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自動運転と都市の未来

自動運転が当たり前になったとき、何が起こるか――
ちょっと考えてみたいと思います。


自動運転と都市の未来

自動運転技術への期待が高まっている。
定路線のバスなどについては、国内でも各地で公道での実証実験がスタートしているし、シンガポールでは2015年から限定エリアでの自動運転バスを走行させており、技術面での課題は少なくなってきている。

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他方、制度面における国の動きとしても、国交省の示すロードマップには「2025年をめどに限定地域での無人自動運転移動サービスの全国普及等を目指す」と公表されている。
以下、都市のあり方と関連が深いと思われる大きく3つのトピックについて、将来像に関する試論を述べる。

① 駅チカという概念がなくなる

テレワークの進展により、大量輸送・同時輸送を強みとしてきた鉄道事業は、変革を迫られている。現に、JR東日本は2021年春のダイヤ改正で終電の繰り上げを決めているし、JR東日本や東海は需給によって価格を変動させる時間帯別運賃(ダイナミックプライシング)の導入に向けて方針を固めつつある。コロナ収束後も、進んだテレワークという働き方が元には戻らないと判断したためだ。

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自動運転技術の社会実装は、省力または低コストでの個別輸送を可能にする。所有形態(マイカー)であれば目的地を入れて寝ていれば着く、一時利用形態であればタクシー配車が今より低価格で利用可能となり、広い意味での自動車利用を一層増加させると思われる。
地方鉄道はマイカーの普及に伴い、これまで路線と本数を縮小させてきた。かつて、通勤にも使われていたローカル駅が、同一路線内のより都市部寄りの主要駅周辺の駐車場価格との競争に敗れその利用者数を減らしたように、自動運転技術はさらなる自動車通勤圏域を拡大(電車通勤圏域の中心都市部への縮小)させることが予想される。

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その結果、個別輸送が一層進めば、大都市を除く多くの都市では駅が集約機能を持たなくなり、駅チカという概念はなくなると予想される。周辺地価の維持を企図する自治体やデベロッパー、電鉄会社等によりしばらくのあいだは対抗策が打たれることで移行は段階的かつ緩やかになると思われるが、中長期での構造的な変化は免れない。
地方における中心市街地活性化が一つとしてうまくいかないように、大都市を除く多くの地域で駅を核とした中心市街地がそれのみでは集約機能を持たなくなる。

② あらゆるものにモビリティが付加される

さらに、推論を進めていくと、サービス提供のあり方や、店舗のあり方も変わってくることが予想される。
たとえば、結婚式の招待状は、現地への自動運転タクシーによる送迎が一体となったサービスが当然になるかもしれない。すなわち、主催側が地図で会場の場所を知らせるのではなく、参加者の手前の居場所から移動先までの所要時間も計算し、余裕をもって会場に到着するように送迎サービスを予約し向かわせる、といったサービスがイベントや企画と一体で運用されるようになるかもしれない。披露宴の招待客は、会場までの車内で式のようすを短くまとめたムービーが繰り返し流れることに、悩まされる日が来るかもしれない。

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移動するのは人だけではない。小型店舗や部屋が移動したり、ある時間帯・ある場所に集合したりすることも可能となる。いまのキッチンカ―や軽トラ市のようなものをイメージするとわかりやすいかもしれない。そこから発想すれば、ポップアップ型の複合施設のような、複合店舗群を期間限定でイベント的に作り出すことができ、遮るもののない大平面が、そうしたイベントの最適地となるだろう。

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また、完全自動運転では、今の自動車に想定されるハンドルやアクセル、ブレーキ等も不要になるため、代わりにソファやこたつ、ベッドが配置されるようになれば、リビングや寝室ごと移動するという選択肢も出てくる。つまり、翌朝が早い日の前日は、普段は家本体と接続している切り離し可能な移動できる部屋で寝ておいて、目的地をプリセットしておくなど、居住空間ごと移動するような行動・生活習慣が日常的なものになるかもしれない。

③ 地方部への人の流れ

地方部でのモビリティは、自家用車が利用できる限り快適である。渋滞に巻き込まれることもなければ行先で駐車場代がかかることもないため、雨の日でもドアツードアで移動することができる。
自動運転技術が一般的になれば、いわゆる買物難民、医療難民に代表される地域の足をどう確保するか、ということに関する社会課題は一挙に解決に向かうと思われる。

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地方での暮らしは、さまざまな点で夫婦が最小のユニット(単位)であると痛感させられる。運転との相性の悪い飲み会は、歩いて行ける範囲内で開催するか、迎えに来てもらうか、飲んだ先で泊まるかしかなく、必然的に限定されてしまう。送迎を依頼できる人が身近にいない場合、飲み会の帰りに代行を呼べばタクシーの倍近い料金がかかり、飛行機での出張の際には、駅や空港の駐車場に車を止めておく必要があり、長期間となれば費用もかさむ。
課題解決だけでなく、移動の自由が広がることで、地方での生活の質は飛躍的に向上すると思われる。
その結果として、いわゆる地方移住と分散型社会は一層進むのではないかと思われる。

まとめ

以上みてきたように、自動運転の社会普及は人間の暮らしのあり方を大きく変えると思われる。

自動運転が当たり前になったとき――
どの程度先の未来になるか、今の時点では定かではありませんが、そうした未来に思いを馳せてみるのも楽しいです。

以上です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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