見出し画像

高野秀行 (文・写真)/スケラッコ (絵) 『世界の納豆をめぐる探検 (月刊たくさんのふしぎ2022年2月号)』

☆mediopos2613  2022.1.11

高野秀行の『謎のアジア納豆』を
吉田よし子『マメな豆の話』
小泉武夫『くさいはうまい』とあわせた
納豆の話としてとりあげたことがある
(mediopos-2027 2020.6.4)

『謎のアジア納豆』が文庫になったときだが
その後すぐに高野秀行は
アフリカ納豆を紹介した本を出している

今回はアジア納豆・アフリカ納豆を含め
なんと福音館書店の小学生の高学年むけの月刊誌
『たくさんのふしぎ』で
『世界の納豆をめぐる探検』として絵本になっている
子どもたちに納豆の素晴らしさを伝える貴重なものだ

日本では主に納豆をご飯にかけて食べるが
かつては納豆汁にして食べていたそうだ
納豆汁にするのは韓国の食べ方と似ている

納豆はアジアでは主に大豆と納豆菌で作られるが
アフリカでは大豆ではなくマメ科の実や
なんとバオバブの種からつくられたりしている
食べ方もおせんべいにしたりといろいろだ
それぞれの風土に合ったものをつかって
それぞれの調理法でつくる工夫を加えている

納豆はどの地域でもいわゆるご馳走ではないが
肉や魚が手に入りにくい地域で
貴重なタンパク源として
またおいしく食べるダシとして
大切に食べられている歴史をもっている

また著者の高野秀行氏は
日本の納豆の起源を求め
アジアやアフリカでの作られ方も参考にしながら
大豆のもととなったツルマメとトチの葉を使い
「縄文納豆」をつくる試みを行ったりもしている

高野秀行の探検はどれも素晴らしくかつ面白いが
納豆をめぐる探検はとくに大変貴重なものだ

人間のからだは菌で満ちているといっても過言ではない
その菌についての知恵をこうした形で
食の伝承や工夫として伝えていくのは得がたい智恵となる

現代はどうも殺菌のようなかたちで
免疫力を疎外してしまうことが多いが
むしろ菌を生かし菌とどのように共生するか
(菌と共生するというより菌は私たちの一部)
ということへと視点を向けるのがいいのではないか

個人的にいえば幸い
小さい頃から藁に包まれた納豆の時代から
日々食卓でおいしく食べてきたが
比較的健康的に過ごせているのも
納豆の影響がずいぶんあるのではないかと思っている
たかが(と思ったことはないが)納豆されど納豆である

■高野秀行 (文・写真)/スケラッコ (絵)
 『世界の納豆をめぐる探検 (月刊たくさんのふしぎ2022年2月号)』
 (福音館書店 2022/2)
■高野 秀行『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』
 (新潮文庫 新潮社 2020/5)
■高野秀行『幻のアフリカ納豆を追え! : そして現れた<サピエンス納豆> 』
 (新潮社 2020/8)

(『世界の納豆をめぐる探検 (月刊たくさんのふしぎ)より』

「いろいろとおいしく食べられる納豆だけどみんな納豆のこよをよくわかっていないような気がする。例えば納豆を食べている国は日本だけじゃなうとか、納豆は木の葉っぱでも作ることができるとか知らないんじゃないかな・・・・・・」

「納豆は大豆が発酵したものだ。(・・・)納豆の場合、納豆菌という菌が働いてあの独特の匂いやねばり気を出す。納豆菌はどこにでもいる。田んぼや畑、山などにもいる。
 でも現代の納豆工場では煮たり蒸したりした大豆に納豆菌を直接ふりかける。(・・・)
 現在はコンピュータ制御の温度調整装置を使っているので、納豆の品質を保つのは昔よりらくになった。それでも大豆の種類やサイズが少しちがっただけでも味が変わるし、納豆菌自体もいつも同じように働くわけではないという。納豆会社の社長さんが「40年作っても納豆は難しい」というほどだ。」

「今、納豆はそのままご飯にかけて食べるのがふつうの食べ方だと思う。でも、なんとも意外なことに、これはわりと「新しい」食べ方だった。昔の日本人はご飯にかけたりしないで、「納豆汁」にして食べていた。」

「納豆の起源は謎に包まれている。私は「(名産地の)茨城県の水戸?」と思っていたが、実は水戸納豆は今から100年ちょっと前の明治時代に、宮城県の納豆作り名人に来てもらって作ったのがはじめだという。」
「では納豆はいつ、どこで作られたものなのだろう?
 歴史をたどると、納豆があったことのわかるいちばん古い記録は室町時代(600年ほど前)に書かれた「精進魚類物語」だ。」
「それ以上昔になると、あとは伝説でしかない。」
「でも、これらはみんな日本の話だ。納豆は日本だけにあるのだろうか。いや、そんなことはない。私もびっくりしたのだけれど、世界のいろんなところにあったのだ。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜ミャンマーの「せんべい納豆」より)

「ミャンマーの東北部にシャン州という場所がある。そこに住むシャン族という民族が作っている納豆は、「トナオ」という。ナットウではなくトナオ。「くさった豆」という意味だ。はじめて見ると全然納豆に見えない。薄くて丸いせんべいみたいな形をしているかただ。私は「せんべい納豆」と呼んでいる。でも匂いをかいだら、なつかしい納豆の匂いがする。
 作り方は日本の伝統的な納豆とよく似ている。ただ稲ワラではなくクワやイジヂクの葉っぱやシダで大豆を包んで発酵させる。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜ネパールの「キネマ」より)

