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チャールズ・スペンス『センスハック/生産性をあげる究極の多感覚メソッド』

☆mediopos2757  2022.9.13

「センスハッキング」とは
「五感や感覚的刺激を利用して、
社会的、情緒的健康の向上を促進すること」だという

五感を組み合わせ
「多感覚」な環境を構築することで
「より生産性が高く」
「よりストレスレス」で
「より幸福な人生」を実現できるとしている

著者はトヨタやユニリーバ・ペプシコ・ネスレといった
多国籍企業への感覚的コンサルティング経験をもつ
オックスフォード大学の心理学者で
いわばマーケティング的な観点から
五感の関連性への理解と統合という視点から
バランスの取れた多感覚刺激の得られる感覚環境や
そのための空間づくりを提案している

まずいちばん基本となる問いかけは
「複数の感覚を持っている生き物で、
感覚をばらばらに切り離している生き物」は
人間にほかならないのではないかということだ

知覚はほんらい多感覚であって
個別の感覚だけが切り離されてはいない
それにもかかわらず
「五感」というと
視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚とされ
それぞれの感覚が個別に扱われがちがところがある

ここからは本書の示唆からは外れるが
「共感覚」といえば
どこか特別な感覚間の相互作用のようにとらえれがちだが
個別の感覚器官を超えた感覚間の相互作用を
強く感じるひとは確かに存在しているものの
おそらく「共感覚」を持ちえない人は存在しないだろう

しかも感覚は五感だけではない
たとえば仏教の「識」は「六識」であって
「意識」という心的な働きも感覚に入れられている

さらにシュタイナーの神秘学では
「十二感覚」が示唆されている
つまり通常の五つの感覚に加え
生命感覚・運動感覚・平衡感覚・熱感覚
言語感覚・思考感覚・自我感覚という
七つの感覚が加えられている

そうした感覚も含め
それぞれの感覚の感覚器官と対象とする領域
そしてその感覚によってひらかられる認識を踏まえながら
それらの感覚の相互作用への視点を持つことは
「善く生きる」という意味でも非常に重要となる

たとえば「考える」ということにしても
(「考える」というのは「思考感覚」によってなされるが)
おそらくそれが生きたものとなるためには
ほかの十一の感覚の働きから離れては存在しえない
「考える」ことからほかの感覚が切り離されたとしたら
そのぶんだけ「考える」ということは欠損したものとなる

ほかの感覚もすべてそういう視点のもとに
多感覚的・共感覚的に育てていく必要がある
「センスハッキング」はそうした視点に立ってはじめて
そのほんらいの役割を果たすことができる
(マーケティングでできることはほんのわずかだ)

■ チャールズ・スペンス(坂口佳世子訳)
 『センスハック/生産性をあげる究極の多感覚メソッド』
 (草思社 2022/4)

(「序文」より)

「センスハッキングとは正確にはどういうものだろうか。それは五感や感覚的刺激を利用して、社会的、情緒的健康の向上を促進することと定義づけられるだろう。それは五感のすべての独特な能力をよく知り、そしてそれらが互いに作用しあって私たちの感情や行動を左右する予測可能な方法を認めて初めて、感覚的経験の最も効果的なハック(科学的知識に基づいた効果的利用)が期待できるということだ。そうすることで、自分たちだけでなく、私たちの大事な人の正確の質を向上させられるのだ。もっとリラックスしたい、機敏でありたい、より生産的な仕事をしたい、または、ストレスを軽減したい、よく眠りたい、自分が最もよく見える方法を知りたい、ジムでのトレーニング効果を最大限にしたい……。センスハッキングの科学が、あなたの目標と願望の達成の手伝いをする。」

「センスハッキングは、五感の関連性、また、健康、生産性、そして幸福に対する、バランスの取れた感覚的刺激の重要性への高まる認識の上に、成り立っている。これは、たまたま家にいようが、オフィスにいようが、ジムにいようが、買い物中であろうが、治療を受けているときでさえも当てはまる。五感の統合は基本的であり、さらに、生活の質も向上させるだろう。バランスの取れた多感覚刺激は、すでにいくつかの医療現場で利用されており、痛みを軽減したり、入院患者の回復を促進するのに役立っている。」

