桐村 里紗 『腸と森の「土」を育てる/微生物が健康にする人と環境』
☆mediopos-2469 2021.8.20
すべてのものは
関係しあっている
それにもかかわらず
「分断思考」は
その関係性を切り離してしまう
近代の医学や科学・学問は
さまざまな分野を「分断化」し
専門化・細分化することで「発展」してきたのだが
部分だけしか視野に入らないため
その「分断思考」によって
専門以外の外の領域との関係性を
見失わせてしまうことになった
そして地球環境は調和を失い
人もまた調和を失っていることから
「プラネタリーヘルス」という
地球と人は密接に関係しあっている
という視点が必要とされるが
そのなかで基本となるのが「食」の問題である
私たちが日々食べているものは
自然環境と密接に関わっていて
自然環境に調和が失われると
私たちの食の調和も失われてしまうからだ
本書の視点の基本は
「人は森であり、腸に『土』を内包している――」
ということである
私たちにとってもっとも身近な
自然環境こそが「腸内環境」なのだ
森にとっての土にあたるものが
わたしたちのなかの腸内細菌である
腸内細菌の調和した環境をつくるためには
それに適した「食」が必要になるが
そのためには調和した土壌
つまり調和した自然環境が必要になる
「森は海の恋人」であるように
海の恵みを豊かにするためには
森を豊かにする必要があるというのも同じである
腸は第二の脳であるともいわれ
その形態も似ているが
腸を健康にすることは
脳の健康とも深く関係している
本書の視点からは少し飛躍するが
脳ではなく人の魂に視点を向けると
魂にとっての「土」を育てることも必要になる
魂にとっての「分断思考」もまた
魂の不調和を招いてしまうからだ
魂にも生態系があると考えてみると
その生態系の不調和が
感情の不調和や思考の不調和を
引き起こしているともいえる
腸と森の「土」にあわせて
「魂の土」を育てる視点も必要だ
それらもすべて関係しあっている
■桐村 里紗
『腸と森の「土」を育てる/微生物が健康にする人と環境』
(光文社新書 2021/8)
「近代の医学は、本来、全体がネットワークとなり、相互に影響し合っている「身体」と「心」を分断し、さらに、身体を交換可能なパーツとして分断し、どんどん細分化していきました。
この分断思考が、他者や自然との連続性を失わせ、人を孤独に追いやりながらエゴを増幅させ、「自分だけで健康に、幸せになれる」という思い込みを生んだ原因です。
人があらゆる分野において、分断思考に基づいて自然を支配し、社会システムを構築した結果、人を含む地球全体の病を生んでいます。
身心の病気や飢餓、貧困などの社会問題、差し迫る環境問題など、SDGs(Substainable Development Goals:持続可能な開発目標)に掲げられたあらゆる課題は、全て、人が自ら生み出し、全体を破壊しながら自らの首を絞めている、自己矛盾した状態です。
一人ひとりが健康な身心を保ちながら、壊れた世界を同時に治癒させていくためには、人を含む全体を最適化するヘルスケアが必要です。
「人と地球は別々な存在ではなく、相互依存関係にある」という考えを基盤に、多様な生物が生かし合う生態系を維持し、人を含めた地球全体の健康を実現することを「プラネタリーヘルス」といいます。
「プラネタリー」という言葉をイメージする時、脳内で「自分」対「地球」と分断せず、「自分をも内包した地球」という統合思考にシフトすることが、顕在化した問題を解決するために不可欠です。
プラネタリーヘルスを実現するアプローチは、内包される自分というシステムも健康にすることができます。
そのアプローチとして、本書でご提案したいのが、根を下ろす「土」の回復です。難しい方法ではなく、日々の「食」という最も身近な営みこそが、核心です。
食は、土を回復し、人を生命の網(web of life)へと再接続する媒介です。」
「私たちの日々の食の選択は、農業や畜産を通して地球の土にも甚大な影響を与えると同時に、それと連続している「腸の中の土」にも影響を与えています。」
「人は森であり、腹に土を内包しています。多様な微生物が食物を発酵させて作り出した栄養豊富な土です。
腸は、その土に根を下ろし、血管という葉脈を使って栄養を運搬し、青々とした細胞という葉を茂らせます。
世界のありとあらゆるシステムは、注意深く観察すると、全く同じ構造をしています。
人にとって文字通り「土壌」となる腸内環境は、森における土中環境と完璧な相似形です。多様な生物が織りなす森のシステムは、人と腸内細菌が作る「超生命体システム」に再現されます。」
「腸内細菌と腸、脳、そして全身が形成する双方向のネットワークシステム、腸という根と、土壌を作る腸内細菌の絶妙な共生関係、栄養吸収や感染防御サポート体制。水(血流)と空気(呼吸)の絶え間ないフロー。
この関係性は、まさに、生きた土を持つ動的生命システムそのものであるといえます。」
【目次】
はじめに
第1章 人は森であり、腸内に土を持つ
第2章 消化管で人は自然とつながっている
第3章 腸内の土の悪化が、心身にもたらす病
(1)腸と心身とのネットワーク関係
(2)腸内細菌と心身の疾患の具体的な関連
第4章 食と農業の選択で、土の未来を変える
(1)人が与えている、甚大な環境負荷
(2)未来と健康を変える「食と農業」
第5章 微生物で接続する、腸と土、人と自然
――食の選択・ライフスタイル編
(1)腸内の土壌を改良する食の選択
(2)プロバイオティクス――腸と自然をつなぐ発酵食品
(3)プレバイオティクス――腸内の有用菌を育成する
(4)サスティナブルなタンパク源の選択
(5)あなたの腸内の土壌環境を知る
(6)食べ物を大切にする、土に還る
おわりに
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