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ヤエル・アドラー『皮膚の秘密/最大の臓器が身体と心の内を映し出す』

☆mediopos-2323  2021.3.27

皮膚にむすびついた感覚は「触覚」である
皮膚について考えることは
内と外の境界を考えることでもある

「ふれる」ということは
私が私の外に出会うということであり
同時にふれられるものと
隔てられるということでもある

そうして外と隔てられることによって
私が私であることに目覚めるということでもある

シュタイナー/ズスマンの十二感覚論でも
触覚という肉体感覚は
自我感覚という霊的感覚に向かい合っている

本書はその触覚を成り立たせている
「皮膚」について学ぶ格好のテキストとなっている
2016年にドイツで出版され
ベストセラーになったものの翻訳である

皮膚はわたしたちの身体を
まるごと包み込んでいる最大の臓器であり
臓器の多くはふつう触れることは難しいけれど
皮膚は見ることもふれることもできる
数好きない臓器となっている

その臓器を私たちはともすればぞんざいに扱い
いろんなものを皮膚に塗りたくたりもしているが
それは「少なければ、少ないほどいい。
それが最善の皮膚ケアだ」と著者は言っている

そうした皮膚ケアと同時に
著者は皮膚という臓器・身体が
いかに心とも密接に関わっているかについても
ていねいに論じている

本書はまず皮膚の基本構造への理解のために
表皮・真皮・皮下組織という
三階建ての建物となっている皮膚構造を説明している

もっとも外側にある表皮は
外的なものから身を守るバリアの役割をもっているが
興味深いことはここで
皮膚の微生物叢の機能について示唆していることだ
皮膚のそれについてはあまり理解されていないが
腸の微生物にもまして
腸の微生物叢は重要なのだといいう
腸の細菌を殺してしまうのが危険であるように
表皮の細菌を殺してしまうのも
危険なのだということを知る必要がある

表皮の下にある真皮は体温調節はもちろん
皮膚に酸素と栄養を供給したり
脳に情報を送って免疫システムを援助したりなど
さまざまな役割をもっているという
そして外界から接触・圧力・振動・温度・痛みなど
さまざまな情報を得ている
さらにはいわゆる身体の「におい」のもともここにあり
それがとても重要な働きをしているようだ

さらにその下にある皮下組織は
緩衝器のような役割だけでなく
身体の輪郭を維持する役目も担うとともに
そこにある皮下脂肪組織は
熱の放出を防ぐ遮断層のような役目を果たしているという

そうした基本的な皮膚の構造を理解した上で
皮膚に関連したざまざまなことが論じられていく

皮膚は食べ物に影響を受けるため
皮膚を健全に保ち育てるためには
腸の健康が何よりも重要になること

そして胎児期には表皮と神経組織は
同じ組織(外胚葉)から形成されるため
表皮と神経組織が密接につながっていることから
顔が赤くなったりもすること

そうしたさまざまなことからわかるのは
皮膚がいかにわたしたちの身体と心に
密接にかかわっているかということだ

最初にふれたように
触覚は自我感覚に向かい合っている
「ふれる」ということは
私が私であることに目覚めることであり
皮膚から他へと超えることはできないけれど
他者に出会う境界を体験するということなのだ

■ヤエル・アドラー(岡本朋子 訳)
 『皮膚の秘密/最大の臓器が身体と心の内を映し出す』
 (ソシム 2021.3)

(「まるで地下駐車場/私たちの皮膚の層」より)

「皮膚について考えるなら、三階建ての建物を想像していただくとわかりやすいでしょう。ただしその建物は地上ではなく、地下駐車場のように地中深くに建てられています。地上からは屋根、つまり角質層しか見えません。その屋根は丈夫で、くもりガラスのおうに不透明な物質からなり、直射日光にさらされています。紫外線は地下一階の表皮と地下二階の真皮にまで到達しますが、地下三階には届かず、そこは薄暗いのです。皮膚の地下駐車場の面白いところは、どの階、つまりどの皮膚の層にも特徴的な跡があり、それが私たちの健康状態を明らかにしていることです。」

「地下一階は表皮です。」
「表皮の最も重要な仕事は外敵から身を守ることかもしれません。それを表皮は強靱な保護膜、つまり皮膚バリアを強化することにより実現しています。」
「腸に常在する微生物についてはこれまでも十分研究されてきました。しかし最近の研究によると、皮膚の微生物叢の機能の方が腸のそれよりも勝っていることが明らかになりつつあります。通常、皮膚に常在する微生物叢は暴れたりしません。常在菌氏族たちが互いに権力を調整し、一氏族が権力を独占するのを避けているからです。一方で、皮膚は宿の主として微生物の世話をし、酸性を保つことで、より良い環境づくりと基盤づくりに務めています。」
「人間には微生物叢が必要なのです! 健全な酸性の保護膜は大切な客様に最適な住環境を提供しています。しかし過剰な衛生管理、過度のスキンケア、薬剤、衣服、予防注射、除草剤、抗生物質、不健康な食餌、不十分な紫外線対策のせいで、微生物叢の生活基盤は目下危険にさらされています。たとえば私たちは手を洗いすぎることで、大切な微生物を殺しています。」

