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骨と皮だけになった時、私が書きたいものは −映画的な小説を考える−

みなさんを創作沼に引きずり込むべく、すでに創作を楽しんでいる、いわば楽園の住人たちにインタビューをするこの企画「エデンの住人たち」。
インタビューは創作初心者のマシュマロ見習いが行っています。

「エデンの住人たち」第9回は竜原さん(@tatuhara)にお話を伺いました。TRPGでサークル活動もされている竜原さんの小説についての考えを掘り下げています!

竜原さんが活動するサークル「喫茶食堂」では現在クトゥルフ神話TRPGのシナリオ集などを公開しています!
気になる方はこちらをクリック!

「エデンの住人たち」を最初から読みたい方は以下の記事からどうぞ!

基本情報

アカウント:竜原(@tatuhara
booth:竜原
執筆ツール:プロット… Simplenote/Dynalist
      本文…一太郎/Word/Evernote
お気に入り印刷所:ちょ古っ都製本工房(装丁はあまりこだわり無し)

マシュマロ見習い(以下見習い):まず最初に創作のきっかけを教えていただけますか?

創作のきっかけ

竜原さん(以下敬称略):小学校低学年の頃に、超見栄を張って親に買ってもらった高学年向け児童書「シャーロック・ホームズの冒険」の「赤毛連盟」という話を読んでめちゃくちゃ感動して「自分もこんな面白いものを書きたい!」と思ったのが最初でした。

そんなこんなで小学校の頃に最初に書いたのは、幼馴染のイケメン探偵と主人公のお嬢様助手が殺人事件が起きるという島にある屋敷へ向かい、殺人事件に巻き込まれるなんちゃってミステリーものでした。

文章力が小学生!っていう感じで味わいがあったのと、トリックが「殺人現場の屋敷には地下通路があってそれを使うとアリバイ工作になる」みたいな力技だったのが思い出深いです。ちなみに夏休みの宿題で提出したところ、担任の先生は「せっかくだから」と新聞社のコンテストに出してくれたそうなのですが見事落選しました。いい思い出になりました。

見習い:生徒の熱意を大切にしてくれる素敵な先生だったのですね!

竜原:その後は見様見真似で作ったウェブサイトで作品を発表し始め、今も続いています。ソシャゲのログインボーナス一週間も続かない私が唯一、十年以上継続している大事な趣味です。

ゲームシナリオのほうは長い入院を強いられた時に当時ニコニコ動画で流行っていたリプレイ動画を見て「こんな映画的なことが許されるのなら私はシナリオが書きたい!」となったのがきっかけで、しばらくは機会に恵まれなかったのですが……偶然にもTRPGを友人が教えてくれたので、亜音速でルールブックを買って半ば書くためにやりはじめました。

見習い:この後の小説の作風のお話でも「映画的」というワードがでてきますが、創作の1番の源は映画にあるのですね。やはり目指す作風は「映画的な小説」ということになるのでしょうか。

竜原:自分の小説もゲームシナリオもどちらかというと「読む映画」なんじゃないかと思います。ゲームシナリオは読むだけじゃなくて実際にプレイすることになるので本当に「映画俳優」になれるタイプのシナリオなのではないかと。

作風は「読む映画」

竜原:私自身映画がすごく好きで洋画をよく見るのですが、映画のいいところは風景や音楽がついてくる総合芸術的な面があるところだと思っています。そして実際目で見て音で聞くので、入り込みやすい。展開も壮大で、大げさなシーンもあるけれどもグッとくる絵面、見どころがある。

そういうところを目指しているし、目指しているからこそ作風にも強く現れているんじゃないかな~……と思っています。いや~、何年経っても何回書いてもやっぱり雪降る夜の遊園地の観覧車のテッペンでキスする推しCPは見たいので……。そういう「絵面の高いシーンをやりたい」気持ちも忘れずにいたいです。

丁寧に糸を織り込んでいくような仕事をする純文学系の書き方はひっくり返っても出来ないのですが……私のは時にジェットコースターのようなスピードで、ロマンチックなシーンとともに、食べてるポップコーンがちょっと美味しく感じるような作品になってたらいいなと思います。

