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外傷 #8-1 慢性硬膜下血腫


 慢性硬膜下血腫とは、新生被膜(外膜と内膜)に包まれた流動性の血液が、硬膜とクモ膜との間に貯留した状態です。慢性硬膜下血腫の原因は、非外傷性(外傷と無関係なもので、特発性)もありますが、ほとんどが外傷によります。また、外傷も重篤なものではなく、軽く頭部を打撲したなどの軽微な外傷によることが多いです。

検査画像

慢性硬膜下血腫 CT画像

 血腫は硬膜下に存在するため、広がりやすく三日月型となります。頭蓋骨の縫合線を越えて血腫が存在する。血腫により脳が圧迫され、正中偏位や脳溝が消失します。

CT:硬膜下に三日月型の低~高吸収域の血腫を認める
MRI:T1強調画像、T2強調画像で高信号域を認める

頭皮から脳に至るまでの解剖

 頭皮は、皮膚、皮下結合組織、帽状腱膜、疎性帽状腱膜下層および骨膜の5層からなり、皮膚は硬く血管に富みます。皮膚は血管が発達している為、皮膚裂傷の際は傷に比べて出血量が多くなります。頭皮の下は頭蓋骨ですが、頭蓋骨は外板と内板という緻密骨で構成され、外板と内板との間は板間層という海面骨が挟まれています。板間層には多くの静脈(板間静脈)があり、頭皮の静脈や静脈洞と連絡しています。頭蓋骨の下に硬膜があり、さらにクモ膜・軟膜があり脳表に至ります。

頭皮から脳までの解剖

慢性硬膜下血腫の形成と増大機序

1.血腫形成の機序

 軽微な外傷によって硬膜‐クモ膜接触層が断裂し、髄液が硬膜下腔に貯留します。まず、クモ膜に接している硬膜内面の“硬膜境界細胞層"から反応性に非特異的炎症性肉芽組織の外膜が形成され、さらに外膜が内側へ進展して内膜を形成し、被膜が完成します。被膜が完成すると髄液路との交通は遮断されるため、硬膜下腔に貯留した髄液は硬膜下水腫となります。被膜形成後は高浸透圧による髄液の血腫腔への侵入と、脆弱で出血しやすい新生毛細血管からの反復性および持続性の出血が主体となって血腫は増大します。

2.出血の機序

 出血機序に関しては、血腫内容の凝固・線溶活性はともに著明に亢進しているうえに、線溶系が凝固系より活性化しているために止血機構が働かずに出血が持続します。血腫は凝固せずにつねに流動性を持っています。この線溶系の異常な亢進には組織プラスミノーゲンアクチベーター( t-PA)が関与していると考えられています。

3.慢性硬膜下血腫の概説

 好発年齢は高齢者ですが、2歳以下の乳幼児にも好発します。性別では男性に圧倒的に多いとされていますが、女性症例が増加し、その半数は70歳以上の高齢者です。通常、外傷後3週間から3カ月の間に発症し血腫がある量を超えたときに臨床症状が出現します。
 具体的な臨床症状は、頭痛、歩行障害、記銘力障害、片麻痺や認知機能低下などです。

慢性硬膜下血腫の治療

 慢性硬膜下血腫の治療は、通常、穿頭・洗浄術およびドレナージ留置術による手術です。血腫を取り除くことにより脳の血流障害の改善やt-PAなどの出血助長因子を除去すること、および血腫腔内の洗浄により被膜のt-PAを不活化させることです。

 手術は仰臥位で、局所麻酔下にて行います。血腫の最も厚い部分が最上部になるように頭部を反対側に回旋させます。穿頭予定部を中心に十分に局所麻酔を行った後、4cm程度の直線上の皮膚の切開を行い、穿頭します。穿頭後硬膜を十分に焼灼し、十字状に切開します。硬膜を切開すると、血腫外膜が確認できますので、外膜を切開します。すると暗赤色の流動血が流出してきます。
 次いで、血腫腔内を温生食で十分に洗浄した後、血腫腔内に空気が入らないようにしながら血腫腔内にドレーンを留置します。血腫腔内を洗浄しないこともあります。 ドレーンを皮下に通して固定した後、皮下および表皮を縫合します。ドレーンは開放式ドレナージ回路をつなぎます。

ドレナージ留置術 術後

術後管理

手術合併症

 手術合併症は、手術時の血腫腔内への空気の流入による硬膜下緊張性気頭症、感染による硬膜下膿瘍、止血不良による急性硬膜外血腫、硬膜下血腫や脳内血腫などです。 また、再発は10~15%の確率で発生しますが、脳の再膨隆が悪い例に再発しやすいとされています。

