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『かぐわしき植物たちの秘密/香りとヒトの科学』

☆mediopos-2293  2021.2.25

自宅の机の隅には
地元石鎚山のクロモジの
エッセンシャルオイルを置いていて
ときおりその爽やかな香りを嗅ぐ

天然クロモジの枝葉約1kgから
わずか1.5mL程度しか採取できないという希少な精油で
主な成分はシネオールとゲラニオール

このクロモジは本書でも第四章
「ウイルスや細菌を撃退する香り」の最初に
「インフルエンザの予防効果にも注目!」
ということでとりあげられている

クロモジエキスには
「ウイルスを不活性化する作用と、
ウイルスの増殖を抑える作用」があるとのこと

コロナ禍にも適した香りの作用があり
その効用が明らかにされたりもしているのだが
本書では「香りとヒトの科学」とあるように
「若返りとダイエット」
「色香で惑わす官能」
「リラックス効果をもたらす」
「健康を支えてくれる」といったテーマで
さまざまな植物の「香りの正体」が
科学的な観点から紹介されていて興味深い

香りは嗅覚によって感覚されるが
その感覚は人間の最古の感覚のひとつだともいうように
ある意味ではその他の感覚にも
嗅覚の影響は大きく働くといってもいいのかもしれない

ぼくの場合も嗅覚というのは
すべての感覚のもとにあるようで
見るときも聞くときももちろん味わうときにも
さらにいえば考えるときでさえ
「香」のイメージがそこに浮かんだりする

だれかと会ったときや
ひとの言葉を読むときでも
物理的な「香」ではなく
むしろ感覚を超えた「香」として
それが訪れてくるように感じたりするのだ

その「香」を言葉にするのはむずかしいけれど
ごく単純にいって「いい香りのする人」もいれば
「避けたい香りのする人」もいる

もちろん同じ人でもその都度
その「香り」はさまざまに変化したりもするが
基本のトーンはふつうは変わらないでいる

ときにそうした「香り」が
ぼくのなかで混ざり合って混乱するときがあり
そんなときは最初に挙げたクロモジを嗅いで
その混乱を鎮めようとしたりもする
そのことを科学的に説明することはむずかしいだろう
それはおそらく感覚の根源的な働きに
複雑に関わっているだろうからだ

■田中修・丹治邦和
 『かぐわしき植物たちの秘密/香りとヒトの科学』
 (山と渓谷社 2021.3)

「自然の中で、植物たちは〝天然の香り〟を漂わせます。その香りには、姿や形はありません。そのため、ともすれば、その存在が大きいものには感じられません。しかし、その香りの多彩な働きに目を向ければ、「〝ただもの〟ではない」という香りの姿が浮かんできます。
 たとえば、多くの植物が、香りで自分たちのからだを守ります。生きている植物たちは、香りを放って、自分のからだにカビが生えたり病原菌に感染したりすることから防御しているのです。その香りは、植物たちのからだを守るのにとどまらず、森林浴では〝森の香り〟や〝森林の香り〟として、私たち人間の心を癒し、ストレスを和らげてくれます。
 遠い昔から、それらの香りは、私たち人間の暮らしの中でも、活躍してくれています。私たちは、その香りの力を利用して、カビや細菌などの繁殖を抑え、桜餅や鯖寿司などで、食材の保存や風味を守ってきています。
 また、植物たちは、自分たちの魅力を高めるのに、香りを利用します。多くの植物は、子どもである種子をつくるために、ハチやチョウなどを誘い込まなければなりません。そのための魅力となる大きな武器が、香りなのです。
 〝色香で惑わす〟という表現は、私たち人間の場合のは、あまり好ましいものでないかもしれません。しかし、多くの植物は、色香で虫を惑わし、花の中に誘い込みます。もちろん、色香の「色」は花の色であり、「香」は花の香りです。
 香りは、虫を誘うための大切な魅力の一つなのです。しかも、香りは、魅力をふりまくための〝飛び道具〟となって、遠くまで漂ってくれます。この魅力に誘われるのは、虫たちだけでなく、私たち人間も同じです。
 私たち人間も、植物たちの色香の魅力に引きつけられて、植物たちを栽培し、切り花や生け花として室内に飾り、花の季節には、観賞するためにあちこちへ足を運びます。それらから漂う香りは、私たちの何げない日々の中で、多くの人が楽しく感じる話題の素材となります。
 私たち人間にとって、香りは、刺激として味覚を高める働きもあります。鼻をつまんで、香りをかんじないようにして食べると、「どのような味なのかわからない」ということはよくあります。味を感じるためには、香りはなくてはならないものなのです。
 香りは、味を感じさせるだけではなく、高級なレストランなどの料理の味を上まわって、主役の座を奪うこともあります。そのため、いい香りを強く漂わせる花は、そのような場所に置かれるのを敬遠されることもあります。もっと積極的には、放たれる香りを抑制する物質が花に与えられることすらあります。
 一方で、ユズやレモンなどのように強い香りとともに、酸みをもち、生では果実が食べられないような香酸柑橘類の香りは、素材の味を際立たせて、喉を潤します。また、ワサビやミョウガなどの香辛野菜の香りは、食材の味を生かし、料理の風味を高めます。
 植物の香りは、私たちが味を感じるときに働くのと同じように、私たちの気持ちにも響くものです。苦しいときや悲しいときには、やさしく漂う香りが心を和らげ、癒してくれます。
 逆に、お祝い事や喜びを感じる出来事があるときには、香りが心を高揚させてくれます。また、香りは、戦わざるを得ないときには、戦いに望むための気持ちを鼓舞してくれることもあります。
 何も語ることなく、動きまわることもない植物たちが、仲間とコミュニケーションをとるときの〝秘密の手段〟となるのも、香りです。病害虫がそばにいることを仲間に伝えたり、自分のからだを守るために、助けを呼ぶ手段として利用したりすることもあります。
 このように、植物たちの香りには、多彩な働きがあります。近年は、その中でも、私たちの健康を支えてくれる香りの働きが、多くの人々の興味を引き、話題となっています。若返りやダイエットに効果があるという香りの働きが、科学的に明らかにされつつあるのです。」

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