気づいたきっかけは、中学の頃に友達と話していた時に「きみは描写を読んでいて風景が詳細に浮かぶ。映画みたいだね」と言われたことでした。その当時は「映画か。確かに好きだけどなるほど」ぐらいだったんですが、年月経つに連れて「映画的だ」と言われるようになって、長い時間がかかってようやく「私の書くものは映画的なところがイイところで、これが作風なんだ。私の味わいなんだ」と気づくことが出来ました

実は最近、ゲームシナリオの方で「己の作風」について死ぬほど悩む機会がありまして。「いつものような感じでは本当は面白くないのかもしれない」と思って、自分の癖を全て廃して一度書き直したのですが、それが私をよく知る友人からみたら「きみらしくないね。別の人が書いたみたい」ということになり、「私らしさって何????」となって。

その時に友人に「シーンの盛り方も好きな人はたくさんいるから。きみのやり方で何も間違ってはないから混乱するな」と言ってもらって「ああ、そこも私のいいところなのか」と改めて己の作風を思い出すことが出来ました。

持つべきものは友だなと思います。自分の作品を良くも悪くも正当に評価してくれる友がいるからこそ、「この作風でいいんだ」と思えた一件でした。

見習い:とても熱くて素敵なお友達ですね……!
既に創作をしている方、創作をまだしていない方に伝えたいことはありますか?

創作者、そして未来の創作者へ

竜原:見るもの聞くもの体験するもの全てが創作のネタになるので、アンテナを……と言いたいところですが、そうすると疲れてしまうので純粋に身の回りに有るたくさんのコンテンツを毎日楽しんでください!

そうやって楽しみながら見たものや体験したものは、創作の種になると思います。少しずつ畑を耕して種を植え、長い目をみて育てながら、好きな花を咲かせてください。

これから色々とテクニックをお伝えしていきますが、テクニックは熱量には勝てません。何よりもその「書きたい」という熱を大事に、頑張ってください。

見習い:竜原さんは特に映画に親しんでおり、作風も映画的と称されることが多いとのことでしたね。
少し意地悪な言い方となってしまいますが、小説は結局文字でしか伝えられないために、作者の想定するシーンや場面の構成が読者に伝わりづらい事実があるかと思いますが、注目させたい部分に注目させるために意識をしていることはありますか?

竜原:確かに……!(笑)
それに関してはやはり映像と小説の大きな差だと思います。そこは流石に文章が追いつけない部分でもありますし、文章という形態を取る以上は読み手側の想像力にお任せするしかないのかもしれません。でもだからこそ小説は、色々な読み方があって感じ方があって楽しいのかなと。

映画的に自分の小説を楽しんで頂く為にできることは、そのシーンの舞台装置を心情含めて出来るだけ丁寧に(そしてできればバランス良く……)描写して、脳内再生のお手伝いをするくらいだな~……と最近では思います。

漫画でよくある、「次のページを捲らせるための引きのいいコマを左ページラストに置く」みたいに、次のシーンを早く読みたいと思っていただけるような一文はいつも気をつけているかもしれません。たとえば「この時俺はまだ、アイツの気持ちを全然わかってやれていなかったんだ」みたいな一文がシーンラストに来たら「この後何が起こるんだ……?」って期待して注目してもらえるかなと。

見習い:なるほど、漫画やアニメではよく見る方法ですが、小説でもそれは行えるのですね……!
ページをめくりたくなる工夫は盲点でした! 

竜原:あとは個人的に字の文が詰まっているところに重要な一文を入れても自分が目滑っちゃうタチなので、注目させたい一文の前後はわざとセリフ多めにして紙面で見たときにその一文が読みやすいような段組にしたり……。これは文章テクニックじゃないですけど(笑)

文章を見開きで見たり、WEBで見たときに注目させたいところだけセリフに上手く挟まってたら、パッと開いたときに目についてくれないかな~なんて。

見習い:ついつい、小説ではそういった技法が使えず「中身一本で勝負!」になってしまうのかと思ってしまっていましたが、工夫の仕方はたくさんあるのですね……!

