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37万字を書くひみつ 徹底した調査に裏付けられたリアリティ

みなさんを創作沼に引きずり込むべく、すでに創作を楽しんでいる、いわば楽園の住人たちにインタビューをするこの企画「エデンの住人たち」。
インタビューは創作初心者のマシュマロ見習いが行っています。

「エデンの住人たち」第2回はクノさん(@CupsoupAx)にお話を伺いました。2ヶ月で37万字を書き上げ、一部では「文字工場」とも呼ばれているクノさんは、どのようにして小説を書き、楽園での生を謳歌しているのでしょうか?

「エデンの住人たち」を最初から読みたい方は以下の記事からどうぞ!

基本情報

クノさん @CupsoupAx

アカウント:@Tompa_Kodosnap@KunoOfThunder(Twitter)
クノ(pixiv)
使用ツール:Googleドキュメント(テキスト)、In Design(字組)
お気に入り印刷所:OneBooksSTARBOOKSプリントオン

創作のきっかけ

ーーまずはじめに、創作のきっかけを教えてください。

クノさん(以下敬称略): 一番最初に意識的に創作をしたのは小学二年生でした。恐ろしいことに実はまだ現存しています……(笑)。

具体的な記憶はないのですが、おそらくTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)をやっていたことがきっかけではないかと思います。
もっと幼い頃からTRPGをやっていて、キャラクターを演じる、キャラクターの物語を考える、ということによく触れていました。

実際のゲーム以外でも、なりきりごっこはとてもやりましたね。レゴをキャラクターに見立ててお人形遊びする内容がラノベめいていたりだとか。

ーーそんなに幼い頃から創作をしているのですね……!
現在のようにインターネットに公開することによって、他者評価との間にジレンマを感じることはないのですか?

他者評価とのジレンマ

クノ: あります。僕が書く小説の題材は、特に二次創作においてはメイン路線から外れることが多いです。たとえばカップリングのない小説をよく書くのですが、少数派なのかな、と。

同人誌の話ですが、ショップに行ってもカップリングで分類されているのを見ると、とてもそう感じます。よりたくさんの人に読んでもらいたい! という欲求は強くあるので、時々より多くの人に好まれやすそうな感じのものを書こうかな〜と思うことはあるんです。

もちろん書きたいものの中で多くの人に好まれそうなものがあるときは良いのですが、そうでない時は悩んじゃう。無理して捻り出すよりはいつもの作風で書いた方がいいような……でも多くの人に読まれるものを書きたい……というジレンマ

とはいえ、いつも最終的には自分の作風を大切にするようにしています。やっぱり、書きたいものが書きたいので。無理して書くのは、自分に対しても読者に対しても得がないな〜という気もしています。

ーーどうやってそのメンタリティに辿り着いたのですか?

クノ: メンタリティ、まだ完全獲得したとは言えないです(笑)。今でもフラフラしてしまいますので、周囲に助けられて軌道修正することも多いですが……。

それでも最終的に自分の作風を大切にすることを選べるのは、開き直りが大きいですね。いわゆる「ウケそう」なものを書いたとしても、本当にウケるかどうか解らないし。むしろそれでウケなかったときの方がダメージがでかい(笑)。なら最初から書きたい方を書こうと。

やや後ろ向きな理由な気もしますが、とにかく「書きたいものを書く」というゴールに向けての理由づけなので、思い切れればなんでもいいかな、と思っています。

ーー自分を曲げてまで書いたものが必ずしも好まれるわけではない……。開き直りという言葉は明るいですが、ご自身が大切にしているものと向き合うことを決めた覚悟を感じますね。
創作をしていて1番嬉しい瞬間はいつですか?

創作をしていて1番嬉しい瞬間

クノ: 自分が書いた作品についての解釈を語ってくださったときが一番嬉しかったです。

僕の作品は、割とかっちり答えを出さないエンディングであったりとか、要素をあえて残していくことが多いんですよね。そこをどう感じたか、何を考えたか……ということを教えてくださると、とても嬉しいです。それだけ自分の作品に心を砕いてくださったということなので。これは言葉だけに限らず、絵にしてくださった方もいらっしゃるので、それも含めています。

ーー相手の心の内に入っていけるというのは小説に限らず創作の大きな魅力の一つですね。
具体的な創作方法も教えていただけますか?

