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リチャード・ヨット『画づくりのための光の授業/CG、アニメ、映像、イラスト創作に欠かせない、光の仕組みと使い方』・ハナムラチカヒロ『まなざしの革命/世界の見方は変えられる』

☆mediopos3387  2024.2.25

映像をつくるとき
ライティング(光)は
どのような効果を生むのか

長年広告制作の仕事に携わってきたこともあり
いちどまとまったかたちで
その基本的な視点とスキルを見直してみたいと
リチャード・ヨット
『画づくりのための光の授業』を読む

基本をおさえておけば
そこからの逸脱も意図的なかたちで可能となるからだ

そしてなによりも
意図的な光の演出によって作り出された
さまざまな「画」を見る際に
まさにその「意図」を意識的に読みとるための
視点を得ることもできる

ここで説明されている項目は
「PART 1 ライティングの基本」では
基本原則・光の向き・自然光・屋内照明と人工照明
陰影・物の表面を知覚する仕組み・拡散反射
鏡面反射・半透明性と透明性・色

「PART 2 人物と環境」では
光と人物・環境の中の光

「PART 3 独創的なライティング」では
構図と演出・ムードと象徴・時と場所

といった各テーマであり

自然光についての基礎的な知識をもとに
特定の目的のための人工光の作り方や
物語性を演出するための光のイメージづくり方など
「画」をつくるための「光」の基本が適切に解説されている

今回この「光の授業」をとりあげたのは
こうした「画」は
作り手の意図によって生み出されるものであって
その意図を意識しないまま無意識に
それを受け取ってしまう危険性を避けるための
ひとつのガイドともなると思ったからだ

すでに2年ほどまえにとりあげたことがある
ハナムラチカヒロ『まなざしの革命』でも
さまざまな示唆されているように

「すでに演出されている」さまざまな情報に対して
私たちがどのような態度で臨む必要があるかについて
「画」として表現されたものから読みとるスキルを
具体的なかたちで読みとることも可能になる

わかりやすくいえば「印象操作」に気づくこと

「画」が嵌め込まれているメディアが
そこに付加された言葉との関係性のなかで
どのように受け取られるべく誘導しているか
その意図を読みとるということである

「マスメディアであっても、ウェブメディアであっても、
メディアはその性質上、何らかの見方のもとで
情報を発信するもの」であって
「情報は伝えられた時点ですでに意図が入っている」ため
「提示された情報をそのまま事実として
素直に受け入れることはリスクを伴う」ものとなる

私たちの多くはマスメディアを中心に与えられる「情報」が
「中立に情報発信」されていると信じしまう傾向があるが
そもそもそうした「広報」こそが
「送り手のメッセージに人々を同調させるために情報を発信」し
「綿密に計画されながらも、
その計画性を隠そうとする特徴を持っている」のである

現代ではそうした情報発信(プロパガンダ)の手法は
広告およびマーケティングにおいても駆使されており
それらを効果的なものとするために
多くは「偶然を装って」やってくるよう仕掛けられている

国家的な規模でそれが計画的になされはじめたのは
第一次大戦時に世論誘導をはじめた
当時のアメリカ合衆国の大統領ウッドロウ・ウィルソンである

ウッドロウ・ウィルソンについては
当時ルドルフ・シュタイナーも
その危険性について再三語っているが
それ以来「大衆の扇動とプロパガンダ」は
全世界的なかたちで
「戦争」へと誘導する巧妙な手法となってきている

それから一〇〇年以上経った現在
その危険性に意識的になっているどころか
「大衆の扇動とプロパガンダ」はあらゆる側面で
しかも巧妙な仕方でなされるようになってきている

そのひとつの対策が「画」を見るときの
意識的な「まなざし」を得ることである

あるメッセージが意図的に与えられたとき
多くの場合そこにそえられた「画」は
情動的な表現のなかで
意図を効果的に働かせる手段ともなっている

まったくフェイクの「画」であっても
それがメッセージにリンクされることで
情動を通じその内容への意識的な視点を曇らせてしまう

そうした際に「情報は情報に過ぎない。
そうやって離れて眺めることが正しい理解」である
という見方を身につけておくことで
「画」から受ける印象から距離を取ることができる

それはまさに現代において必須となっている
メディアリテラシーの課題のひとつとなっている

■リチャード・ヨット(瀧下哉代訳)
 『画づくりのための光の授業
  CG、アニメ、映像、イラスト創作に欠かせない、光の仕組みと使い方』
 (ビー・エヌ・エヌ新社 2022/9 初版第5刷)
■ハナムラチカヒロ『まなざしの革命/世界の見方は変えられる』
 (河出書房新社 2022/1)

*(リチャード・ヨット『画づくりのための光の授業』より各章(1〜15)のテーマ概略)

