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ボブ・ディラン『ソングの哲学』

☆mediopos-3140  2023.6.23

ラジオから流れてくる音楽を
ほとんどジャンル・フリーで聴き始めてから
半世紀以上になるにもかかわらず
ボブ・ディランの音楽は
これまで数えるほどしか聴いていない

とくに理由というほどの理由はないけれど
ノーベル賞を受賞する前くらいに
主なものを年代順に聴いてみようと思っていたところ
その受賞ということからくる天邪鬼根性がでて
また聴く機会をなくしてしまっていた

本書『ソングの哲学』も
立ち読みに終わってしまいそうだったところ
訳者の名前に目が留まった

グレゴリー・ベイトソンの訳者・佐藤良明である
(ちょうど文庫化された『精神の生態学へ』を読んでいる)
佐藤良明にはトマス・ピンチョンなどの訳もある

ボブ・ディランとベイトソンのイメージは
いまだぼくのなかでリンクしてはいないけれど
こうした「縁」にはなにか意味がありそうだ
ということで『ソングの哲学』をとりあげることに

本書はディランが2010年から取り組んできたもので
66曲を選んでポピュラー音楽の「うた」を論じているが
それは「音楽批評の到達点。
神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠。
アメリカの内奥に分け入り、うたのなかに存在の意味、
時の超越を透かし見る。」哲学だという

アメリカの音楽は
ジャズやブルースなどに関してはそれなりに
歴史や音楽家などについてまとまって
ふれる機会はあったけれど
「ポピュラー音楽」ということでいえば
その都度場当たり的に聴いてきただけなので
この際ディランの「哲学」的視点を辿ってみたいと思った

訳者の佐藤氏によれば
「健やかな毒気をもって、いまの時代を覆う
きれい事(ポップソングを含む)の数々を斬る。」
「その語りは一筋縄ではいかない。」

また「ディランという人間は、
有名な割に知られていないと思う。
アメリカという国もだ。
これは両者の内奥へ、読者を導く本である。」

ということなのでさまざまな発見が期待できそうだ
これから1曲1曲聴きながら読んでいくことにしたい
(66日のシリーズでご紹介していく予定だが・・・)

佐藤氏ディランの訳詩集(全2巻)も訳されている
その思い入れからだろう
岩波書店のWebサイトで各曲に関する
解説も比較的詳細に掲載されている

ちなみに66曲を発表年代別に見てみると
もっとも多いのが1950年代で30曲ほど
最も古いのが1920年代で3曲
1960年代は13曲
1970年代は14曲
1980年代は3曲
1990年代は1曲のみ
そして2000年代が3曲となっている

本書でとりあげられている66曲のリストは
以下の引用部分に記載してみた
聴いたことのなさそうな曲がたくさんある

なお訳者の佐藤によるディランの訳詩集をもとに
今度こそ近いうちにディランの音楽も
まとまって聴く機会をもちたいと思っている

■ボブ・ディラン(佐藤良明訳)
 『ソングの哲学』(岩波書店 2023/4)

※本の内容
「ディランが66の曲を選びポピュラー音楽の奥義を明かす。詞の世界にきみを導く抒情的散文、社会や制度に切り込む精緻な楽曲分析、150点余の豊富な図版──突っ走る詩人/世界的な文学者による音楽批評の到達点。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠。アメリカの内奥に分け入り、うたのなかに存在の意味、時の超越を透かし見る。」

「『自伝』以来18年ぶりの、ノーベル賞受賞後初の著書。
2010年から取り組んできた本書は、ポピュラー音楽に対するディランの飛び抜けた洞察力の賜物である。スティーヴン・フォスターからエルヴィス・コステロ、ハンク・ウィリアムズからニーナ・シモンに至る多種多彩な66曲を取り上げ、安易な押韻の罠について、余計な一音節がもたらす破滅について説き、ブルーグラスとヘビーメタルの類縁性まで明かしてくれる。文章は独特なディラン流。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠、時に腹の皮がよじれるほど愉快だ。表面上は音楽の話であるのに、人間存在に関する深い考察を含んでいる。150点余の精選された図版が、本文から抜粋された夢のようなリフのシリーズと相まって、叙事詩にも似た超越性を醸し出す。

2020年に傑作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を発表したディランは1960年代以降、すべての年代(ディケード)でヒットを飛ばす存在だが、ディランが長年のあいだ培った技術の粋が詰め込まれた本書は、その音楽活動にも比肩する、とてつもない芸術的達成だ。」

