『すごい博物画/歴史を作った大航海時代のアーティストたち』
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『すごい博物画/歴史を作った大航海時代のアーティストたち』

☆mediopos-2488  2021.9.8

かつてレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた
自然の形を描いたさまざまなスケッチを見ていると
自然を生み出している力がそこから伝わってくるようで
飽かず眺め入ってしまう

まだ写真という技術のない時代には
自然の姿をリアルに表現表現する手法として
博物画がさまざまに描かれ
その豊かな世界に驚かされることが多い

その後写真技術が高度な発達を見せるようになり
博物画の役割が終わるかといえば
そうともいえないようだ

本書『すごい博物画』の
編著者デイビッド・アッテンボローによれば

「今日でも、特定の種類の植物や動物に焦点を当てた
小論文の大部分は、美的な喜びと科学的な正確さという
二重の要求に応えてくれる画家による作品」であり
「現在でも、アレクサンダー・マーシャルのように、
世の中全体に発表する意図を持たず、
個人的に絵を描いている画家」がいるという

博物画には単に写真のような役割だけではなく
それでは表現できないものが表現されていて
ある意味で動植物等の写真では見えないものが
そこには写し取られているところがある

写真の世界には
写真でしか表現できないものがあるけれど
絵画の世界にも
絵画でしか表現できないものが確かにあるのだ

本書『すごい博物画』には
ロイヤル・ライブラリーの所蔵している
イタリアルネッサンスから英国
そして新世界と呼ばれたアメリカ大陸の時代の
レオナルド・ダ・ヴィンチ
デイビッド・アッテンボロー
アレクサンダー・マーシャル
マリア・シビラ・メーリアン
マーク・ケイツビーのデッサンや水彩画
そしてカッシアーノ・ダル・ポッツォが
「紙の博物館」に集めた作品群が紹介されていて

それぞれのアーティスが
自然界に対する深い関心を持ち
さまざまな手法で自然を記録することで
自然の秘密に迫ろうとしていることが伝わってくる

さてこうした博物画の素晴らしい世界を
そのさまざまな著作や図鑑を通じて
教えてくれていたのは荒俣宏という存在で
その頃ずいぶんその世界に浸っていたことを思い出す

荒俣宏の平凡社『世界大博物図鑑』が先ごろ
30年の時を経て「普及版」となって改めて刊行されている

かつて『世界大博物図鑑』はあまりに高価だったけれど
それに続いてリブロポートから刊行された図譜・図鑑の
「ファンタスティック12」のシリーズは比較的安価で
テーマも動植物図鑑から広がり
「神聖自然学」「エジプト大遺跡」「地球の驚異」など
それぞれの時代に刊行されたものを
テーマ別に楽しめる夢のような画期的な図鑑のシリーズだった

その「ファンタスティック12」の
第8巻目のテーマが「昆虫の劇場」で
そのなかにマリア・シビラ・メーリアンの
『スリナム産昆虫の変態』が紹介されている
久々とりだしてその素晴らしさに改めて実感させられているが
機会があればぜひ見てほしい図鑑のひとつである

■デイビッド・アッテンボロー(笹山裕子訳)
 『すごい博物画/歴史を作った大航海時代のアーティストたち』
(グラフィック社  2017/9)
■荒俣宏 編著『8 昆虫の劇場』(ファンタスティック12)
 (リブロポート 1991/10)

(ジェーン・ロバーツ「序文」より)

