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【脊髄シリーズ②】筋の過緊張を引き起こす伸張反射と反回抑制

どうも!脳卒中の歩行再建を目指す理学療法士の中上です!

こちらは脳外臨床研究会のインスタ投稿をさらに深堀りした内容になります。
インスタアカウントはこちら(脳画像&歩行に関する内容をアップ)

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脳卒中における片麻痺歩行において難渋するのが内反尖足やバックニーといった現象です!

これらの現象は、前脛骨筋や大腿直筋などの過緊張によって引き起こされると判断されることが多く、臨床場面でもよく遭遇します。

では治療において、原因となる筋肉に対して何をすべきなのか?マッサージやROMだけで本当に上記現象が改善や軽減されるか?というと、実はそれだけではよくならないケースの方が圧倒的に多く感じます。

今回は、脊髄シリーズの記事としてこの筋の過緊張を引き起こす問題点に対して、何を治療ターゲットとし、どういったことに気をつけるべきか?についてまとめていきます。

治療に関する意識する部分もまとめていますので、是非最後までお読みください!

こちらの内容は下記セミナーでお伝えしたことを含みます(セミナー参加者は復習用として是非参考にしてみてください)。

1.筋緊張亢進のメカニズムとは?

骨格筋の収縮コントロールにおいて重要なのが、

①随意運動(錘外筋)
②筋緊張(錘外筋)

の関係性になります。

随意運動とは関節運動に必要な「骨格筋の収縮を意識的に引き起こす作用」で、脳の一次運動野を介した皮質脊髄路の働きによって骨格筋の収縮活動を引き起こします。

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その際に、骨格筋に対しては無意識(不随意的)な要素で筋の状態を収縮しやすいように保つ筋緊張(関節運動を起こさない弱い筋の収縮状態)コントロールが重要な機能になります。

これら2つの作用は、脳および脊髄機構を介して協調的に制御され、ヒトの運動において骨格筋が活動しやすい状態に維持されているのが特徴です。

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随意運動と筋緊張の関係性についてはこちら

この2つの機能が脳ないし脊髄の機能破綻によって制御できなくなった場合に生じるのが、

・筋が収縮しない筋の弛緩状態(低緊張)
・痙縮などに代表される筋の過剰収縮(高緊張)

といった状態になります。

その中でも痙縮などの筋の過剰収縮は、脳卒中歩行において本人の意図しない関節運動として出現し、それらは内反尖足やバックニーといった、様々な歩容の問題点に結びつくことが多くあります。

では、そのメカニズムはどういった問題が生じているのでしょうか?

一般的に痙縮は筋の過剰収縮として捉えられますが、その病態定義は、

上位運動ニューロン病変により、間欠的または持続する不随意な筋活動をきたす感覚-運動制御の障害である1)
(Pandyan AD, 2005)

とされています。

この問題点の根元として筋紡錘の感度異常といわれることが多く、筋紡錘からの求心性情報が脊髄前角細胞のα運動ニューロンを発火させる伸張反射に由来することが報告されています。

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この反射は通常、脳の上位運動ニューロンによってコントロールされています。

つまり脳卒中による痙縮などの筋の問題は、筋紡錘よりもそれをコントロールする脳もしくは脊髄の問題を理解することが必要になってきます。

2.なぜ脳卒中になるとこの筋緊張亢進が生じるのか?

実は、近年この痙縮の問題はより具体的に定義されてきており、Liらは痙縮の定義を

痙縮は上位運動ニューロンの損傷によって、脊髄の反射回路の興奮性に対する促通と抑制の制御バランスが崩れた結果である2)
(Li S, 2015)

と述べています。

つまり、痙縮という問題を考えた場合に上位運動ニューロンによる筋紡錘の異常という解釈ではなく、上位運動ニューロン(脳)の問題により脊髄機能に異常をきたした結果、反射機構の制御ができていないということが理解できます。

脳卒中による脳障害によって反射抑制機構がうまく働かず、結果抑制がかけれず興奮性を引き起こしているということが考えられます。

そのため、治療においてもこの脊髄に対する反射抑制機構を如何に働かすことができるかが臨床でのキーになってくるのです。

では、具体的に上位運動ニューロンとしての脳がどのように脊髄機能をコントロールしているのでしょうか?