【1 基本原則】
この章ではライティングの入門編として、日常的な状況で見える光の基本を取り上げます。通常の自然光と人工光において光はどのように作用するのでしょうか。

【2 光の向き】
見る人に対してどの方向に光源があるかによって、光がどのように知覚されるか、また、シーン内のオブジェクトがどのように見えるかが大きく異なってきます。

【3 自然光】
自然光にはさまざまな趣があり、その時々でまるで違う性質を帯びることがあります。この章ではさまざまな自然光を取り上げ、その特性と効果について詳しく見ていきます。

【4 屋内照明と人工照明】
屋内照明は、屋外で見られる光とは全く異なる性質を帯びています。最大の違いは、屋内の場合には、フォールオフ(距離が増加するにつれて照度が減衰していくこと)が重要な要素となることです。

【5 陰影】
「かげ(shadow)」には「陰(フォームシャドウ)」と「影(キャストシャドウ)」の2種類があります。陰影は、あなたの作品に立体感とフォルムを与え、ドラマとサスペンスを感じさせる重要な役割を果たします。

【6 物の表面を知覚する仕組み】
視覚とは、網膜に届いた電磁波を処理し、受け取った情報に基づいて画像を作り上げる手段です。物の表面に反射した光が目の中に入るとき、その光はオブジェクトの表面や量感についての情報を伝えます。

【7 拡散反射】
拡散反射は、入ってきた光が反射面によって激しく散乱(拡散)されるときに生じます。その原因は反射する表面の粗さにあると一般に考えられているが、実は原子レベルで発生する現象です

【8 鏡面反射】
鏡面反射は、鏡などの表面で発生する反射です。表面に当たった光線は、表面に向かったときと同じ角度で反射し、その際、判別可能な像を映し出します。

【9 半透明性と透明性】
物質によっては、光を反射したり吸収したりする代わりに、物質内を通過させ、屈折と呼ばれる過程で光の進行方向を変えるものがあります。

【10 色】
通常の直射日光の場合、太陽が発する白色光には実はさまざまな波長の光が混じり合っていて、私たちがそれらをまとめて見たときに白色光として知覚されます。大事なのは、白として定義される1つの色や光は存在しないということです。

【11 光と人物】
人物は具象芸術(具体的な対象物をわかりやすくはっきり表現する芸術の様式)における中心的な主題であるため、光が肌と相互作用する仕組みを知ることは、アーティストにとって極めて重要です。この章では、光と肌の関係と、肌を本物らしく描く方法を検討します。

【12 環境の中の光】
光は環境の見た目を決めます。光は環境のあらゆる面に作用し、環境にさまざまな特徴と多くの魅力を与えます。そのためライティング条件が異なると、環境が与える印象も大きく変わってきます。

【13 構図と演出】
創造力を発揮して光を駆使することに関しては、ルールはほとんどありません。実際、ルールは邪魔になり得るという認識を持つことが大切です。ここまでの章で物理的な光の特性に関するさまざまなルールを取り上げてきたのに対し、アートにおける光に関するルールは1つしかありません。

【14 ムードと象徴】
光と色は、あなたの観客からさまざまな感情を引き出す重要な鍵です。実際、映画からイラストレーションまで、ほとんど全てのアート作品は、観客の情緒的反応を操るために、光と色をツールとして利用しています。

【15 時と場所】
場所や時代を区切ったり、あるいは本を章ごとに分けるのと同じように、1つのストーリーを分割する要素として光はよく使われます。

*(ハナムラチカヒロ『まなざしの革命』〜「第四章 情報/ファクトかフェイクか」より)

・メディアの見取図
「私たちは直接体験しない限り、世界で起こっていることは何らかの情報媒体を通じて知るほかはない。だからこれまでは、テレビや新聞などから流れてくる情報こそが、私たちが世界をどのように把握するかを決めてきた。しかし、そうしたマスメディアの情報の信頼性が大きく揺らいでいる。どの情報が正しいのかを適切に判断できない状況が生まれ、見ているメディアによってそれぞれの世界が分かれ始めているのだ。それが、常識の崩壊と人々の分断を生んでいる。」

「情報そのものには見えてこない問題もたくさんある。何を情報として取り上げないのかという「隠蔽」の問題。そのメディアがどのような資金調達をしているのかという「出資」の問題。そのメディアは他の公的機関や民間機関、あるいは勢力や個人とどのような力関係にあるのかという「力学」の問題。こうした表には出てこないような要因が影響している。このようにさまざまなフィルタリングがされた情報を正しいと、私たちは素直に受けとめて良いのだろうか。そんな疑問を抱く人はだんだん増えている。」