小説の書き方

クノ: まず、『キャラクターや世界観の自分が描きたい設定』・『書きたい場面』・『結論』を先に決めます。これは、『出発点』・『経由地』・『終着点』と言い換えることもできます。描きたい設定(キャラクターや世界そのもの)が最終的にどうなるのか。それが結論、つまりオチです。そして、書きたい場面は必ず経由すること。……必ずはしなくてもいいんですけど、したいですよね!? そうすると、その道筋、シナリオはある程度縛られてきます。

むしろ縛りがあることによって、自由なシナリオが作れるという考えです。ルールや制限がなければ、どうしても決まったパターンに陥ってしまいますね。『設定』『場面』『結論』が問題なく通るには、どのような出来事があればよいか……ということを考えてプロットを立てていきます。最終的な作品では時間軸がバラバラになることもありますが、最初は時系列に沿って出来事を書いて整理します。でないと、頭がこんがらがってしまうので……(笑)。

ーー「お決まりのパターン」に収まってしまわないように、あえて経由地点を先に決めておくのですね。

クノ: そのあと、読者にどう見せるかを考えて、シーンの順番を検討します。たとえば、事件を犯した主人公が読者にとって謎に包まれていてほしい場合は、事件のシーンは後に回す、という感じです。

ーー普段はどんなツールを使って執筆していますか?

クノ: 最近はテキストを打つのにGoogleドキュメント、字組にInDesignです。

Googleドキュメントは何もしなくてもスマホで見れるので愛用しています。ただし長くなると挙動がおかしくなるので、チャプターごとに区切るなど工夫が必要です。
InDesignはAdobe製品で高価ですが、字組にこだわりがあって、Wordなどでうまくレイアウトが難しい人にはとてもオススメです!

ーーいわゆる「ネタ」はどこからやってくるのでしょうか。

ネタはどこからやってくるのか

クノ: 僕は言語・SF・心理学が特に好きなので、それらの論文雑誌を読んだりします。意外とウェブで読めるものも多くあるので便利ですね。論文というとハードルが高そうですが、こういう事象がある、ということが解るのが重要で、これが取っ掛かりになります。あとは初心者向けの本を探したりして、見つけたネタに関わる勉強をして……という流れが多いです。

また、歴史上の、特に現代に近い事件はたくさんウェブの記事をあさります。のち、気になったものを本で調べなおします。「人間はこういう背景を持った時、こういう行動を起こしうるんだ」という知見をストックしていく感じです。これもリアリティに繋がっているかもしれません。

ーークノさんの作品の魅力といえば不思議な世界観と、それと融合するリアリティだと感じていますが、リアリティはこういったところから生まれているのですね。
ご自身では強みや作風をどのように考えていますか?

強みはリアリティ

クノ: 強みはやはりリアリティでしょうか。キャラクターがそのキャラらしさのまま、現実と地続きで存在している感じ、とお褒めいただくことが多いです。

もともと現実世界に起こった事、起こっている問題をモチーフに使うことが好きで、シナリオの中に多かれ少なかれ組み込んでいくことが多いです。たとえば最近書いたものでは、キャラクターの設定を鑑みて貧困問題や限界集落の問題などをモチーフの一つにしました。その上で、このキャラクターの場合であればどのような形になるか……を考えて書きました。

また、作品の世界観そのものを推しにすることも多くて、その世界にいる一般人が主役になる話を書くことがよくあります(笑)。幸いなことに、それも持ち味として楽しんでいただけています。

作風としては、自分で言うのはなんですが(笑)、もともとかなり独特な作風がありました。
が、その『独特さ』に自覚と自分の表現レベルが全く追いついていなかったんです。

そうなると、友人から感想をもらっても「そもそも意味が解らない」「なんとなくいい感じだけど何を感じていいかは解らない」となってしまって。なんとか、創作する友人に教えてもらったり、他の(二次創作を含めて)作家の分析をしたりして、今は読んでいて意味が解りやすいものにはなったはずです。

こういう人も結構いるのではないでしょうか。それで評価がされずにただ「自分は下手なんだ……」と思ってしまうのはもったいないな〜……とぼんやり考えています。

ーーその悩みを抱えている創作者は多そうですね……。
クノさんはどのようにして「表現レベル」を高めていったのですか?