(栞:佐藤良明「ソングの大家が語るソング論」より)

「ここに開示されるのはディランの、長いうた人生の中で醸造された、独特なコクと香りを持つ哲学である。原題は The Philosophy of Modern Song. songという英語は、古代中世の詩歌を含むので、本書で扱う「うた」を絞り込むのに、modernを付ける必要があったが、日本語の「ソング」には、万葉の歌も中世の謡曲も含まれない。過去100年ほどの西洋の、あらゆるジャンルのうたを指すのに最適な語は何かと熟考した末、邦題を「ソングの哲学」とした。

 登場する最古参はスティーヴン・フォスターで、最若手がエルヴィス・コステロ。66人の他人の曲を乗っ取って、それをディランが操縦する。詩人特有の誇張法によって、強引に膨らまし、うたの「はらわた」まで見せてしまう。フェアなやり方とは言えないが、手口は高級で、ディラン自身の声はしっかり伝わってくる。それがA面、B面(各章の後半)はカメラを引いて、背景の人生や文化が語られる。闊達自在、時に「政治的な正しさ」などお構いなしに突っ走る。さすがにこれはまずくないか、と思う発言もあるが、本書内でディランが述べるとおり、マネーが同意を求めるところに疑義を挟むのがアーティストの仕事であるなら、これでいいのだろう。

 健やかな毒気をもって、いまの時代を覆うきれい事(ポップソングを含む)の数々を斬る。依拠するところは、うたにこもる民衆のコモンセンスと、かつて偉大だったと著者が信じるアメリカ文化(特に映画)のありようだ。が、その語りは一筋縄ではいかない。

 たとえば、モータウンの発展版ともいうべき、成熟した戦争論を語る。ピート・シーガーに敬礼しつつ、それに勝る共感と弔意を。先住民活動家ジョン・トルーデルに捧げる。

 レノン=マッカートニーは相手にせず、ブライアン・ウィルソンなどは名前も出ないソング論だが、グレイトフル・デッドに関する綿密な分析を読めば、排除の理由は明らかだろう。ディランの軸足はつねに、カントリーとブルースと、そのルーツにあった。ルーツから華を————プレスリーやジョニー・キャッシュやロイ・オービソンを————引き出したサム・フィリップスらの仕掛け人に、本書は最大の信頼を寄せている。そしてもちろん、ハンク・ウィリアムズ、ウィリー・ネルソン、ジミー・リード、ライ・クーダーら本物の業師たちに、人種もジャンルも、見てくれにすぎない。ソングの本質は、ハートと同じく、単純で簡素なところにあることを繰り返し知らしめる。

 一方で、少年時代のボブにラジオから歌いかけていたシナトラやディーン・マーティン、そして同世代に近いボビー・ダーリンやリッキー・ネルソンらにまつわる、時に苦み走ったエピソードも、本書に独特の読み応えを添えている。

 嘆きもあれば教訓もある。冗談も放談もある。いろいろあって、それらを十分に楽しむには、相当の知識が求められるが、版元にお願いして、補注をWebサイトに載せていただく。ディランという人間は、有名な割に知られていないと思う。アメリカという国もだ。これは両者の内奥へ、読者を導く本である。」

(ボブ・ディラン『ソングの哲学』訳者・佐藤良明氏による各曲解説/Webサイトでの補注より)

「 本書を読み終えた読者は、あるソングがいつ、どこから聞こえるのか、どんなジャンルのうたなのか、まるで判然としない宙空に浮かんだ気持ちになるだろう。フォスターの時代の黒塗り芸に始まり、ジャズを起ち上げ、ロックを起ち上げ、ブロードウェイとハリウッドのミュージカルの華麗な歴史を刻んできたアメリカのポピュラー・ソングたち。それらを一望に収め、2023年にあって「私は一切を包み込む / I contain multitudes」とうそぶいてライヴのステージに立つ男がここにいる。」

