怪しそうで怪しくない少し怪しい友人

26歳無職である。

9年ぶりくらい会ってない友人から連絡が来て、飲みに行くことになった。

彼とは高校で同じクラスだった友人で、高校卒業後1度だけ飲みに行ったことがある。そこからはお互い連絡していなかった。

この時点で少し怪しい。

また、同じ高校の共通の友達が、マルチにハマった過去もある。

疑いはどんどん濃くなっていく。十中八九、マルチか宗教勧誘、もしくはその両方だろう。また、保険の営業の可能性もあった。ぼったくりかもしれないな。と思った。

しかし、私は無職。マルチにしても初期投資の金がない。宗教に関しても金がない。また、保険に関しても金がなかった。ぼったくりにしても、金がなかった。

「無職だから」という断り方は切り札として使えるな、と思った。

また、もし彼がマルチで大儲けしているというのであれば、タダ酒チャンスである。これを逃す手はなく、二つ返事でOKした。

また、会場は彼が決めるという。

もしこれがファミレスの場合は某宗教団体の勧誘だろうな、と思った。昔の友人と会うつもりが、いつの間にか他の信者がやってきて囲むやり口は有名だった。

また、バーであればぼったくり店とグルになっている可能性があった。

彼が選んだ店はいい感じの居酒屋。

安い割に料理もうまそうだった。

少なくともこの店ではぼったくれない。

彼はただ旧友と遊びたいだけかもしれない。疑って悪かったかも、と少し反省した。

当日、彼は30分ほど遅刻した。

これは怪しいかどうか、大いに悩んだ。
もし大いに勧誘する気であれば、遅刻せず、何なら5分くらい前に着席している気がする。私ならそうやって信頼をつかむ。

しかし、勧誘の準備に時間がかかった、とも考えられる。さらに、巌流島のためしがある。もしそうだとしたら、怪しくないと考えるのは早計である。

彼は日本史専攻だったっけ。考えが横道に逸れる。

武蔵よろしく現れた彼は、金髪ウルフだった。
普段は食事の配達員のバイトをしているという。

ここでしばし考える。

定職についていないのは怪しい。しかし、金髪だ。
あからさまに怪しすぎて逆に怪しくない可能性も出てきた。私が武蔵なら髪は伸ばして後ろで結ぶ。
じゃなかった、七三にして誠実さで騙す。

少なくとも、保険の営業ではないだろう。美容院の営業ならともかく、金髪ウルフの営業マンはこの世に存在しない。

また、宗教勧誘にしては陽気すぎる髪型だ。私の知らない、とんでもない邪神でも拝んでいるとしたら別だが。

これはマルチだろう。そう見当を付けた私は、共通の友達がマルチにハマっていた話題を出す。

すると、彼は私より、共通の友達について詳しく知っていたが、仲は良くないようだった。

うーん、マルチじゃないのか？もしくは別の投資話でも持ちかけてくるのだろうか。怪しいのか怪しくないのかわからなくなってきた。

フリートークも尽きてきた頃、彼は言った。

「バーベキューに来ないか」

マルチだ。確信した。

バーベキューやホームパーティ、講演会に呼び、そこで仲間たちと勧誘するのは奴らの常套手段だと聞いたことがある。

無料で飲み食いした手前、そこで洗剤やら何やらを売りつけられても断りにくい。

ここは鼻を明かしてやろうと、「ぶっちゃけ、なんのマルチ？」と彼に聞いた。

彼は、「マルチじゃなくて、知り合いを紹介したい。すごい人がいるんだ。」と返した。

マルチだ。「すごい人」ってのはマルチの親分だ。

しかし、言葉は続いた。

「例えば、イラストレーターとか。」

マルチじゃない。イラストレーターはマルチの仲間にはいないだろう。普通経営者とか、フリーターなのに稼いでる、とかだろう。イラストレーターがボロ儲けしているイメージはない。

彼は怪しいだけで本当は怪しくないのか？

しかし、私と彼共通の友達は誰もバーベキューのメンバーにいないと言う。

これは…どっちだ？少し怪しいな。怪しくなければ、共通の友達の1人くらいいるだろう。

しかし、完全に怪しいわけではない。無料でバーベキューに行けるなら、しめたものだ。乗り込んでやろうか、と思った。

「参加費は6000円ね」

マルチじゃない。来てもらうのが目的なのに、6000円は高すぎる。ぼったくりかと思ったが、それなら事前に料金は伝えないだろう。

怪しい以前に金がない。伝家の宝刀「無職なので」を使い、丁寧に断った。「初回3000円で！」と負けてくれたが、そこまで食い下がるのはそれはそれで何かありそうで怪しかった。飲み代は結局割り勘であった。

結局それ以降連絡はないが、良く考えたら本当に怪しかったのは私だったのかもしれない。

私は彼にあっけらんかんと無職告白を行い、「全部の光バイトをしてるよ！」とかうそぶいていた。しかし、羽振りが良い訳でもなく、3000円も払えないという。

私は自らの言動を反省し、次のカモを探すため、連絡リストを念入りに確認した。