見出し画像

描写① 説明と描写の違い

描写の要素

描写において考えるべきポイントは、以下の4つだと考えています。

1. 描写と説明の違い
2. 五感
3. 心理
4. 時間

描写と説明の違い

描写と説明の違いですが、厳密に言えば描写も説明の一つです。なので「説明的」「描写的」という2つ方向性を便宜的に示す言葉でしかありません。

で、その方向性の違いは何かを端的に言えば、抽象的具体的かの違いです。たとえば「スマホ」は説明ですが、「そこにいるたかし君がぎこちない手付きでせっせと文字を打つ新型iPhone」としたら描写に近づきます。

両者を区別する方法は簡単です。具体的であるということは作品世界に実体が存在するということですから、それを考えればわかりやすいでしょう。「スマホ」という概念には実体がありませんが、「そこにいるたかし君がぎこちない手付きでせっせと文字を打つ新型iPhone」には実体があるように感じられます。もちろん明確な境界はありませんが、このように「実体があるっぽい」と思えれば描写であると考えて差し支えないでしょう。

すべてを描写で書く必要はなく、適宜説明をしていくべきです。しかし、多くの初心者は重要なところでも描写ができず、どうも内容がぼんやりしていまいます。それではただの「お話」であって、「小説」という特殊な書き方にはなっていないのです。そしてどれほど説明を足しても、そのままでは小説としての情報は増えていきません。

例文を考えてみます。

 彼が私の唇にさわる。

という文章があったとします。これはまさに説明ですね。説明のまま細かくしてみるとどうなるでしょうか。 

彼が右手の指先で私の下唇に4秒間さわる。

実に正確そうな記述です。情報量も一見多そうです。でも、単語が増えたのに何か物足りません。小説としては情報の密度が低いせいです。

次に描写で表現してみます。 

ほっそりとした指先で、彼は私の下唇をそっと撫でていく。

全然違うと思いませんか?  こうやって描写すると、読み手もこのシーンの全体像を描写と同じ細かさで想像してくれます。だから一体どちらの手で触れたのか、何秒間なのかがまったく不明でも、こちらの描写のほうが小説としての情報の密度は高まります。それは読者にとって「より豊かな表現だ」と感じてもらえるということです。

実体を感じさせる描写のコツとしては、「微に入り細を穿つ」です。「面でなく点の連続で描く」と表現したほうが理解しやすい人もいるかもしれません。細かい描写ほど多くを想像させるので、とにかく粒の細かい描写を目指すといいでしょう。詳細をたくさん書くということではなく、虫眼鏡どころか顕微鏡で見るような気持ちで細かい部分を書くのです。そうすると読者は同じ細かさのレベルで他の部分を補ってくれるので、重要なところさえ細かく書いていれば、全体としてはたくさん書かなくても済みます。

というわけで描写について最初に考えるべきポイントは、この説明と描写の違いかなと思います。多くの人がここで躓いているのに、そのことに気付いていないような気がします。

次は「じゃあ細かい描写をするには具体的に何を考ればいいの?」について書いていきます。


目次