「表現レベル」を高めるためには

クノ: 表現レベルを合わせる工夫としては、前述の通り他の人がどんな風に書いているかを見るのとともに、とにかくアウトプットをたくさんして公開しました。

どういった文章が表現レベルが高いのか、自分で推敲していくうちになんとなく解ってきましたし、ひとから反応があれば、いい感じに伝わったということが解ります。140字小説を毎日書いた時期があるのですが、個人的にはそれがとても良かったなあと思います。ここではシナリオよりネタと文章の表現が重要になってくるので。

ーー影響を受けた作家はいますか?

クノ: 表現レベルを高めるうえでの参考は、色んな人のものが複雑に絡まっているので絞るのが難しいですね。
でも、一番は『アルジャーノンに花束を』のダニエル・キイスだと思います。だからか、僕の小説も翻訳小説っぽい文体なところがあります。
あと、物語で面白い構造を作ることに関しては、『ロリータ』のウラジーミル・ナボコフの影響も強い気がします。物語の人物が書いている本という体裁の作品(『ロリータ』)や、物語上の人物による詩と、また別の人物による注釈で構成されている作品(『青白い炎』)など、色々やっていいんだ!! と気づかされました。

ーーやはり、インプットとアウトプットはとても重要なのですね。
クノさんは「なんだか書けないな」となってしまうことはないのですか?

書けなくなる時は?

クノ: まず締め切りがある場合は(そして書き始めている場合は)よっぽど完全に書けなくなることはないんですが、疲れていて書けない日があったり、スピードが出ないことはあります。
1時間に書いた平均文字数を時給と呼んでいるのですが、これが落ちると焦りますね。何しろ締め切りがありますから。スケジュール調整などしてなんとかします。

締め切りがなく、特に何か長編を書きはじめていないという時は、なんとなく書けないということはあります。余暇をだらだらと過ごしてしまって。でも、僕の場合はうまく書けないから、という理由より体力・気力的な理由の方が圧倒的に多い気がします。

体力、ほんとーに大事です!

書き続けるためにしているのは、もうほんとに基本的なことなんですけど、食事と睡眠です。文字工場している(=締め切りに追われてたくさん書いている)ときは、逆に睡眠時間と食事の内容をいつもより気をつけます。体調を崩したら余計に進捗がダメになってしまいますので。睡眠時間を確保しつつ書き続けるためのスケジュールを事前に引いておくことを大事にしています。

ーー創造は、体力がとても大切だと見習いも今すごくすごく実感しています……! みなさんも様々事情はあるかと思いますが、ぜひ年末年始は少しでも身体を労ってくださいね……!
クノさんは「浮かばない」ことはあまりないですか?

クノ: 書く前だとうまくネタが思いつかないというのはありますね。そういうときは前述したように色んな資料を漁ります。以前マシュマロちゃんがお話しされていたと思いますが、アウトプットできない時はインプット、ということです。僕の場合は他人の創作物よりノンフィクションをインプットしますが、その辺りは個人個人ではないでしょうか。

あとは、書くのが楽になりやすいコツとして自分の作風、言ってしまえば『芸風』を把握することがあります。

『芸風』把握のススメ

クノ: たとえば恋愛話にしても、付き合った後のいざこざやいちゃいちゃを書くのが好き、付き合うに至るまでのストーリーを書くのが好き……といった風にいろいろありますよね。

『好き』と『得意』が違うこともあるでしょうが、ひとまず好きなものを『芸風』としておいた方が楽しいと思います。つまり、何を書くのが自分の好みなのか! ということを自覚すること。ある種、当たり前に解ることにみえますが、意外とそうでもないように思えます。「自分の話がワンパターンでは……?」と悩む方などがそうで、「それがあなたの好みで芸風なんだから大丈夫だよ!」とお伝えしたくなっちゃう(笑)。

ーー自分の中に軸を持っておくと、迷ったときに目指すべきところがあることでリカバリーがしやすいということでしょうか。趣味で創作をしている方にとっては本来「楽しい」ことのはずですから、自分の好きなこと、していて楽しいことを把握しておくというのは有用ですね。
クノさんは同人誌制作の経験もおありだとうかがっていますが……

同人誌制作の経験

クノ: 同人誌はまあまあな冊数を出していますね。二次創作が多いですが、一次創作もいくらか。二次創作だと最近は大型イベント内のジャンルオンリーに出ていることがほとんどだと思います。