ドレナージ

 硬膜下血腫・水腫を改善するために、硬膜とくも膜の間にドレーンを挿入し、貯留した血液や浸出液の排液を行うことを「硬膜下ドレナージ」と呼びます。硬膜下血腫などで圧迫された脳実質の形状が元に戻るのを補助します。ドレーンの先端は頭蓋骨の下(硬膜外腔)、かつ硬膜切開により硬膜下に留置され、ドレーンは頭蓋骨穿頭部より皮下に導かれ、皮膚を貫通して外界に誘導されています。ドレナージは開放式ドレナージ回路をつけることが多いです。指示の設定圧に設定します。

 ドレナージされる排液は血性の場合が多いですが、手術で血腫腔を洗浄するため、血腫を生理食塩液に置き換えている場合があります。そのため、排液が血性では無く、淡血性の場合もあります。

 注意する事は、髄液に変わってしまうことです。硬膜下腔とくも膜下腔は、薄いくも膜が破れると簡単に交通することがあります。交通がある場合は、硬膜下ドレナージヘ髄液が排出される可能性があります。排液が血腫もしくは生理食塩液であるか、髄液であるかの鑑別は重要です。髄液の可能性がある排液は、無色透明とフルクテンションの有無です。特にフルクテンションは重要であり、クモ膜下腔との交通による髄液の排出のサインとなります。 

硬膜下ドレーンの留置期間

 通常、術後24時間程度でドレーンを抜去します。ドレーン抜去前にCT検査などで、十分な血腫排液が行われていることを確認したうえで抜去します。もしもCT検査で血腫の排出が十分でないと判断された場合には、ドレーン留置期間を延長することもあります。

 ドレナージ管理

1.     刺入部の管理
 ドレーンは皮膚に小さな穴を開けることで貫通させ、外界へ誘導されています。この皮膚の貫通部は頭蓋内外が交通している部位になり、細菌感染の経路となり得ます。ドレーンの皮膚貫通部はガーゼなどで被覆し、できる限り細菌感染が頭蓋内に及ばないようにします。また、ドレーンの皮膚貫通部から多量の浸出液が排液されていないか確認します。もしも、頻回にガーゼ交換が必要となる程の浸出液の排液が見られるときは、何らかの問題が生じている可能性があり、医師に確認する必要があります。

2.     ドレーンチューブの管理
 
ドレーン留置後から、サラサラとした赤黒い血液が排液されます。ドレーンからの排液速度はおおむね20~30mL/時であり、排液全量は術前の血腫量によります。慢性硬膜下血腫では血腫被膜があるため、排液される液体は純粋に貯留していた血液であるはずです。血腫被膜がどこかの段階で破れ、髄液が混入してくることがあります。持続的な排液がみられた場合は、髄液混入を考慮します。また、真っ赤な鮮血が排液された場合には、何らかの問題が発生していることを疑います。排液に問題があると疑われたときには、すみやかに医師へ報告します。それと同時に、患者の意識状態、神経症状も観察し記録、報告することが必要です。医師への報告後、CT検査などの画像検査を依頼することも-|-分に考えられるので、準備をしておくと検査へ移送がスムーズです。

3.     ドレーンの自己抜去
 
患者は慢性硬膜下血腫により認知機能の低下が起こるため、手術をした事、ドレーンが留置されている事を理解できないことがあります。このようなことがないように患者の言動に注意を払います。万が一、患者に不穏行動が出現した場合は精神的ケアに努め、医師に相談しセデーション(鎮静)の必要性も考慮します。また、体位変換や体動に伴う抜去や破損が生じないよう、注意しましょう。排液バッグは固定され、チューブにテンションがかかっていないかを確認します。

慢性硬膜下血腫の内服

五苓散(ごれいさん)

 漢方薬の五苓散はチョレイ、タクシャ、ソウジュツ、プクリョウ、ケイヒの「五」種類の生薬からなり、そのうちの1つ「チョレイ(猪苓)」の字とあわせて五苓散といいます。五苓散は、体内の水分の分布、バランスを整える作用があるといわれます。そのため、体内の塩分バランスを崩さずに尿量増加、身体の浮腫に作用して、脱水のときは作用しにくいとされます。漢方薬ではありますが、脳の中で水の移動に関与しているアクアポリン4の機能を調整することで、水分バランスを整える可能性が報告されています。

 慢性硬膜下血腫の患者への有効性の報告は多く、また、術後に硬膜の下に大きな隙間が残った場合などにも使用します。



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