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片麻痺の新しい病態解釈

引き続き、脳科学の視点から片麻痺治療に必要な知識を投稿させて頂きます。

あらすじ

前回までは、「片麻痺は情報を構築できない、情報を構築するには知覚探索が必要、その知覚探索には認知過程を経てはじめて行為となる」について、投稿させて頂いました。
本日は、上記を経てどのように運動学習、いわゆる「回復」する事ができるのか、そのメカニズムを『アノーキンの機能システム』に基づいて説明させて頂きます。

行為の学習モデルとしての機能システム

『あらゆる行為には運動イメージが先行する(Carlo Perfettiより)

Perfettiは、アノーキンの機能システムの行為受容器(予測機能)における運動によって得られるであろう知覚の「期待/予期/予測」を『知覚仮説(=運動イメージ)』と呼び、その知覚仮説と感覚フィードバック情報との比較照合が学習や運動の特異的病理の制御にとって決定的に重要であると解釈しました。

つまり、「運動(行為)を行う前に必ず予測があり、その予測と実際の運動(行為)との比較を通して運動の調節や学習が起きている」ということです。

その過程を詳しく説明していきます。

アノーキンの機能システム

上記が、アノーキンの機能システムを記した図となります。

前回、説明した通り行為は単に筋収縮することではない事を踏まえて考えてください。

行為には目的があり、この目的を決定するのが『意図』になります。
その意図を実現する為に、『外部環境や自己の状況』を把握する必要があります。
そのうえで、どのようにすれば意図が実現できるのか、という運動ストラテジー(戦略)を想起します。そして、運動を実行となっています。
しかし、行為はここで終わりません。
最後に行為と意図が一致したかどうかを結果と比較照合します。

つまり、『行為は主体の意図に始まり、その意図が達成されたかどうかの結果の確認で終わる。この一連の心的操作のプロセスが行為であり、そうした行為は脳の機能システムが生み出している』ということになります。

アノーキンのモデルでは、次の4つの機能システムの関係によって行為が生み出されているとされています。

4つの機能システム

以下、4つの機能システムの関係性によって行為は生み出されています。

1.求心性情報:知覚機能(意思決定)
2.行為受容器:予測機能(知覚仮説)
3.遠心性情報:実行機能
4.結果の評価:比較機能(比較照合)

1.求心性情報の統合
「求心性情報の統合」とは、知覚機能であり、求心性情報を処理する段階です。
ここでは、『視覚/聴覚/体性感覚(知覚情報)、環境状況、記憶、動機づけ(欲求)、トリガー(引き金)』。脳の領域としては頭頂葉、後頭葉、側頭葉であり、この求心性情報の統合によって『意思決定』がなされます。

2.行為受容器 →ここが重要です!!
行為受容器」は、意思決定した行為を運動プログラム(前頭前野や補足運動野)にする段階です。
ここでは、運動によって生じる知覚の期待/予期/予測が行為に先行して組み立てられ、前もって運動後の感覚情報を受け取る準備をしています。
これを『知覚仮説(運動イメージ)』と呼びます。この予測した知覚仮説と、行為後の知覚との差異を比較します。
 
つまり、片麻痺患者はこの知覚仮説と実際の行為の差異が生じるが問題であり、逆にここの問題を改善、また、この機能自体が学習に繋がるものなので、知覚仮説と感覚フィードバック情報との比較照合が学習や機能回復に繋がることがわかります。

3.遠心性情報の統合
行為受容器の運動プログラムによって、運動野が実際に運動指令を発して、筋収縮(脊髄の運動ニューロンの活性化)が生じさせるまでの遂行課題です。

4.結果の評価
運動前の予測とその感覚フィードバックとの比較照合が「結果の評価」です。
もし、不一致が生じれば、「定位反射」が生じ、再学習の為の意図や行為受容器の確変が必要となります。

まとめると、アノーキンの脳機能システムは、上記の4つの機能の関係性によって行為が形成されることを学習過程としていると言えます。

片麻痺では脳の機能システムに問題が生じる

機能システムのどれか1つに問題が生じても、完全に行為をできなくなるわけではありません。機能システムは問題が発生したままでも全体としては作動します。それは、正常時の作動とは異なり、何とか行為を遂行します。片麻痺患者の共同運動や、ぶん回し歩行などの、機能システムのどこかに問題が発生した状態で遂行している行為です。

なので、行為の回復の為には機能システムの改善を目指すべきです。

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