想い出

あれは何年前のことだろう。

近くの山に祖母と一緒に出掛けたことがあった。標高500mくらいの小さな山。でも、急勾配のある山道だった。

途中から、祖母をおんぶして登った。展望台についたとき、「こうして来れるのは、これが最後だろうね」と言った。山間にある自分の町を見つめながら。

祖母は長男である僕をとても大事にしてくれた。いつも笑顔で、僕の要求(時にそれはわがままだった)を快く、しかも精一杯応えてくれた。僕の祖母の記憶は、笑顔で明るく僕に接してくれたものばかり。

スティーヴン・ピンカは、世の中に悲観的な人が多いのは、ニュースというマスメディアが『起きたこと』は報じるが、『起きなかった』ことは報じないからだと指摘した。

僕は展望台で祖母の言葉をきいた時、「そんなことない。また来れる」と思っていた。

しかし、その後、何年もしないうちに、祖母は亡くなってしまった。

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