「皮膚の地下二階にあるのは真皮で、医学用語では「デルミス(ダーミス)」とも呼ばれます。」
「表皮が大変薄い層であるのに対して、真皮は二ミリメートルもある分厚い層です。真皮は線維性結合組織に満たされているため、丈夫です。線維性結合組織は強靱なタンパク質からできた繊維で、耐裂性に優れています。その周りを渦巻きのように囲んでいるのが弾性に富んだ弾性繊維で、それがあるおかげで皮膚は引っ張られてもすぐに元の状態に戻ることができます。」
「真皮は体温調節だけでなく、その他多くの役割を担っています。皮膚に酸素と栄養を供給したり、脳に情報を送って免疫システムを援助したりしているのです。」
「真皮の中では、冷暖房としての役割を果たすけつせき循環システムと並んで、大きなネットワークがリンパ洞と毛細血管の合間を縫って張り巡らされています。そのネットワークを介して免疫系はスパイ活動を行い、必要があれば偵察部隊や特殊部題を所定の場所に派遣します。」
「皮膚は皮膚全体に配置された小さなセンサーを通して外界から情報を得ています。接触、圧力、振動、温度、痛みなどの刺激をデータとして集めているのです。」
痛みには、心理的なものが大きく作用します。心は痛みを独自の基準で評価します。過去にどんな痛みの体験をしたかでその評価は変わってきます。痛み記憶というものがあり、その中にこれまでの痛み体験が蓄積されているからです。」
「音は私たちの心と皮膚に大きく作用するのです。
 (・・・)何と、皮膚は音を聞くことができるのです。少なくとも毛の生えた脚にはそれができます。脚は話しかけられると、皮膚と体毛が微妙に刺激され、風を感じます。」
「動物は情報を「におい」で発信します。最近の研究では、人間も同じことをしていることが明らかにされつつあります。(・・・)
 人間は「いいにおいがする」人に好感をもちます。」

「皮膚の地下三階には「サブキューティス」があります。サブはラテン語で「下の」を、キューティスは表皮と真皮の層を意味します。(・・・)
 皮下組織は衝突や衝撃を和らげる緩衝器のような役割だけでなく、身体の柔らかいカーブや輪郭を維持する役目も担っています。皮下組織がなければ、人間の身体は骨や関節が出っ張っている箇所が多いため、尖って、角ばっていることでしょう。また皮下組織には「バイオブレンチューブ:(熱を遮断し、熱の放出を防ぐ遮断層)のような役目を果たす皮下脂肪組織が存在します。」

(「皮膚の運命/人生に翻弄される皮膚」〜「表面的な改ざん」より)

「皮膚は時とともに変化します。それを前提として、芸術作品や化粧品は生み出され、フェイスブックの動画もアップされます。私たちの皮膚は人生の段階ごとに、役割を変え、見た目も異なります。その上には、スクリーンのように人生が映し出されます。つまり、皮膚は人生を物語るのです。」

「私たちは足のことはあまり気にしないのに、顔などの外から見える部分には最新の中位を祓います。化粧をしたり、ピアスをしたり、焼いて色をつけたり、刺青をしたり、何らかの方法で見た目を操作したりと、飾ることを怠りません。少なくとも女性の間では、メイクアップはおそらく最も普及している装飾手段です。」

「古代ギリシア人は、「美しさはつねに見る人の目の中にある」という考えを持っていました。この見方は、一方で心理的な病の原因を映し出しています。「身体醜形障害」は、身体の不格好さや「醜さ」に対する恐怖を異常に抱く心の病です。患者は自分の顔と鼻と身体のすべてを醜いと感じていますが、周囲の人々にはそれが理解できません。なぜならばほとんどの場合、患者の容姿は醜いどころか、むしろ魅力的なのです。
 身体醜形障害思考は、自身の欠陥(思い込みであれ、真実であれ)ばかりにこだわり、その他の魅力的な部分を完全に無視しています。自分と自分の身体のことで頭がいっぱいになり、町を歩いていても、ショーウィンドウを覗き込んでは、ウィンドーに映る自分を確認し、つねに周囲の反応をうかがっています。なぜそんなことをするかといえば、自尊心が深く傷ついているからです。ほとんどの場合、その原因は子供の頃の体験にあり、症状は思春期以降に出始めます。(・・・)もちろん形成外科医と皮膚病科医に、彼らの思い込みを解く力はありません。心理療法が唯一の完治への道です。」

(「食べたものが皮膚になる」〜「皮膚を料理する」より)

「皮膚と栄養は密接に関係しています。」
「私たちの皮膚は食べ物に影響を受けるため、皮膚を健康に保つには、腸の健康が何よりも重要になります。なぜなら食べ物はまず腸を通過し、分解され、その後皮膚に届けられるからです。皮膚と腸は同志のようなものです、互いにコミュニケーションを取りながら、一方は内臓から、もう一方は外側から身体を守っています。」

(「皮膚は心の鏡」〜「皮膚が心の内を見せてくれる」より)

「胎児期において、表皮(汗腺や毛包を含む)と神経組織は同じ組織、つまり外胚葉から形成されます。感情が直接皮膚に現れるのは、表皮と神経組織が密接につながっているからです。たとえば。鳥肌は、赤面と同じように、感情が高まると勝手に現れます。意識的にコントロールできるものではありません。また気温に関係なく、感情が高まると、神経インパルスが血管を拡張させるため、皮膚が赤くなったり、赤い斑点ができたりします。怒ったり、興奮したり、恥ずかしくなったり、うれしくなったりすると、顔は赤くなります。こうした皮膚の反応すべてをコントロールしているのは、ストレスや怒り、苛立ちや発汗などを司る交感神経と呼ばれる自律神経です。」

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