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美少女アニメ×紫綬褒章受章作家—黒猫館・続黒猫館—

概要

著:倉田悠子

絵:岡崎武士

出版:株式会社講談社

あらすじ

日本中が軍国主義に染まった昭和16年。大学生・村上正樹は、奇妙な求人に導かれ、僻遠の山奥に佇む豪奢な洋館 “黒猫館”を訪れる。女主人の冴子とその娘・有砂、メイドのあや。蠱惑的な女たちと織りなす陶酔と頽廃の宴の果てに、正樹を待ち受ける罠とは──。(『黒猫館』)


高度成長期もピークを迎えた昭和45年。奔放な過去と決別するかのように、正樹は弁護士を生業としていた。しかし、桜の香りに誘われた彼の前へ、あの“黒猫館”がふたたび姿を現し、30年前の倒錯の日々が甘やかによみがえる──。(『続 黒猫館』)(1)

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はじめに

 この作品を手に取った切っ掛けは後述するように章を取った作家が覆面作家として美少女アニメ(いわゆるアダルトアニメ)ノベライズを手掛けたものということで興味を持ったからである。実力のある作家がアニメしかも美少女アニメのノベライズという事で出来栄えがとても良く隠れた名作と言われるものなのかそれとも吹っ切れてカオスの方向に持って来ているのか楽しみであったが実情は章を取った作家としてノベライズ作品の宿命が逃れられなかったということであった。

特徴

紫綬褒章受章作家稲葉真弓のもう一つの顔

 この作品は紫綬褒章受章作家稲葉真弓が覆面作家として書いた作品である。私個人はこの作者の作品を読むのは初めてだがその洗練された文体の一片を感じる事は出来る(彼女の物語の構成の良さを感じるのは続黒猫館の方である)。


ノベライズ作品

 この本書「黒猫館・続黒猫館」はくりぃむれもんシリーズという美少女アニメのノベライズ作品の一つであり、この作品以外にも多々稲葉真弓は美少女アニメのノベライズを手掛けている。アニメ自体はこちらのサイトから見られる。


良い点

ゴシックな昭和初期の描写

 戦争勃発前の東京の陰鬱とした雰囲気の中物語は始まる。徴兵や惨めな暮らしから逃れたい一心で村上正樹はある求人を見つけ、応募する。この作品は舞台背景も事細かに書かれており語り手の村上正樹が軍国主義に嫌気がさしている事や破滅の予感などが匂わせられている。


昭和中期の発展し続ける日本に至るまでの描写

 「黒猫館」が昭和初期の日本を描いているのなら「続黒猫館」はそのアニメが放映していた当時バブル真っ盛りの日本を描いてる。本作内では今のバブルを知らない、昭和後期、平成生まれの人でも理解できる様な景気の良さが娘との会話によって出てきており、それらによってひもじい思いの戦前から余り過ぎる程の資財が生み出される昭和中期の時代の移り変わりも表現している。


官能描写

 この作品の大部分を占めているのは官能描写である。官能描写というと難しい二字熟語の羅列を思い浮かべる人もいるだろうがこの作品はそんなことはない。性器の名称で少し難しい単語を使っているが官能の描写に関しては簡潔に記されており、容易く登場人物の性交の姿やその行為に恥じらう表情が思い浮かぶ。それを目的の人に満足できる簡単で興奮しやすいものとなっている


悪い点

官能重視か物語重視か

 この作品は元がアニメしかも性描写が中心のものであるので物語としては起伏が少なく静かに始まり、静かに終わる感じが否めない。黒猫館の最後は館の火事を持って迎えるがその描写自体が伝聞形式なのでいまいち衝撃を与えない。そして「続黒猫館」に関しては真相が村上正樹の前に現れたの幻の黒猫館なので物語の印象がより薄い。


薄い存在の語り手

 村上正樹という語り手が何を考えているのか分かりづらい。地の文として村上正樹という人物について掘り下げをしているが物語上の思想や行動に関しては薄い。おそらく元は美少女アニメということで製作者側が視聴者の性衝動をぶつけやすいくするためにわざと主人公を無個性にしているであろうがノベライズではそこを上手く工夫してほしいと感じた。


続黒猫館という蛇足

 物語としてはを事故に合い半分植物人間となった子どもを受けいれることが出来ず性衝動という自分勝手の慰めで中で破滅に向かっていくというものである。その予想がしやすいあらすじの中であまり驚きの無いまま起承転結が起こっているのに対して「続黒猫館」は生き急ぎ、昔の所業を忘れようとしてした人物が見た幻ということで物語としては起承転結があまりにも少なく内容自体が薄く感じる。


おわりに

官能の為の登場人物

 先ほども述べたように物語としての展開が予想の範囲を超えず、その他のキャラクターの描写や文体も特出しているところはない。そうなった理由も原作のアニメがその性衝動をぶつける場面さえあれば良いもので物語性は必要はなかったからである。ノベライズであるこの作品は原作を持っているということで内容が薄い大きな筋書きを変えることが出来ず、せめて小さな筋で内容に深みを与えることしか出来なかった。それ故にオリジナルである続黒猫館の始まりの未だに村上正樹が幻を追っている描写は読みごたえがあった。その為ノベライズ作品としてどれだけ物語にオリジナリティ出して良いのかそこが問題である。

 そして余談だが黒猫館の黒猫はどういう意図で付けたのだろうか?


(註)

(1)以下からあらすじ引用

(2)、ヘッダー、以下から画像転載

https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4065201780/seikaisha-22

リンク

星海社当該商品ページ


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