覚えているのは、毎年海と山に行っていたこと
うちは決して裕福な家庭ではなかった。
自営業で小さな会社の社長をしていた父に、それを支える母、私は社長令嬢だ〜なんて言っていたけどこんな小さな団地に住む社長令嬢がどこにいる。自分の部屋なんてものはなく、大きな一軒家に住む友達に憧れていて、新聞の折込チラシに入ってる物件情報に「ここ、私の部屋にする!」って姉たちと妄想するのが好きだった。
4人姉妹の末っ子だった私は、姉のおさがりをもらうことが多かった。姉の着てる服はなんだかカッコよく見えてそれも嬉しかった。
父の会社は土木作業をする会社だ。夜勤も多いし、朝も早い。母は今で言うワンオペ育児で私たち4人姉妹を見ていた。
でも覚えているのは毎年、夏には海へ旅行に。冬にはスキーをしに山へ旅行に行っていた。
うちは決して裕福な家庭ではない。
2LKの小さな団地に6人で暮らしていた。
それでも父が休みの日には遊園地に行ったり、旅行にも何度も何度も連れて行ってもらっていた。夕飯は必ず、おかずが5品出ていてお腹を空かしたことなんて一度もなかった。
今ならわかる、それは父と母の努力で。
私たち姉妹を全力で育ててくれていたからだ。
小さい頃から寂しい思いなんてしたことがない。
「ママ聞いて」と言えば聞いてくれる母がいる。おしゃべりな性格はここからきているのかもしれない。家に帰ると家族全員が話してる。
「パパあのね」と言えば褒めてくれる父がいる。自己肯定感が高いのはここからきているのかもしれない。うちの家族はみんな自己肯定感が高い。
子供は親の背中を見て育つと言うが、私はしっかりとその背中を見てきた。
前職を辞める時、お客さんから沢山お手紙をいただいた。その中のひとつにこんなことが書いてあった。
素直に嬉しかった。自分のことを褒められたと同時に親のことまで褒めてくれて。そんな風に褒めてくれるあなたが素敵だって思ったけど、そうやって思ってくれてるのは素直に受け取りお礼を伝えた。
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お金がなければ幸せになれない。
お金があっても愛情がなければ幸せになれない。
この言葉は二つとも正しいと思っていて。
高校生の時、両親が中古で一軒家を買った。憧れの一軒家は思っていたものと違った。念願の自分の部屋はなんだか薄暗くて寂しかった。小さくて狭いけどみんなの顔が見える団地が好きだったんだなって思った。
そしてしばらくして父の会社が倒産した。
自己破産して中古の一軒家は売ることになった。私は行こうと思っていた専門学校を辞めて就職へ進路変更をした。
新しい家を探す時、団地では収入の問題でみんなで引っ越せないことを知った。そうか、家を出るしかないのか。
そしてうちの家族はバラバラになった。でもみんな心はひとつだった。大丈夫、なんとかしようってみんなで頑張ろうって言葉にはしなかったけどそんな空気が漂っていた気がする。
あれから15年近く経った。
毎年お祝いしていた姉妹の誕生日パーティーは、姪っ子が生まれてから姪っ子の誕生日パーティーに変わった。それでも相変わらず両親の誕生日にはケーキとろうそく。お誕生日の歌をみんなで歌う。もう良い大人になった私たち姉妹が、恥ずかしげもなくお誕生日の歌を歌う。
私は熊本に住んでいて会いにいけないので、その時はテレビ電話を繋げてくれる。
今は小さな団地で両親と姉の3人で静かに暮らしているそうだが、何かあるたびに私も他の姉や姪、いとこも遊びにくるので狭い団地がぎゅうぎゅうになってたまに本当に座る場所もないぐらいで、ずっと立って話すこともある。家の中なのに。
でも私はその騒がしさが大好きで、帰ってきたなぁって思う。帰省すると喋り疲れるぐらい、笑い疲れるぐらいずっと賑やかな家庭で、帰り道ふと寂しくなることもあった。
定年を過ぎた今でも働き続けてる両親に、本当は大金を渡して好きなことしてゆっくり過ごしてと出来たら1番良いのだろうけどまだまだそんなことできる人間になれていない。
じゃあ私が出来る恩返しってなんだろうって考えた時に、やっぱりこまめに帰省して孫の顔を見せて、私の幸せな姿を見せてあげることなのかなと思う。
娘の幸せが親にとっても幸せだろう!なんて考えはおこがましいのかもしれないけど。あんなに愛情をくれていた両親がそう思わないわけないと信じているし、私自身、娘が幸せでいてくれるならそれ以上の幸せはないと思ってるのでやっぱりそれが正解なのかなって思っている。
まだ1歳の娘が、既に飛行機を往復10回以上乗っていて。そんな娘が将来大きくなった時に色んなところに連れてってくれたなぁって思ってくれるだけでも良いなって思う。
私は娘にちゃんとかっこいいママとして、背中を見せれるだろうか。ううん、背中は勝手に見るものだと思って。ちゃんと目を見て話を沢山聞いてあげれる親になりたい。「ママあのね」って言われたら「なに?」って優しく答えられる親になりたいな。
そして娘がもう少し大きくなったらじじとばばを連れて海に旅行に行くのが今のちょっとした夢である。
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