◎CONTENTS

Chapter01 デトロイト・シティ──ボビー・ベア
Chapter02 パンプ・イット・アップ──エルヴィス・コステロ
Chapter03 ウィズアウト・ア・ソング──ペリー・コモ
Chapter04 この悪の園から連れ出してくれ──ジミー・ウェイジズ
Chapter05 そこにグラスがある──ウエブ・ピアス
Chapter06 放浪ジプシーのウィリーと俺──ビリー・ジョー・シェイヴァー
Chapter07 ゥッティ・フルッティ──リトル・リチャード
Chapter08 マネー・ハニー──エルヴィス・プレスリー
Chapter09 マイ・ジェネレーション──ザ・フー
Chapter10 ジェシー・ジェイムズ──ハリー・マクリントック
Chapter11 プア・リトル・フール──リッキー・ネルソン
Chapter12 パンチョとレフティ──ウィリー・ネルソン&マール・ハガード
Chapter13 ザ・プリテンダー──ジャクソン・ブラウン
Chapter14 マック・ザ・ナイフ──ボビー・ダーリン
Chapter15 ウィッフェンプーフ・ソング──ビング・クロスビー
Chapter16 ユー・ドンド・ノウ・ミー──エディ・アーノルド
Chapter17 膨れ上がる混乱──テンプテーションズ
Chapter18 ポイズン・ラヴ──ジョニーとジャック
Chapter19 ビヨンド・ザ・シー──ボビー・ダーリン
Chapter20 オン・ザ・ロード・アゲン──ウィリー・ネルソン
Chapter21 二人の絆──ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ
Chapter22 泣いた小さなちぎれ雲──ジョニー・レイ
Chapter23 エルパソ──マーティ・ロビンズ
Chapter24 ネリー・ワズ・ア・レディー──アルヴィン・ヤングブラッド・ハート
Chapter25 チーパー・トゥ・キープ・ハー──ジョニー・テイラー
Chapter26 アイ・ガット・ア・ウーマン──レイ・チャールズ
Chapter27 CIAマン──ザ・ファッグス
Chapter28 君住む街角──ヴィック・ダモーン
Chapter29 トラッキン──グレイトフル・デッド
Chapter30 ルビー、怒ったのか?──オズボーン・ブラザーズ
Chapter31 オールド・バイオリン──ジョニー・ペイチェックズ
Chapter32 ヴォラーレ──ドメニコ・モドゥーニョ
Chapter33 ロンドン・コーリング──ザ・クラッシュ
Chapter34 ユア・チーティン・ハート──ハンク・ウィリアムズwithドリフティング・カウボーイズ
Chapter35 ブルー・バイユー──ロイ・オービソン
Chapter36 ミッドナイト・ライダー──オールマン・ブラザーズ・バンド
Chapter37 ブルー・スエード・シューズ──カール・パーキンス
Chapter38 マイ・プレイヤー──ザ・プラターズ
Chapter39 ダーティ・ライフ・アンド・タイムズ──ウォーレン・ジヴォン
Chapter40 もう痛まない──ジョン・トルーデル
Chapter41 キー・トゥ・ザ・ハイウェイ──リトル・ウォルタール
Chapter42 みんな慈悲を叫び求める──モーズ・アリソンル
Chapter43 黒い戦争──エドウィン・スター
Chapter44 ビッグ・リバー──ジョニー・キャッシュ&ザ・テネシー・トゥー
Chapter45 フィール・ソー・グッド──ソニー・バージェス
Chapter46 ブルー・ムーン──ディーン・マーチン
Chapter47 悲しきジプシー──シェール
Chapter48 俺のフライパンはいつも料理と油だらけ──アンクル・デイヴ・メイコン
Chapter49 恋のゲーム──トミー・エドワーズ
Chapter50 ある女──アーニー・ケイドー
Chapter51 俺はいつもイカレていた──ウェイロン・ジェニングス
Chapter52 魔女のささやき──イーグルス
Chapter53 ビッグ・ボス・マン──ジミー・リード
Chapter54 のっぽのサリー──リトル・リチャード
Chapter55 老いて迷惑なばかり──チャーリー・プール
Chapter56 ブラック・マジック・ウーマン──サンタナ
Chapter57 フェニックスに着くころに──ジミー・ウェッブ
Chapter58 家へおいでよ──ローズマリー・クルーニー
Chapter59 銃は街に持っていかずに──ジョニー・キャッシュ
Chapter60 降っても晴れても──ジュディ・ガーランド
Chapter61 悲しき願い──ニーナ・シモン
Chapter62 夜のストレンジャー──フランク・シナトラ
Chapter63 ラスヴェガス万才──エルヴィス・プレスリー
Chapter64 サタデイ・ナイト・アット・ザ・ムーヴィーズ──ザ・ドリフターズ
Chapter65 腰まで泥まみれ──ピート・シーガー
Chapter66 どこなのか、いつなのか──ディオン

◎ボブ・ディラン『ソングの哲学』訳者・佐藤良明氏による各曲解説(00-33)

◎ボブ・ディラン『ソングの哲学』訳者・佐藤良明氏による各曲解説(34-66)


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