 ・あらゆる情報はすでに演出されている
「そもそも流れてくる情報には「事実」と「主張」が一緒に溶け込んでいる。マスメディアであっても、ウェブメディアであっても、メディアはその性質上、何らかの見方のもとで情報を発信するものだからだ。だから誤解を怖れずに言うと、ある意味で全ての情報はフェイクニュースである。情報は伝えられた時点ですでに意図が入っている。そして伝え方によってどのような演出も可能である。だから伝える者への信頼が怪しくなっているこの時代では特に、提示された情報をそのまま事実として素直に受け入れることはリスクを伴う。」

・ディープフェイクを見破れるのか
「実際に自分が見た「事実」であっても、信じられるかどうかわからない社会がすでに実現している。目の前で見せられた手品にさえ簡単に騙される私たちである。それなのに、メディアに溢れるさまざまな言葉や画像の真贋を、どうやって見分けるのだろうか。この世界は、あらゆる情報がモニターの画像を通じてやってくる情報文明の段階に入っている。情報技術がさらに高度に洗練されていくほど、いくら注視したとしても、その情報がもはやファクトかフェイクかの見分けがつかない状況がこれまで以上に進むと思われる。」

・情報は情報である
「私たちに最も必要なのは「情報は単なる情報でしかない」と正しく見る見方である。現代はあらゆる情報が、新聞やテレビ、ウェブサイトやSNSなどメディアを通じて複合的にやってくる時代である。また誰もがある特定の見方で情報を切り取り、発信できる時代なのだ。そんな世界では、これまで以上に絶対的な真実などありえない・情報に固執することも、情報を遮断することも、情報に過剰な価値判断をすることも見方を曇らせてしまう。情報は情報に過ぎない。そうやって離れて眺めることが正しい理解であり、情報に溢れる社会の中で生きる最も賢い態度だろう。情報とは私たちはその場で必要な行動を判断する上での単なる材料であり、情報だけが私たちが何かを判断する唯一の拠り所ではないのだから。」

*(ハナムラチカヒロ『まなざしの革命』〜「第五章 広告/偶然は計画される」より)

・見たいものだけが見える窓
「二十世紀の終わりにインターネットが生活の中に現れてから、私たちが触れる情報量は爆発的に増えた。マスメディアが報じることが絶対的な事実ではないことが明るみになり。あらゆる角度からまなざしを向ける可能性が開かれた。これまで明らかにされていなかった事実がモニターに映し出され、少数の人々の声が私たちの耳に届く機会も増えた。およそ信じがたいと思うような出来事や、多様な見方が世界にあることも共有された。それによって私たちの世界の見方が各段に自由になり、視野は大きく拡がったはずだった。
 ところが実際には、私たちの見方はますます狭くなっている。把握できないほどの情報の海の中で、混乱した私たちのまなざしが向かう先は「自分が見たいもの」である。それはまさにインターネットで検索するという行為に象徴されている。私たちが何かを知ろうとするとき、まず初めに検索エンジンに知りたいキーワードを打ち込むだおる。そうすると。それに関連したウェブサイトが表示される。そこには自分が欲しい情報、見たい情報ばかりが並んでいる。
 しかもご存じのように、画面に表示される情報は、私たちそれぞれの個別の関心に紐づけて表示されている。通常検索エンジンには、ウェブビーコンと呼ばれるユーザーのアクセス状況を把握できる仕組みが用いられている。それによって各ユーザーの所在地や過去のクリック履歴、検索履歴など私たちの個人情報はトラッキング(追跡)され、全ての情報はユーザープロファイルとして紐づけられている。それらは解析されて、アルゴリズムを通じて各ユーザーが見たい情報を絞り込んで表示し、見たくない情報を遮断している。」

・進化するマーケティング
「今、マーケティングが管理しようとするのは、私たちの価値観であり、理想像であり、あるべき姿である。それを叶えるようなサービスを提供することが、次の課題になっていきく。数々のモノやサービスが溢れる中で、これから選ばれるもの。それは、私たち自身を方向付けてくれるもの。私たちの存在を、もっと意義深く、価値ある方向へと導いてくれるようなもの。自分らしさを引き出し、自分をより高めてくれるもの。そのように、自分を承認し、保証し、演出してくれるものを人々はますます求めるようになる。
 しかし、そこには大きな罠が潜んでいる。その自分らしさは本当に自分自身が望んでいる理想の姿なのだろうか。それともマーケティング技術によって、こんな自分になりたいと思わされた願望に過ぎないのだろうか。その区別は私たちが思っているほど容易ではない。」