「ネパールの東側、低い山がなだらかにつづく農村地帯には「キネマ」という納豆がある。」
「キネマはパパイヤやバナナの葉っぱで大豆を包んで作ることが多い。」
「食べ方はいろいろ。ネパールはカレー味にすることが多い。といっても日本のカレーとはちがって、もっとさらっとしている。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜中国ミャオ族の「ガオヨウ」より)

「中国では納豆を食べないと一般には思われている。でも南部の山岳地帯に住む少数民族の中には納豆を食べる人たちがけっこういる。湖南省に住むミャオ族もそのひとつ。」
「土壁の家には長さ3メートル、大きな中華鍋を3つも埋め込んだ石造りの巨大カマドがあって驚いた。納豆作りもここでおこなわれる。
 まずは薪をくべて火をおこる。大豆を煮て化学繊維の袋に入れる。別の鍋にシダを敷きつめ、上に布をかぶせてから、煮豆の入った袋を置いてフタをする。2晩おいたらできあがっていた。この納豆をミャオ族の言葉で「ガオヨウ」と呼ぶ。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜韓国の「チャングッチャン」より)

「おとなりの韓国にも納豆料理があって。呼び名は「チャングッチャン」。日本式に言えば「納豆汁」である。野菜や豆腐と一緒に煮こんで食べる。トウガラシがきいていてピリ辛だ。」
「韓国では日本と同じように煮ワラで煮豆を発行させて生チャングッチャンを作る。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜ナイジェリアの「ダワダワ」より)

「アジアの広い地域で、私たちと同じように、納豆を食べている人たちがいた。それだけでも驚きなのに、取材を続けていくともっと驚くことに気づいた。アフリカにも納豆があったのだ。西アフリカの15くらいの国で、おそらく2億人ぐらいの人が納豆を食べている。
 私がまず訪れたのはナイジェリア北部のカノ州の村。サハラ砂漠のすぐとなりにあり、すごく暑くて乾燥したところだ。ハウサ族というイスラム教徒の人たちが「ダワダワ」と呼ばれる納豆を作っていた。アフリカの納豆はアジアの納豆と少しちあがう。アジアではみんな、大豆で納豆を作っていたが、アフリカでは主に「パルキア」というマメ科の大きな木の実から作る。」
「ちがうのは、煮た豆を葉っぱや稲ワラに包まず、ひょうたんで作った容器に入れる。このひょうたんに納豆菌がついているのだ。
 もの置きにひと晩おくと、もう発酵していた。暑いからだろう。最高気温が40度以上あるのだ。手で触るとネバネバするし、なつかしい匂いがする。味見すると、まさに納豆。このままご飯にかけて食べたくなるほど。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜ブルキハファソの「バオバブ納豆」より)

「アフリカにはパルキア豆以外の豆から作る納豆もあるらしい。私がいちばんおもしろいと思ったのは「バオバブ納豆」。豆ではなくバオバブの種から作るという。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜「納豆の起源の謎にせまる」より)

「納豆はいつ、どこで生まれたのか? 「稲が日本に伝わった弥生時代に納豆が食べられていてもおかしくない」という意見があるが、アジア納豆を調べた結果、納豆は稲ワラ以外のものでも作れるとわかった。それなら弥生時代より前の縄文時代から食べられていてもおかしくない。」
「アフリカ納豆を調べた結果、納豆は大豆でなくても作れるとわかった。それなら、大豆になる前のツルマメでも作れるのではないか。そう思って。山梨県の南アルプス市ふるさと文化伝承館で、館長の山中誠二先生と一緒にツルマメで納豆を作る実験をおこなった。」

(『世界の納豆をめぐる探検』〜「縄文納豆を作る」より)

「ツルマメは殻が固いので、そのまま発酵させるのが難しい。でも私はバオバブ納豆の作り方をまねすることを思いついた。まず豆を煮て、それを石皿でつぶすのだ。伝承館には縄文時代の本ものの石皿があり、それでゴリゴリと豆をつぶした。」
「あとは縄文時代から日本に生えていたトチという木の葉っぱでつぶした豆を包んで、ヨーグルトメーカーに入れて、温度を42度に設定する。
 3日後、結果は・・・・・・見事に納豆になっていた!!」

「納豆は世界のいろんな場所で愛されている。それはなぜか?
 アジアやアフリカで、納豆が食べられているのは決して豊かではない土地だ。海や川がない場所、乾燥した場所や山の中であることが多い。そういう場所では動物の肉や魚が手に入りにくい。肉や魚には人間の体にとってとても大事なタンパク質が含まれている。タンパク質がとれないと人間は生きていけない。でも納豆には魚や肉に負けないほどタンパク質がある。そう、豊かではない土地にくらす人たちにとって、納豆は命のもとなのだ。同時に、魚や肉はおいしいダシを作る。そういうものがない場所の人は納豆を出しに使う。納豆には魚や肉にはかなわないけど、やっぱりダシの成分がふくまれている。納豆はおおいしい食事のもとででもある。
 私はずいぶんいろんな場所で納豆を見てきた。どこでも納豆はご馳走ではない。くさいし、ねばねばしているし、なんかちょっとかっこ悪い。お客さんに出したりしない。でも、だからこそ、日本人をふくめアジアの人もアフリカの人も、納豆を自分の「家族」のように思っている。」

2アジアの納豆料理

3アフリカの納豆料理

4納豆の起源にせまる


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?