。しばらくすると、バスが来たには来たのだか、案の定、乗れたのはせいぜい数十人。最初のバスで自分の番がまわってくることはなかった。

ここでアイルランドのバス事情を話しておくと、バスは基本的に手を挙げないと止まってくれない。たとえ、バス停に立っていたとしてもアピールをしないとスキップされてしまう。そして何よりも困るのが、時間通りには来ない。よく遅れるし、よく消えるのだ。

だから自分は通学の時、中心部の駅から歩くようにしている。そっちの方が時間の換算がしやすいし、確実だからだ。(ちなみに電車はちゃんと来る)

そんなアイルランドのバスだが、最初に来て以降、めっきり来なくなった。時計に目をやると、1コマ目は遅刻どころか、出席すら厳しそうで、ヘタをすると、10:45からの2コマ目にも遅刻する可能性が出てきた。

他に選択肢はないのだろうか。2周目にして、2コマとも欠席は流石に嫌だ。藁にもすがる思いで、Googleマップを開くと、電車マークの横に、歩きマークが表示されていた。なんとなくタッチしてみると、目的地までは約9km、2時間と10分の距離と表示が出た。

9kmで2時間10分か。

余談だが、自分はよく走っていた。走るのが趣味で、3kmだったり、5kmだったり、時には10km走ることもあった。同じような趣味を持っていたらわかるかもしれないが、そういう人間には、頭の中の選択肢に、「10kmくらいだったら歩けるなぁ。走ったら1時間くらいだし。」が常に存在しているのだ。

時刻は既に8:30。1コマ目はもう諦めるとして問題は、2コマ目。これには絶対に出席したい。バスは次いつくるのか、来たとしても乗れるのかわからない。距離は約9km。自分の足であれば、2時間で着く。天気は快晴。

俺は歩いた。いつもはゆるゆるのニューバランスの紐をきゅっと締めて。朝っぱらから9kmを。


途中で、並んでる隣の人に声をかけて一緒に割り勘してタクシー乗るとか、あえて逆側に進んでみて、並んでないバス停に向かうとか、色々解決策が思い浮かんでしまったが、もはや関係ない。歩き始めてしまったのだから。

自分が乗る予定だったバス、3台くらいに抜かされた時は、数学でも一番めんどくさい解法を使いがちだったとろくさい自分を思い出し、少し泣きそうになった。

でも関係ない。己の脚力を信じて、歩き始めたのだから。後悔のない選択なんて人生にはないのだから。

もちろんある程度進んだら、違う路線のバス停からバスに乗る選択肢もあったが、その時点ですでに頭の中では、「2コマ目に間に合いたい。」ではなく、「交通費ケチりたい。」という趣旨になっていた。


結局、2コマ目には余裕をもって間に合ったし、交通費もかからなかった。この選択が正しかったのかはわからないが、確実にいい運動になったし、頭の中に「アイルランドでも9kmくらいなら歩けるなぁ。2時間で着くし。」という選択肢ができた。


歩き終えた自分の心はどこか晴やかだった。今日のアイルランドの天気のように。


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