・広告・広報・宣伝
「広告にも広報にも関係する言葉である「宣伝」とは、一体どういうものなのであろうか。私たちは意識することが少ないが、そもそも宣伝とは「プロパガンダ(propaganda)」の訳語なのだ。それは人々の意識や行動をある特定の方向へ導くための情報操作も含まれる。メッセージを作り出すのは情報の発信側であるが、そこで選ばれる言葉やビジュアルは、あたかも私たち自身が考えていたことであるかのようにイマジネーションが導かれる。情報の受け手に感じてほしい価値、共感して欲しい思想、取って欲しい態度などをうまく誘導するためのイメージ。それらが、暗示や誇張などを通じて、私たちの潜在意識へ滑り込むように発信されるのである。」

「中立に情報発信するはずの広報はそうした情報操作をしないのだろうか。そうではない。実は広報こそが、綿密に計画されながらも、その計画性を隠そうとする特徴を持っている。組織や団体が行う活動の正当性や公共的な側面を啓蒙することが広報の目的であり。まさにそれは宣伝の本来の意味であるプロパガンダに近いものである。送り手のメッセージに人々を同調させるために情報を発信する広報は、人々の理解や共感、そして世論を導くようなコミュニケーション装置である。そこでは、情報の受け手が自らの意志で選択し同調したと思うように計画することこそが重要になるのである。」

・マーケティングと戦争
「国家によるプロパガンダ技術を組織的に追求してきたのは、他でもないアメリカ合衆国である。当時の大統領であるウッドロウ・ウィルソンが、第一次大戦時に国内の世論誘導のために設立した通称「クリール委員会」(Committee of Public Information)と呼ばれる政府の広報機関がその始まりである。クリール委員会によるプロパガンダの活動は、新聞やラジオ、ポスターや映画、そして演説やイベントに至るまで、あらゆるメディアを駆使して、政府の思想を普及させることを目的とした。

 拡めるべき思想にふさわしい情報を選別して、都合の悪い情報を排除することで世論を導く。そうやってクリール委員会はアメリカ国民に対して、1917年から1919年にかけて、第一世界大戦参戦への支持を生み出すような世論形成を精力的に行った。そこには真実を誇張するような表現や、虚偽か誤報に近いものも混じっていた。
 このプロパガンダの技術によって、数多くの民衆が民主主義の名の下で、まなざしを向ける方向を先導されたが、その後の戦争においてプロパガンダが重要な作戦になったのは言うまでもない。ロシア革命後のソ連、第二次世界大戦時のナチスなどに見られたように、大衆の扇動とプロパガンダがいかに戦争にとって重要か、が多くの国で理解された。」

「広報や広告およびマーケティングで普通に使われるさまざまな手法は、この時期より私たちの無意識を誘導するうように開発されてきた。」

「その情報の多くは「偶然を装って」やってくることも意識する必要がある。あくまで偶然に行った出来事であるかのように見えるほど、そのメッセージを無意識に深く受け入れてしまうものだ。計画は計画されたものである、と悟られると効力を失う。だから計画されていることそのものが伏せられる。あくまで「偶然」に起こった出来事を、偶然に私たちが目に留めること。そしてそれが重要な事柄である、と私たちが「偶然」に認識すること。計画する側はそのようなプロセスを踏まえている。あからさまに意図があるように見えないからこそ、私たちは自分のまなざしの向ける先が自ら選択したものであると、思い込むのである。」

「私たちはなぜそれを欲し、なぜそれを恐れるのか。その自分自身の動機について、私たちは無自覚である。だが私たちの行動の動機が、気づかない間に自分の意図の外側から計画されていない保証はどこにもないのだ。」

□リチャード・ヨット『画づくりのための光の授業』
【目次】

PART 1: LIGHTING FUNDAMENTALS
ライティングの基本
1_Basic Principles_基本原則
2_Light Direction_光の向き
3_Natural Light_自然光
4_Indoor and Artificial Lighting_屋内照明と人工照明
5_Shadows_陰影
6_How We Perceive Surfaces_物の表面を知覚する仕組み
7_Diffuse Reflection_拡散反射
8_Specular Reflection_鏡面反射
9_Translucency and Transparency_半透明性と透明性
10_Color_色

PART 2: PEOPLE AND ENVIRONMENTS
人物と環境
11_Light and People_光と人物
12_Light in the Environment_環境の中の光

PART 3: CREATIVE LIGHTING
独創的なライティング
13_Composition and Staging_構図と演出
14_Mood and Symbolism_ムードと象徴
15_Time and Place_時と場所

○リチャード・ヨット(Richard Yot ):
スタイリッシュでユニークな作品を作ることで知られているイラストレーター。紙・3DCG問わず20年間にわたり活動し続け、Disney、HMV、Jamie Oliver、Channel 4などの仕事を手掛け、照明アーティストとして映画制作に携わった経験も持つ。MODOのレンダリングチュートリアルビデオなども制作。

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