「16世紀初め、レオナルド・ダ・ヴィンチはこう述べた。「目は、自然の偉大な作品をたっぷり堪能し理解するための、主要な手段である」芸術家であれば。目と知性を使い、現実を正確かつ簡潔に記録することができるが、それを言葉だけでするとなると、時間を費やし、くどくわかりにくい文章を書くことになってしまう。
 自然の驚くべき多様性を記録するための図版の利用は、過去500年間にわたってさまざまな段階を経てきた。近年では新たな写真と映像の技術により、無限の可能性が開けてきている。その成果の一部が、自然ドキュメンタリーの第一人者である自然学者・プロデューサー(1965年に英国にカラーテレビをもたらした人物でもある)のサー・デイビッド・アッテンボローによって一般に公開されている。本書はロイヤル・コレクションとサー・デイヴィッドの建設的な協力の賜物といえる。サー・デイヴィッドはロイヤル・コレクションのキュレーターたちが展示会のための作品を厳選するのを手伝い、紹介文を書き、多くの作品について詳細なコメントを作成した。
 87点の水彩画は、ロイヤル・コレクション所蔵の自然史にまつわるスケッチや水彩画のひときわ優れた5つのグループに分類されている。年代としては、15世紀後半から18世紀初めにかけての250年にわたる大航海時代。アフリカやアジア、アメリカへの航海によってヨーロッパに人々の世界に関する知識が変貌した時期のものである。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452−1518)はその初期に活躍し、イタリアの動植物を、ルネサンス特有の科学的探究心を持って記録したことで知られている。100年以上のちにはカッシアーノ・ダル・ポッツオ(1588−1657)がローマで、アレクサンダー・マーシャル(およそ1625−1682)がロンドンで、探検家や貿易商たちがヨーロッパに持ち込んだ多くの新種を目録にした。芸術家のマリア・シビラ・メーリアン(1647−1717)とマーク・ケイツビー(1679−1682)は自ら新世界へと旅し、そこに自生している新種や、それまで知られていなかった種を記録した。
 本書のページをざっとめくっていくと、これらの芸術家たちが実にさまざまな手法で自然を記録したことがわかるだろう。レオナルドの線の繊細さと鋭さは、ケイツビーが自ら「平坦だが正確」と評した線とまるで異なっている。メーリアンが「驚くべき貴重なもの」を描くのに用いた生き生きした曲線や渦巻き線は、南米で習得したもので、彼女特有の様式的特徴となっている。しかし共通の土台となっているのは、芸術家たちの自然界に対する並外れた関心であり、それは開拓者のようにアメリカ大陸に出かけた者にも、自らの庭で対象を見つけた者にも同じように見られる。どの芸術家も、丹念に観察し、描くことによって、自然界の豊かさを把握したいと願っていた。」

(デイビッド・アッテンボロー「自然を描く」より)

「20世紀の初めには、科学的な自然史絵画と、そのような絵画を必要とする豪華な書物の全盛期は終わろうとしているかに思われた。写真が勢力をふるいはじめていたのだ。当初は自然史絵画を金属板や石版にうつすための簡易で安価な手法として使われた。しかし、写真家の技術が向上し、カメラが小さく多機能になるにつれて、写真そのものが図版として採用されるようになった。
 20世紀初頭には、適度に度胸がある優秀な博物学者なら、指を一本動かすだけで、目の前の生き物のそのままの姿をとらえることができるようになった。これで動物の目録を作るのに、絵を描く必要がなくなったと考える人もいた。しかし結果的には新たな必要性が出てきた。田園生活から離れて都市で暮らす人々が増え、また地方も多様性が薄れるにつれて、専門性の高い、新しいタイプのアマチュア博物学者が現れたbのだ。彼らは種を正確に見極めるために、鳥の羽毛を細かいところまで判別できるようになりたいと考えていたが、そのような要望に応えられる写真家はほとんどいなかった。そこで画家たちは、近い種類の鳥たち----雄、雌、若鳥、種、亜種、類----を詳細に描いたものを並べた、美しい図版を新たに描き、熱心な博物学者たちが、双眼鏡の先にいる生き物を正確に見分けられるようにした。
 また、自然界をとらえる別の技術も発明された。電子カメラだ。過去半世紀の間に電子カメラは、粒子の細かいモノクロ写真しか撮れない大きな機械から、人間の目でさえ前にあるものが認識できないほど暗い場所で、高画質のカラー写真を撮ることができる小型機器へと変わった。光ケーブルが、地下の長く狭いトンネルの先にある巣から、画像を届けてくれる。新しい振動防止の台と長焦点レンズにより、100フィート上空のヘリコプターから、動物のクローズアップを録画し続けることができるようになった。
 そのような最新技術によって、3万年に及んだ伝統もついに終わりを迎えるかと考える人もいるだろう。しかしそうではない。今日でも、特定の種類の植物や動物に焦点を当てた小論文の大部分は、美的な喜びと科学的な正確さという二重の要求に応えてくれる画家による作品である。そして現在でも、アレクサンダー・マーシャルのように、世の中全体に発表する意図を持たず、個人的に絵を描いている画家がいる。
 そのような画家はこれからも現れるだろう。修道院の敬虔な雰囲気を明るくしようとするのでも、発見したものの目録を作成するのでも、表面的な動機に関係なく、このような画家全員が共有しているものがある。それは自然界を持続的に、熱心に観察する者が感じることができる深い喜びである。」

(マーティン・クレイトン「レオナルド・ダ・ヴィンチ 世界を彩る自然のすべての作品」より)

「レオナルド・ダ・ヴィンチの作品の中心は、自然界の研究である。ありのままのイメージを生み出すために、画家は創造物のあらゆる面を理解しなければならないと、ダ・ヴィンチは信じていた。そしてその面は無限につながっていると考えていたため、調査する分野と分野の間に明確な境界線を引くことは不可能だった。彼の活動の大部分は、自分が書こうとしている絵画についての論文とある程度関連しており、その最終的な目的は、明言することはなかったものの、自然現象のあらゆる面を完璧に説明することであった。その論文が完成しなかったのは無理もないことだったが、その過程で行われた研究----人間と動物の解剖学、植物学、地質学、水力学、光学、航空技術、その他多くの分野----により、ダ・ヴィンチはルネサンスの偉大な画家であるだけでなく、偉大な科学者にもなった。」

