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歩き始めに必要な床反力と重心移動の関係性

どうも!脳卒中の歩行再建を目指す理学療法士の中上です!

前回は歩行分析をしていく上で重要な床反力の考え方と、歩行時や方向転換時になぜ床反力をみる必要があるかについてまとめていきました。

詳しくはこちら!
歩行分析に必要な床反力の考え方

歩行という移動を繰り返していく中で、この床反力は身体重心を移動するための力源として作用するため、これら床反力の変化を知ることは非常に重要な要素になります。

つまり脳卒中片麻痺歩行にみられるバックニーや膝折れの原因のひとつにこの床反力が大きく関わり、臨床場面ではそれらを治療対象として考慮する必要があります。

今回はその中でも前回のセミナー(動画で学ぶ)で実施した歩き始めのメカニズムとしてお伝えした重心移動と床反力の関係性についてまとめていきます。

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これらを知ることで、実際の歩き始めにおける臨床場面のみるべきポイントや治療場面に活かせる内容がありますので、是非参考にしてみてください。

床反力と身体重心の関係性

まず、「人という物体を移動させる」と考えた場合、それを動かすためにはどんな力が必要かを考えていきます。

人に存在する質量重心(Center Of Mass:COM)は足部で作られる支持基底面(Base of Support:BOS)の中に存在し、BOS内にあるCOMは常にそこから外れることはなく(若干の動揺はありますが)、常に制御されています。

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つまり人は絶えず微小に変化するCOMの移動に対して、足部などの機能(姿勢保持に重要なankle strategy)や体幹や下肢の筋緊張を無意識的にコントロールすることでBOS内のCOMを制御している(これを一般的に姿勢制御といいます)ことになります。

【身体重心をみるポイント】
・重心位置を把握する
・重心位置をみるポイント
・重心コントロールに必要な感覚入力

この足部での重心コントロールや筋緊張制御の際に重要なひとつの要素が、『床反力という考え方』になります。

床反力とは言葉の通り床からかえってくる反力のことになります。

床反力に関する記事はこちら

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これらは接触している部位から様々な方向や強さの床反力成分が立ち上がっており、それらをひとつにまとめた力を床反力の合成成分として足圧中心(Center of pressure: COP)があります。

実際の考え方としては、COPは大まかにはCOMの位置を床面に投影した位置として捉えられ、このCOPの移動はCOMの動揺や移動と強く相関するもの(ただし、厳密には同一とはされない)として考えることができます。

つまりこの状態が静的立位として安定している状態になります。

そしてそこから歩くためにはこの身体重心を移動させる必要があるのですが、その際にこの2つの関係性(COMとCOP)がどのように変化するかを臨床場面では考える必要があるのです。

歩き始めに起こる床反力の変化

では実際に歩き始めに起こる変化をみていきましょう。

まずは静的な立位として、COMとCOPの位置関係は一致している状態にあり、身体に対しては過度な力が作用することはありません。

そこから歩き出すということは、つまり人という物体が動き出すため、考え方としては「COMが移動する」ということになります。

実はその前に先行してCOPが移動することが非常に重要となります。

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*歩き始めのCOP(赤)とCOM(青)の関係性は上図のような形になるのが一般的です。

【歩き始めにおけるCOPとCOMの関係性】
1.COPが遊脚側後方へ
2.COMが立脚側前方へ
3.COPが遊脚側から立脚側へ
4.COMがさらに前方へ
5.COPとCOMが進行方向へ

1.COPが遊脚側後方へ

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歩き始めの初発として起こるのはCOPの遊脚側後方への移動になります。

その際にみるべきポイントは足部筋活動の変化になります。

通常立位時は、頭部や胸郭の重さから身体重心に対しても前方への回転力が生じやすい状態です(*個別性などの観点から姿勢によっては後方への力が生じているケースもあり)。

その前方への回転力に対して、後方へ引っ張るないし引き留めておく必要があるのですが、その際に重要なのが足部底屈筋である下腿三頭筋の作用になります。

この下腿三頭筋は筋緊張という筋実質がもつ張力コントロールによって身体の回転力に抗する形で作用します(これを姿勢筋緊張と呼ぶ)。

歩き始めに関してはこの下腿三頭筋の活動がOFFし、拮抗筋であった前脛骨筋の活動がON(筋緊張があがる)することで、足関節背屈方向への力が作用し、結果的にCOPが後方へ移動します(*下記図のCOPとCOMは左右の移動を表したもの)。

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2.COMが立脚側前方へ

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COPの後方移動の伴い、COMとの位置関係のズレが生じることで、後ろから前へ身体を押す外力が生じます(手のひらにのせた棒に対して、その手を後方に引くと、棒が前方に倒れる現象をイメージ)。

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3.COPが遊脚側から立脚側へ

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そこから次にCOPが支持側である立脚側に移動します。

この際には、足部での重心制御と合わせて股関節機能としての内転筋や中殿筋の活動が重要になります。

遊脚側から立脚側への重心移動には主に立脚側内転筋による引き込みと、COPが移動した際にそれを制御する立脚側の中殿筋の活動が関与します1)。

これらはCOP移動のみならずCOMの立脚側移動時のコントロールにも働き、側方安定性を引き出す重要な要素になってきます。

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4・5.COPとCOMが前方へ

そして、COM移動に伴い実際に前方への推進力が生まれ、歩き始めの一歩がでてきます。

ここで重要なのは、前方への推進力に対する下腿三頭筋や体幹後面筋での後方ブレーキの作用になります。

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この時にブレーキ作用が十分働くことで、歩行に必要な立脚後期の股関節伸展角度(TLA)前足部での蹴り出し機能などに繋がるフェーズにも繋がってくるため、歩き始めを臨床的にみる視点として十分評価することが重要になります。

では、こういった歩き始めのメカニズムをみた際に、なぜ脳卒中患者様は歩き始めがうまくいかないのでしょうか?

次は、実際の脳卒中やパーキンソン患者様の研究データなどから読み解ける歩き始めのメカニズムについてみていきます。

脳卒中の場合の歩き始めの床反力

脳卒中の場合のCOPの移動はどうなるのでしょうか?

これらを考える際には麻痺側を出す場合非麻痺側を出す場合の両方のケースを考える必要があります。

(*以下は有料部分となりますが、2/8のセミナー購入者には以下の記事内で閲覧可能)

下記図は14名の脳卒中片麻痺患者におけるCOP移動量の変化を見た研究になります2)。

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