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鈴木毅彦 『日本列島の「でこぼこ」風景を読む』

☆mediopos-2350  2021.4.23

じぶんの住んでいるところがどんなところなのか
地形や地質そして現在の景観がどのように形成されてきたのか
そうしたことについて興味をもつと
じぶんがここにいるということを
別の視点で見ることもできるようになる

じぶんが今いるのが
石灰岩の上なのか
花崗岩の上なのか
それとも玄武岩の上なのか
そうしたことを意識するだけでも
興味は広がってくるだろうし
それらの岩石から受ける影響のこともわかってくる

NHK綜合テレビで放送されている
『ブラタモリ』という番組があるが
石や地形へのタモリの深い関心を反映して
「日本列島の「でこぼこ」風景」に関心がある人には
ずいぶん興味深い番組となっている
(最初からルートや紹介内容が
Q&Aのように決まりすぎてはいるところがあるけれど)

また日本のいろんな景色を眺める楽しみといえば
同じNHKのBSプレミアムで放送している
火野正平が自転車で旅する
「とうちゃこ にっぽん縦断 こころ旅」という番組もある
とくにタモリのように蘊蓄を披露する番組ではないけれど
風景が語るさまざまなものを見ることができる

わたしたちは山や川や海や石や
樹木や花や動物や魚や虫やに囲まれ
それらの存在とともにこうして生きている

それらの存在のつくりだす「風景を読む」ことで
世界はずいぶん異なった姿を見せてくれるようになる
ヴァーチャルでは決して得ることはできない

とくに日本列島の風景は
「多かれ少なかれ「でこぼこ」がつくりだしてい」る
それは「まるで箱庭のように、いろいろな特徴をもつ
さまざまな風景をぎっしりと詰め込んだ」ように
細かく変化に富んでもいる

わたしたちが見るものは
ある意味でわたしたち自身の姿にも反映してくる
目の前にある石がどんな石で
どのように生まれてきたのか
近くで囀っている鳥がどんな鳥で
どこからやってきたのか
そうした視点で世界を見ることができるだけで
生きることはずいぶん豊かになってくるのだ

■鈴木毅彦
 『日本列島の「でこぼこ」風景を読む』
 (ベレ出版 2021.4)

「あの山は、どうしてそこにあるのでしょう。
 この川は、なぜここをこうして流れているのでしょう。
 その先にある海と陸地の境は、いつどのようにしてできたのでしょう。
 自然の中に住み着いた人間は、そこにどのような手を加え、どんな景観をつくりだしてきたのでしょうか。

 日本の風景は、眺めていて飽きません。たとえば、飛行機に乗ってあの小さな窓から外の景色を眺めたとしましょう。離陸直後に見えた空港周辺の建物や田畑が広がる平坦な土地が、いつのまにか緑に覆われた脈々とした山の連なりに変わります。しかし、いつまでも山々が続くわけではなく。少し飛んでいると街が道路が目立つ平野や山に囲まれた盆地が飛び込んできます。川面が光る流れも見えるでしょう。
 空港の位置や飛行コースによっては、すぐに海の上に出て、でこぼこと入り組んだ複雑な海岸線や単純な緩い弧を描く海岸線が見えるかもしれません。
 あらゆる風景は、多かれ少なかれ「でこぼこ」がつくりだしています。
 もし、地面にでこぼこがなく、どこまで行っても真っ平らな平面であったとしたら・・・・・・。
 もし、この日本が四角とか、直線で仕切られ多角形で形づくられているとしたら・・・・・・。
 そんなところで、あなたははたしてうまく暮らしていけるでしょうか。

 小さな島国であるわが日本では、外国のように、飛行機で飛べども飛べども同じ風景が続くということはありません。細切れに常に変化していきます。まるで箱庭のように、いろいろな特徴をもつさまざまな風景をぎっしりと詰め込んだ、といっていいかもしれません。それも日本の風景の特色のひとつといえるでしょう。
 地図をたよりにこれらを眺めれば、海岸や山や盆地や、川や街の名前を確かめることもできます。地図マニアでなくとも、目の下にひろがる風景と地図が一致することを確かめると、なぜか安心します。そして、ああそうかと妙に納得したことはないでしょうか。不思議なもので、名前がわかり地図と同じ地形や風景が確かメレられただけで、その地域のことがなんとなく身近に感じられて、少しわかったような気分になったりします。
 そこでもう一歩踏み込んで風景を見てみましょう。すると、もっといろいろなことに気がつき、疑問もたくさんわいてくることでしょう。
 こっちの山は丸くなだらかなのに、なぜあっちの山はギザギザに尖っているのだろうか。あのあたりの海には島ひとつないのに、こっちの海には多くの小島が散らばっているのはどうしてだろうか。
 そんなことを考えながら風景を眺めていると、いつまでたっても飽きることがありません。さらに、もしそんな疑問の謎が解けたら、きっと風景の見方・見え方が変わるはずです。

 そうした疑問の答えも、場所によって異なり、必ずしも正解はいひとつとは限りませんし、じつはまだ確かなことはわからない、という場合だって考えられます。一般的には、角がとれた丸い山々は老年期の山々で、尖っている山はまだ隆起盛んな青年期の山だということができます。一方で、恐竜の背中のようなギザギザになっている山の尾根は、昔の火山の痕跡であるかもしれません。硬い溶岩が浸食からとり残され、いつのまにか芯になった状態で残された岩石だとわかれば、飛行機の窓の下に展開する風景の見え方が変わるでしょう。それを想像すると、今は失われてしまった幻の火山を思い浮かべることさえできます。
 多数の島々が散らばっている海は、多島海といい、日本でもいくつかの場所で見ることができます。あるところでは、それは過去に近くの火山が大きく崩れ、海に流れ込んだために生じたものかもしれません。あるいはまた別のところでは、もともと山であったものが沈降して海に溺れてしまい、山のてっぺんだけが島々として残ったのかもしれません。
 もし、あなたの飛行機が瀬戸内海上空を飛んでいるとすれば、島のない灘と風景を目の下にすることでしょう。(・・・)
 このようにして風景を眺めていくと、とくに地面のかたち(地形)はどれひとつとして同じものはありません。みんなそれぞれ個性があり、それが形づくられた永い歴史があります。それはわかれば風景をより深く楽しむことができます。」

「「風景を読む」という一般にあまり使わない表現をあえて使うのは、目の前に広がっている景色を、ちょっとだけ深掘りして考えてみよう、見る目を少し変えてみよう、というくらいの意味です。その風景は、いったいどういうもので、いつ頃からどのようにしてできたのだろうか・・・・・・。どうして、こんな形やでこぼこができたのだろうか・・・・・・。そんな疑問をもって、風景が語る物語を聞いてみよう、ちょっとだけ考えてみよう、という意味です。
 旅行に行き、観光地を訪れ、そこでその土地その場所の自慢の絶景に出会う。素晴らしい景色、美しい風景、見事な景観の、どこに感嘆しなぜ惹かれるのでしょう。
 タテには山や谷のつくるでこぼこがあり、ヨコにも山と平地の境や川などがつくるでこぼこがあります。また、国土の輪郭を描く海岸線にもでこぼこが連なっています。そうした無数のでこぼこでできている日本は、さまざまな地形が複雑に入り組み、風景は変化に富んでいます。
 その中でクラスわれわれには、まずその風景をちょっとだけ知り、それからもっと興味をもつ手がかりが必要です。そうすれば、誰でも散歩も旅行も何倍も楽しくなるはずでしょう。」

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