(レア・アレクサンドラス「カッシアーノ・ダル・ポッツオの紙の博物館 オオヤマネコの真実の目で」より)

「骨董研究家でコレクターでもあったカッシアーノ・ダル・ポッツオ(1588−1567年)の「紙の博物館」は、古代世界や自然界に関する何千点もの絵や印刷物を収録する、視覚的な百科事典であった。内容はローマ文明の遺物(建築、壁画、モザイク、レリーフ、碑文、家庭用品など)、ルネサンス建築。初期のキリスト教会にまつわる人工遺物、地図、宗教的な行列や祭り、服装、肖像画、そして鳥から魚、その他の動物、植物、菌類、化石に至るまでの自然界のあらゆる側面を網羅している。現存しているおよそ7000点の「紙の博物館」の絵画(印刷物は含めない)のうち、250点ほどは自然史に関するものである。)

(スーザン・オーウェンズ「アレクサンダー・マーシャル あの興味深い花の細密画の本」より)

「アレクサンダー・マーシャル(1620年頃−1682年)は、およそ30年間をかけて実にみごとな花譜、つまり花の本を画いた。おそらく1650年頃に描き始め、死の年まで描き続けていた。159枚の絵は英国の庭に見られる植物で、季節の移ろいに従って初春のクロッカスやバイモ属の花から秋のウリ、ほおづきまでが描かれている。花譜に描かれた数多くの「植物の肖像画」は、その巧緻さ、正確さ、美しさとともに驚くべきものである。ヨーロッパ大陸では17世紀に多くの手描きの花譜がまとめられたが、マーシャルの花の本は当時の英国の芸術界で唯一のものと考えられる。」

(スーザン・オーウェンズ「マリア・シビラ・メーリアン すばらしき勤勉、気品、そして魂」より)

「マリア・シビラ・メーリアン(1647−1717年)は画家としても自然学者としても抜きん出た人物だった。1699年から1701年にかけての、南米のオランダ領スリナムへの遠征旅行で、彼女はその土地固有の昆虫を観察し、1705年に労作『Matamorphosis insectorum Surinamensium(スリナム産昆虫変態図譜)』にまとめあげた。この二折版の本は、チョウなどの昆虫のライフサイクルを60枚の図版と注釈で解説しているもので、この時代の最も重要な博物学書であると同時に、スリナムに関する初めての科学書でもある。ロイヤル・コレクションに所蔵されているメーリアンの95枚の子牛皮紙に描かれた水彩画のうち、60枚はこの研究書の図版とかかわりがあり。残る35枚は花や果物、鳥、昆虫などの生物画で、キャリアのさまざまな段階で描かれたものである。」

(スーザン・オーウェンズ「マーク・ケイツビー 博物学の天才」より)

「マーク・ケイツビー(1679−1682年)はライフワークである『The Naural History of Caroline,Florida and the Bahama Island(カロライナ、フロリダ、バハマ諸島の自然誌)』を1729年と1747年に出版した。2巻からなるこの堂々たる著書は、全ページ大の図版に解説文が添えられており、この題材を取り上げた最初のものだった。ロイヤル・コレクションに所蔵されているケイツビーによる263枚のオリジナルの水彩画----ケイツビーの作品群としては最大のもの----は、ほんの図版の準備として描かれたものだ。最初はヴァージニア、次にカロライナと、2回にわたる北米への長期旅行の際に描かれたこの水彩画は、さまざまな植物、鳥、魚、ヘビなどをとらえている。ケイツビーが目指していたのは、北米の東海岸に原生する動植物の包括的な調査であった。」

(荒俣宏 編著『8 昆虫の劇場』〜「2 博物図鑑の至宝/メーリアン『スリナム産昆虫の変態』より」

「『スリナム産昆虫の変態』は、多くの点で博物学図鑑のスタイルを決定的に変革した。その第一は、卵から成虫へと至るプロセスの描写である。とりわけ、その成長段階を一図のうちに表現した技法は、今日でいう「生態図解」の域にまで達していた。彼女以前には、このような方法で昆虫の発達過程を表現した絵師は、ひとりもいなかったのである。まさしく彼女は「時間の経過」を表現し得た最初のアーティストというべきであろう。」
「『スリナム産昆虫の変態』は、あらゆる点から見て、時代をとび越えた傑作である、全博物図鑑のなかの至宝である。おそらく彼女の影響があって、昆虫学は他のいかなる分野にも先んじて、その後の数十年間にすばらしい傑作群を生み出したのだろう。」

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