「複数の感覚を持っている生き物で、感覚をばらばらに切り離している生き物はいない。もし一つの感覚が一方の方向に引っ張り、もう一つの感覚が別の方向に引っ張ったら、大変なことになるだろう。五感が、情報をやり取りしない限り、そのような混乱を解決する方法はない。私たちの認識や行動は、視角、音、匂い、感触、そして味覚の主要な五つの感覚をつないでいる。何百万という神経によってコントロールされている。重要な問題は、脳がどのような規則で、さまざまな感覚からの情報を結合しているかだ。というのも、どのように多感覚知覚が機能するかを理解してはじめて、五感の効果的ハッキングに着手できるからだ。」

(「11 感覚を取り戻す」より)

「私たちは今よりもっと、感覚に注意を向けるべきだ。それを感覚への注意深いアプローチと呼ぶのもいいだろう。ただ、私のお勧めの用語は、約20年前に産業レポートの中で作り出された「感覚中心主義」だ。感覚中心主義の基本的目的は、感覚を総合的に捉え、それらの相互作用のメカニズムを理解し、その理解を日常生活に取り入れて健康改善のためのカギを提供することである。
(・・・)
 個々の感覚を対象とする、多くのマーケターが直面している根本的問題は、間違いなく感覚の力を認識している一方で、感覚間の相互作用の程度を把握できていない点だ。また、(・・・)知覚は非常に多感覚的である。見るものは、聞こえるものによってしばしば影響され、そして、匂いは感じるものによって、感じるものは見るものによって、という具合に続いていく。センスハッキングは感覚的相互関連についての、高まりつつある理解に基づいている。」

「感覚中心主義とは、究極的には生活の中でバランスの取れた感覚刺激を見つけることだ。多くの人が愚痴をこぼす感覚過負荷は、高次の合理的感覚、すなわち目や耳にのみ影響を及ぼすことを認識する必要がある。一方、より情緒的感覚、すなわち、接触、味覚、匂いの欠如に苦しんでいる人も非常に多い。(・・・)
 長い間、私たちは皮膚を軽視してきた。最大の感覚器官である皮膚の重要性を認識してこなかったのだ。アロママッサージだろうと、恋人との抱擁からだろうと、皮膚への刺激の必要性に関する提案は、非常に長い間、非科学的と見られてきた。それにもかかわらず、社会的、認知的、そして効果的な神経科学の最新の発展の中で、皮膚を撫でることによる非常に有益な効果が強調されている。赤ん坊が最初に経験する世界との出会いから、老人が経験している感覚過小負荷を補う手助けまで、その恩恵はずっと広がっている。」

「私はいつの日か、センスハッキングが、日常生活のありふれた経験の改善だけでなく、真に変革をもたらす可能性のある、並外れた経験の提供に利用されるのを見るのが楽しみだ。また、バイオハッカーやグラインダーが、内側からのセンスハッキングにより、磁気感覚や地震感覚のような、何かもっと風変わりな新感覚を有効に活用できるかどうか知りたいと思う。私たちは、感覚の独特な世界を認識するとともに、感覚に対する理解を深めてこそ、感覚との斬新な関係を築けるようになる。その目標の達成は、間違いなく、感覚や、感覚間に存在する相互作用に関する新しい科学的知識によって促進されるだろう。最終的にセンスハッキングの未来は、芸術家や建築家、デザイナーによっても促進されるだろう。彼らは、感覚の科学的知識を興味深く魅力的な多感覚経験に変換し、感覚階層の現状に疑問を投げかける。都会人は、ロックダウンされていないときでさえも、室内で過ごす時間が長い、そう考えると、建築家や都市計画者は、私たちの社会的、認知的、そして情緒的健康の促進に役立つような、多感覚的環境を提供するために果たすべき重要な役割を担っている。同時に、センスハッキングにとって、感覚のコンテクスト化〔それぞれの感覚の意味を理解し、感覚同士を関連付けること〕は明らかに有益だ。近年、感覚の歴史家、人類学者、そして社会学者の多くが「感覚を転回」させており〔これらの学問分野で、感覚の概念が変化している〕、新たな媒介感覚を提供している。この媒介感覚も、センスハッキングにとって恩恵をもたらすだろう。
 これまで、私はセンスハッキングの秘訣を語ってきたが、それが、社会的、情緒的、または認知的健康のいずれの観点からであろうと、感覚が提供するものを最大限に活用する動機付けになればと期待している。同時に、感覚が与える影響力の程度がわかれば、世の中の策略に富む、マーケターがあなた方の感覚をハックするのが多少難しくなるはずだ。」

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