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映画『PERFECT DAYS』(監督 ヴィム・ヴェンダース/主演 役所広司)

☆mediopos3336  2024.1.5

ヴィム・ヴェンダース監督・役所広司主演の
映画『PERFECT DAYS』を観る
これまで観た映画のなかで
もっとも魂に響いた映画かもしれない

2023年に日本・ドイツ合作で制作されたドラマ映画で
東京を舞台に公共トイレを清掃する
作業員の男・平山の日々が描かれている

当初渋谷区内17か所の公共トイレを刷新するプロジェクト
「THE TOKYO TOILET」の短篇オムニバスが企画され
その監督としてヴィム・ヴェンダースに
白羽の矢が立てられたが
ヴェンダースは長篇作品として再構想
オリジナルな物語として書き下ろされた

ヴェンダースは小津安二郎の事跡をたどる
『東京画』(1985)を監督しているが
主人公の名前「平山」は
『東京物語』などで笠智衆が演じた登場人物をはじめ
小津安二郎監督の作品によく使われる名前である

この映画は最後のシーンで
「木漏れ日」という日本語が紹介されているが
全編にわたり平山の心象風景のようなかたちで
そのモチーフが挿入されているのが印象的である

この映画はカンヌ国際映画祭(2023年)主演男優賞など
数々の賞を受賞し高評価を得ているようだが
例えば英語圏の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」では
全体としては90%以上の高スコアを得てはいるものの
脚本の起伏の乏しさや
抑揚を欠いた演技を批判する批評家もいたようである

しかしその「起伏の乏しさ」や
「抑揚を欠いた演技」と評されることこそが
ともすれば映画を台無しにしてしまいがちな
「物語過剰」「演技過剰」から離れた表現を可能にしている

公式サイトにはヴィム・ヴェンダースの
インタビュー動画が掲載されているが
その「03 物語が壊してしまうもの」で
ヴェンダースは次のように語っている

「理由で説明してしまうような物語を多く招き入れることについて、
 私はいつも恐れを抱いています。

 ときに、物語はすべてを台無しにしてしまう
 一方で、物語がすべてを救うこともある」

「映画を観て、起こることのすべてが
 組み立てられているように感じるのはいただけない」

「物語というのもたまにはいい
 でも、それが多すぎると台無しになってしまう」

「この映画の中ではたくさんのことが起こります
 ときにはとても小さなことですが、どれもフィクションです
 そして、フィクションを導入するたび、
 少し多すぎになりやしないかと私は心配でした」

映画に限らず「物語」が
ことさらに組み立てられ過ぎて
つくりものめいてくると興ざめになる
実際多くの映画多くの小説がその陥穽に陥ってしまい
途中で観ることや読むことを止めたくなったりもする

ヴェンダース自身も自分の映画についてこう語っている

「物語の小さな部分が、私にとって、全体の流れの信憑性を
 台無しにしてしまった映画を作ったこともあります
 物語に抗うような物語を作ったこともあります
 あまりにも物語が多すぎて、手に負えなかった」

物語ゆえに救われることもあれば
物語ゆえに台無しになることもある

私たちの「生」そのものもまた同様だろう
物語を紡ぐことで救われる生もあれば
過剰にじぶんでつくりあげた物語に入り込みすぎて
その物語ゆえに「生」がスポイルされることもある

たかが物語
されど物語
である

■映画『PERFECT DAYS』(2023年12月22日(金)日本上映開始)
 (監督 ヴィム・ヴェンダース/主演 役所広司)

(「ウィキペディア」より)

「『PERFECT DAYS』は、2023年に日本・ドイツ合作で制作されたドラマ映画。キャッチコピーは「こんなふうに生きていけたなら」。 ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主役に迎え、東京を舞台に清掃作業員の男が送る日々を描く。」

「映画製作のきっかけは、渋谷区内17か所の公共トイレを刷新するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」である。プロジェクトを主導した柳井康治(ファーストリテイリング取締役)と、これに協力した高崎卓馬が、活動のPRを目的とした短編オムニバス映画を計画。その監督としてヴィム・ヴェンダースに白羽の矢が立てられた。」

「小津安二郎の事跡をたどる『東京画』(1985)を監督するなど日本とのつながりの深さで知られたヴィム・ヴェンダースは、当初、短いアート作品の製作を考えていたが、日本滞在時に接した折り目正しいサービスや公共の場所の清潔さに感銘を受け、長篇作品として再構想。ヴェンダースが日本の街の特徴と考えた「職人意識」「プロ意識」を体現する存在として主人公を位置づけ、高崎卓馬の協力を得て東京を舞台とするオリジナルな物語を書き下ろした。」