脳から脊髄への投射は大きく以下の部位があげられます。

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このうち抑制系に働くものは、大脳皮質からの情報が皮質網様体路を介して延髄網様体にいく経路(背側網様体脊髄路)で、その他は興奮系に働くことがわかります。

ここで脳卒中片麻痺患者の問題点を考えた場合、運動麻痺があり骨格筋を随意的に収縮することができないにも関わらず、筋緊張が亢進するケースをよく遭遇します(上記のように皮質脊髄路になんらかの障害をおった場合)。

これは脳幹などからの下行路が脊髄機能に対して興奮性情報を送ること、そして脳卒中では脳幹機能がダイレクトに障害を受けることが少ないことからも、痙縮の問題点でもある伸張反射などの反射機構の興奮性が上がっている可能性が考えられます。

そしてこの脳幹は運動出力としての一次運動野〜皮質脊髄路のように対側支配の要素ではなく、同側支配での制御もあり、障害を受けてない脳からの下行路情報は残存かつ過剰に働いていることがあります。

詳しくは前回セミナーのQ&Aにもまとめています。

まとめると、脳卒中患者(運動麻痺をもっている症例)では、脊髄機構の抑制機構のコントロールが難しくなるケースが多いため、脊髄と筋の間で生じる反射機構に異常が生じ、結果的に筋緊張が亢進しやすいということがわかります。

では、そういった筋緊張の亢進に対して、治療を考えた場合には何に着目する必要があるのでしょうか?

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3.知っておいて欲しい脊髄機能とは?

実は、脊髄機能の反射抑制には、自分で自分を抑制させる反回抑制(自原性抑制)という機能があります。

通常、脊髄内には運動細胞であるα運動ニューロンに対しては直接的に興奮性に作用する情報と、抑制系の介在ニューロンを介してα運動ニューロンを抑制させる情報の2つがおりてきます。

そして、その抑制系介在ニューロンを興奮させるレンショウ細胞といった神経細胞が存在します。

このレンショウ細胞は抑制系介在ニューロンを発火させる機能があるため、レンショウ細胞が働くと、結果的にα運動ニューロンの活動を抑制させることに繋がります。

そしてこのレンショウ細胞を介してα運動ニューロンの活動を抑制させる機能のことを反回抑制といいます。

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つまり痙縮などの筋の高緊張が生じているケースにおいては、この反回抑制を如何に臨床場面で使っていけるかが重要な要素になっています。

では、この反回抑制はどのような場面で働くのでしょうか?

反回抑制が働くには前述したレンショウ細胞の働きが非常に重要になってきます。

このレンショウ細胞は主にα運動ニューロンから筋に下行する神経線維からででる反回側枝によって情報伝達されます。

そして、このレンショウ細胞の発火のポイントは少ない刺激量では反応しないということで、α運動ニューロンへの強い刺激入力が必要となってきます。

すなわち、随意要素としての皮質脊髄路などからのα運動ニューロンへの情報入力が多く伝わること(つまり骨格筋が強い収縮を起こした際に)で反応し、それによって自分で自分の活動を抑制することで、そのあとは少ない力での運動出力が可能になるということになります。

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これは特に歩行などの連続動作において重要な役割を示し、骨格筋が強く収縮する立脚後期などの下腿三頭筋の筋活動で考えられ、その際に反回抑制が作用することで、立脚後期での下腿三頭筋の活動が過剰にあがりすぎず、結果的に遊脚期への移行の際に内反といった異常なパターンを抑制することに繋がるのです。

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このように骨格筋の過剰収縮における関節運動のコントロールには脊髄機能を如何に制御していけるか、その際にどういった刺激入力を治療の中で考えるべきかが重要になってくるのです。

4.歩行で考える治療アプローチのポイント

では、さきほどの歩行場面で考えた場合にどのように筋の収縮を引き出す必要があるのでしょうか?

ここには皮質脊髄路を発火させるための臨床的ポイントがあり、そのためには収縮させたい骨格筋を如何に効率よく働かせるか、その際にどういった刺激入力がいるのか、こういった要素が必要になってきます。

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これらにおいても脊髄機能を理解しておく必要があるので、次回の脊髄シリーズでは【骨格筋収縮における脊髄機能で着目すべきポイント】についてまとめていこうと思います。

その際に、刺激入力として感覚入力の方法や運動力学的視点である床反力や関節モーメントの要素をいかに考えていくが特に重要となりますので、是非そちらは以下のセミナーなどでも学んでいただければと思います。

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参考・引用文献

1)Pandyan AD, et al. Spasticity: clinical perceptions, neurological realities and meaningful measurement. Disabil Rehabil. 2005 Jan 7-21;27(1-2):2-6.

2)Li S, et al. New insights into the pathophysiology of post-stroke spasticity. Front Hum Neurosci. 2015 Apr 10;9:192.

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