竜原:やっぱり読み物はエンターテイメントなので、テンポの悪さや繋ぎの違和感、冗長なシーンやらで混乱させたり飽きさせたりするのは好ましくないかなと個人的には思います。

自分の書いてるものがすごく「エンターテイメントもの」だという考えがあるので「人に見せる前提」で書いているといいますか……。読み手の楽しみを阻害するものはなるべく置きたくはないなという希望、目標……?理想ですね……。

負荷なく、ただただ楽しんで読んでほしい。動画配信も電子書籍もストリーミング音楽もあるこの世に、素人の書いたものを読んでくれるなんて、それはそれですごい出会いだと思うので。一緒にこのネタで楽しみたい、という気持ちがあります。

見習い:テンポ感を維持するために工夫していることはありますか?

竜原:何日もまたにかけてじっくりストーリー展開するものも好きなのですが、あまり長々しすぎても疲れてしまうかなと思って、出来るだけ回想シーンなんかを使いつつ使用する日数は少なめを心がけています。じっくりストーリー展開させたい話の場合はゆっくり書くのですが、テンポとスピードを重視しているので、ドンドンとマシンガンのように撃っていく……のが自分の理想です。

なので、工夫することといえばできるだけ時系列をはっきりさせることでしょうか……。今が何時であったりいつ頃であったりがはっきりしていると、ちゃんと回想シーンが終わったと分かってもらいやすいかなと個人的には思っています。難しいですね……自分の書きたいものとよみやすさを両立するのは……。

自信がないときには、読み手が置いてけぼりになっていないか試し読みをしてくれる友人を捕まえて読んでもらってます。凄いモチベに繋がるし、「そういう読み方があるのか」「なるほどこういうシーンが刺さるんだな」といい意味で参考になります。

置いてけぼりになっていないかの確認にもなりますし、分かりづらいシーンの話を聞くと修正すべき点がすぐにわかります。 

見習い:他人からの意見を尊重しているからこそ、より「エンターテインメント」な小説になっているのかもしれませんね!
ではここからは竜原さんが普段どのように小説を書いておられるかお聞かせ願えますか?

小説の書き方

竜原:私は完全なPLOTTERなので、プロットが立たなければ長編は書けないタイプです。ツールでいうと「simplenote」や「Dynalist」、もっと昔はそれこそ手書きでプロットを立てていました。

洋画特にハリウッド映画のような話の展開が大好きなので、ダイナミックな展開や舞台構成、背景設定を細かくつめながら、長いときには一ヶ月以上をかけてプロットを立てます。かなり戦略的に計算して作っているところがあるので、割と作成方法のパターンはあるかもしれません。

(1)話の傾向を決める

ラブストーリーメインなのかシリアスなのか、はたまたSFで行くのか。二次創作であればパロディなのか否かは大事なところなので最初に決めます。R-18の有無も。

ここでしっかり「何を書きたいのか」ゲームシナリオであれば「どういうレギュレーションで書きたいのか(プレイ人数や目標プレイ時間など)」をはっきりさせておくことが私にとっては重要で、でないと、プロットを立てる前に必要な要素を詰めるボックスを作れずにブレブレのぐだぐだになります。短編ならいいのですが、長編やゲームシナリオではそうはいかないので、しっかり先を見据えて立てます。

(2)要素を詰める

箱の中に要素を詰めていきます。基本的には「いつ・誰に・どんなことをしてほしい」で一番の見せ場シーンを作ります。最悪ここを起点に前後と背景設定を作り込みます。

ハリウッド映画でいうドデカ爆発シーンです。どんな風に爆発させるのか、なぜ爆発するのか、爆発の規模は……主人公たちには爆風の中車で飛び出してきてほしい……みたいなそういう願いを込めますね……。

