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時代おくれ

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*本作は河島英五さんの「時代おくれ」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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「あら、純ちゃんいらっしゃい」今年、還暦を迎えた麗子ママの甲高い声が響く。
僕はカウンターの一番奥の席を眺めながらママの斜向かいに座る。

「今日はいないの?」

「あぁ、健さんね… 出稼ぎ先変わったって、つい3日前に顔見せてったわよ 」

そうか… じゃあ、もう健さんに会えないのか。全く親しくもない赤の他人のおじさんなのに、何故かその静かな佇まいが逆に人を惹きつける、そう、まるで高倉健のような。だから名前を知らないそのおじさんを健さんと僕が勝手に呼んでいた。
どんな暮らしぶりなのかは分からないが、どこにいても、どの時代に生きても変わることがないであろう清浄で潔くかつ繊細な情調に包まれた人だった。
僕はカウンター奥の席に身を移し、背筋を伸ばし俯いたまま目を閉じて健さんを真似てみた。何だか店の喧騒が遠く聞こえる気がした。

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この憂き世人に流され右顧左眄(うこさべん)時代おくれが孤高の賢者

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