「主人公の男に与えられた「平山」という名前は、『東京物語』や『秋刀魚の味』で笠智衆が演じた登場人物をはじめ、小津安二郎監督の作品に繰り返し使われる名前である。」

「キャスト
 平山:役所広司
 タカシ:柄本時生
 ニコ:中野有紗
 アヤ:アオイヤマダ
 平山の妹(ケイコ):麻生祐未
 居酒屋の女将:石川さゆり
 その元夫(友山):三浦友和
 街の老人(ホームレス):田中泯」

「使用楽曲(一部)

劇中で流れる音楽はヴィム・ヴェンダース自身によって慎重に選ばれ、作品の重要な要素となっている。ともに選曲にかかわった共同脚本の高崎卓馬によると、ヴェンダースは製作の早い段階で「演出効果のために平山が聞くはずのない音楽を使うこと」を自ら封じ、時間をかけて選んでいったという。

アメリカのフォークソング「朝日のあたる家」(The House of the Rising Sun)アニマルズと浅川マキの2つのバージョンが用いられている。後者は、歌唱:石川さゆり ギター伴奏:あがた森魚。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「Pale Blue Eyes」
オーティス・レディング「ドック・オブ・ベイ」((Sittin' On) The Dock of the Bay)
ルー・リード「パーフェクト・デイ」(Perfect Day)
パティ・スミス「Redondo Beach」
ローリング・ストーンズ「めざめぬ街」((Walkin' Thru The) Sleepy City)
金延幸子「青い魚」
ヴァン・モリソン「ブラウン・アイド・ガール」(Brown Eyed Girl)
キンクス「サニー・アフタヌーン」(Sunny Afternoon)
ニーナ・シモン「Feeling Good」」

(公式サイト〜「ヴィム・ヴェンダース インタビュー 03 物語が壊してしまうもの」より)

「私たちが脚本を書いた理由というのは、
 彼のルーティーンが映画の基調であり、
 ルーティーンが構造だということに気づいたからです

 けれども、もう少しルーティーンが必要でした
 そのもう少しっていうのが、
 他の言い方はなかなかないのですが、
 何かしらの物語のことです

 ただ、理由で説明してしまうような物語を多く招き入れることについて、
 私はいつも恐れを抱いています。

 ときに、物語はすべてを台無しにしてしまう
 一方で、物語がすべてを救うこともある

 つまり、どのくらい物語というものに演技を支配させるかということと、
 人の生き様にどのくらい物語を背負わせているように感じるかということです
 そうなった場合、大抵なにか違和感が生まれます
 起こるべくすて起こらないと
 人生で起こるのと同じように
 突然、誰かが現れる
 突然、何かドラマチックなことが起こる
 もしかしたら因果関係があるかもしれないし、ないかもしれない
 これは、結果というものに紐付けずに
 物語が生きることを許すかどうか、という問いです。

 映画を観たときに、操作されていることに気がつくかどうか
「こう思わせるために、こう作る」
「こういう風にお話が展開するよう、こう作る」

 映画を観て、起こることのすべてが
 組み立てられているように感じるのはいただけない

 物語が構築されたものだということが
 あからさまになているのは、本当によくない

 一方で、世界の素晴らしい物語というのは、
 ただそこにあって、
 人々の暮らしにゆっくりと寄り添っていく

 それは徐々に、何かしらのアーチを形作っていく
 何かしらの意味のようなものを
 何かしらの————
 まあ、これが起こって、
 それでこの人たちを揺さぶって、
 それで以前はわからなかったことを学んで、
 内側にはあったけれど引き出せなかったものが
 出てきて、その新しい自分になる

 そういう意味では、物語というのもたまにはいい
 でも、それが多すぎると台無しになってしまう

 この映画の中ではたくさんのことが起こります
 ときにはとても小さなことですが、どれもフィクションです
 そして、フィクションを導入するたび、
 少し多すぎになりやしないかと私は心配でした

 これが、物語の難しいところです
 物語の小さな部分が、私にとって、全体の流れの信憑性を
 台無しにしてしまった映画を作ったこともあります
 物語に抗うような物語を作ったこともあります
 あまりにも物語が多すぎて、手に負えなかった

 つまり、物語のごく小さな要素が、
 崩壊を招く巨大な怪物になってしまうこともあるということです

 多くの人たちは、物語があること、
 象がいることを当たり前だと思っている
 だからそれに気がつきません

 でも私たちはたまに、ああ、何ということ、
 こんなのは間違っている、と感じてしまう
 そこに象が鎮座していてはいけない」

○映画『PERFECT DAYS』日本版本予告

○映画『PERFECT DAYS』公式サイト

○ヴィム・ヴェンダース監督ロングインタビュー『PERFECT DAYS』
【第3弾】「物語が壊してしまうもの」

○PERFECT DAYS」石川さゆり:歌い手の好奇心で出演を決めました/舞台挨拶:ヴィム・ヴェンダース、役所広司、柄本時生、中野有紗、ア


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