ですがここは、ギチギチにやりたいことを詰める過ぎると読む側も疲れてしまうのでいい塩梅にやりたいことを諦めていかなければならないところです。増やすことは簡単でも引き算が難しい……。

ゲームシナリオでもココが一番難しく、特に小説にはない「情報取得」という行程が入ってくるので、めちゃくちゃ頭を使います。頭が死んでる時は以下のツイートのような「テーブル整理法」を使い、頭を整理することもままあります。

(3)問題点を盛り込む

ヒーローもので主人公の成長の過程に難関が立ちはだかるように、ストーリーの途中で起こるハプニングを作ります。例えばそれは「受けがナンパされて、攻めが怒って二人の距離が縮まる」とかそういうのでもOKだと思っています。

私はヲタクくんなので「相手に恋を通して救われる」というのがめちゃくちゃ好きなのでそれをよく採用します。家庭環境に難がある、進学がうまくいかない、自分の人生このままで本当にいいのだろうか?……そういうのが、相手と出会って恋に落ちてそこにも活路を見出してしまう。そういう映画的ご都合主義ハッピーエンド、大好きです。

問題点を盛り込むことで、今度はストーリー上に「ハプニング」を起こしやすくなります。些細なことですれ違ったり喧嘩したりすると、ストーリー全体が引き締まるし「転」なんだなというのが読み手の人にも分かりやすいかなと思っています。

(4)スケジュールを立てる。

まだ本文に取り掛かりません。ここでスケジュールを立てます。

この時点で詳細すぎるプロットを元に「大体ここは何文字で書く」を決めます。希望的観測程度にはなるのですが、それでも「長引かせるべきシーンなのか否か」はきちっと決めておかないと、本文を書く時に余計な悩みが入るので……。

あと「ここのシーンなんか文字数少ない気がするから盛っとく?」みたいな不用意な盛りが入るのを自分で防いでいます。これも引き算が苦手な私の予防策です。冗長すぎるシーンは読み手を退屈させると思うので……。

あとは何日でどこのシーンまで書くのかを決めて、コツコツやっていきます。スケジュールは最終的に崩れるものなのですが、それなりにスケジュールが守れていればやる気にも繋がるのでやっています。

(5)本文を書く

詳細すぎるプロットやスケジュールを用意出来たら本文に取り掛かります。

小説であれば使用ソフトは「Word」「一太郎」で、縦書き4段で書きます。視線が画面の上から下まで~になると目がさっさと疲れてしまうので視線が動く距離の短い4段組みを愛用しています。

ゲームシナリオであれば「Evernote」。シナリオは基本横書きなので作業もそれでやるのですがゲームシナリオ書き始めた時は、それまで長らく縦書きだったので頭がバグりました。(笑)

スケジュールに沿うような形で頑張ります。書いている時は頭の中に常に情景を思い描いてそれを詳細に描写していく作業になります。この時私は、小説的な視点というよりかは「映画的な視点」でシーンを見ているので、描写や台詞回し、展開なんかは映画に近いと思います。

見習い:「映画的な視点」ですか。視点が映画的というのは描写バランスによるものなのでしょうか?

竜原:私はそう考えています。映画は登場人物や手元だけをうつすものではないので……小説でも出来るだけ画面全体を描写していきたいなと……。

書いている時、脳内にあるカメラをズームさせたりパンさせたりして、シーンを撮りながらそれを書き起こしているという感覚が強いです。脳内映画のノベライズ……が最近、しっくりくる言葉だな~と思います。

見習い:小説を映画的たらしめるものはなんなのでしょうか?

小説を映画的たらしめるものとは

竜原:私は「風景描写」をお勧めしています。
というのも、心情やらなんやらはもちろん「ここがやりたい」シーンにとってのメインの肉じゃないですか(笑)
でもメインの肉を丁寧に焼くのについ周りの野菜を忘れがちな自分がいまして……。

——この先の購読者限定コンテンツの中身をチラ見せ!——
・結局、何を足して何を引けばいいの?
・竜原さんでも壁にぶつかることってあるの?
・なんのために創作してるの?

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