頒布数はジャンルや本によるのですが、大体10〜50くらいでしょうか。そうなるとオフセットは難しいので、オンデマンド印刷を取り扱う印刷所にお世話になります。また、特殊装丁が好きなので、簡単なものなら自分で製本することもあります。印刷としてはコピーになるのですが、楽しいです。

オフセット:版型を用いるため高品質な印刷。その分高価。
オンデマンド:版を使わず、データをプリントするため小部数の時に安価。
特殊装丁:特殊な印刷、加工、製本など、特別な一冊をつくるための特別な仕上げ。箔押しなどが有名。

ーー現在はコロナウイルスの影響でイベントに行けない方、そもそもイベントの開催も難しくなっていますが、いつも通りの日常に戻った際にぜひ多くの人がイベントを楽しめるように、イベントの魅力を教えていただけますか?

クノ: 同人イベントについては、自分にとっては出会いと生の声が一番大きいです。
たまたま近くを歩いて覗きに来た方が試し読みして、「これください!」と言ってくださったとき、本当にイベントに来てよかったなあと思います。

また、本をお渡ししているときに「この前の本が面白くて……」などと雑談で感想を頂いた時もすごく嬉しいです。対面ですと、本を手に入れる『ついでに』お話ができたりすることもあります。個人的にですが、Twitterなどで突然リプライするよりはだいぶ気軽です。読み手の自分としてもそうで、さりげなく「面白かったです」を言うことができるのが良いなあと思っています。

昨今ではなかなか生のイベントに行きづらいです。オンラインイベントも増えてきていますが、状況に応じてどちらも楽しく参加できればいいですね。

ーー直接、しかも気負わず自分の好きなものを作ってくれた方と喜びを共有できるというのは、イベントならではの大きな魅力ですね。
今はオンラインで楽しんで、事態が収束したらまたイベントならではの空気や楽しさをみんなで共有したいですね……!

クノさんには創作の信条はありますか?

創作の魅力とは

クノ: 創作する上での信条は、『とにかくできる限り早く形にしよう!』ということでしょうか。ネタがあっても長く置いておくと、手をつけないままになってしまって……。『いつか書きたいリスト』に入れたままになってしまっているものが数多くあります。

とはいえ体は一つなので、なかなか難しいところはあります。しかもどちらかといえば長編を多く書くので、締め切りが厳しくなり、すごい勢いで執筆を進めなければいけないことが数多くあります。『文字工場』というあだなをつけられました(笑)。

ーー『文字工場』、存じております……(笑)。
クノさんを推薦してくださった方が「文字工場のような方がいるので……!」とおっしゃっていました。
文字工場になってしまうほどの創作の魅力はなんですか?

クノ: 創作の魅力は、自分にとって素敵な世界ができること、それから色んなことを他人に伝えたいという欲求を満たせることです。

話を考えるのはもはやライフワークなんですよね。現実は現実として絶対に存在しているのですが、それとは別に自分の中に自由で好きなものを詰めた世界があるって最高だと思っています。少なくとも生きがいの一つです。

それを形にしたがる、しなくてはと思うのは、先ほど述べましたが、自分の気づきを他人と共有したいのが大きいです。みてみてー! って。
あと、自分と他人って違うじゃないですか。『他人とは違うかもしれない』自分の考えを発表する場という側面もあるかなーと思っています。自己顕示欲強いな!(笑)

ーー好きなものだらけの世界、誰かとそれを共有できる世界というのは多くの方もおっしゃっていますが、なかなか他の趣味では得られない幸福ですよね……!
最後に、まだ創作を始めていない方へメッセージをお願いいたします!

これから創作を始める方へ

クノ: これから創作を始められる方へ。
とにかく気負わず、書いちゃいましょう! 好きなものを好きなように

それで書きたいのに悩みが出てきたら、このような記事など読んで、自分に合うと思ったところを試してみましょう! 

色々お話しさせていただきましたが、全部が全ての人にマッチするわけではありません。違うなーと思うところは「違うなー」でとどめて、使えそうなところをガッツリ持っていきましょう!
それでは、創作の園での生活をお楽しみください。

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ーークノさんはプロットをしっかり組んで創作されるタイプの方だと思いますが、プロットの管理はどのようにしていますか?

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