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小脳系病変「小脳の運動学習のエラー:測定障害」

お疲れ様です。セラピストのはらリハです。

本日も小脳系病変での5つの徴候の1つについて解説していきます。

内容は…
フィードバックの過剰使用に伴う小脳の運動学習のエラー」です。

はじめに

前回も説明していますが、初めて読む方はここから読んでいただければ幸いです。

 小脳系病変では、運動失調症特有の「姿勢筋緊張の低下」と「不随意運動を防ぐための代償部位の高緊張」によって、非機能的な固定化が生じます。

 高緊張は、片麻痺特有の痙縮とは異なり、努力性運動が繰り返されることで、代償性の固定を作り、機能回復を遅らせることに繋がります。

 このような病的高緊張は過緊張の分類に入りますが、連合反応や放散反応といった症状は出ないため、安静時には低緊張や正常範囲の姿勢筋緊張を示すことが多いです。

 運動失調症のケースでは、姿勢運動の調節をフィードバックとフィードフォワードでの姿勢調節のうち、フィードバックを主とするため、協調性の障害が残存してしまいます。

 さらに、小脳は大脳との連携の基に、姿勢運動学習の初期段階での身体図式形成に関与するため、基底核での身体図式が保存されるにつれて、小脳でのその役割は低下します。

 しかし、小脳損傷によってこの姿勢運動の初期から効率的な運動学習が困難になります。

 より正常に近い姿勢運動を獲得するためには、原則として「フィードフォワードを中心にした治療プログラムの組み立て」が重要になります。

ここまでが、前回以降に説明している内容です。

フィードバックの依存に伴う上肢の活動

 小脳損傷では、感覚障害が生じるケースは少ないです。

 そのため、上肢のリーチ運動では、体性感覚情報や視覚情報に依存したフィードバックを過剰に使いやすく、努力的な代償動作を頭頸部や胸椎屈曲で固定的な姿勢を取りやすいです。

 この状態で、リーチ動作を反復訓練しても代償を強めてしまう可能性もあります。

 なぜ、小脳系疾患の場合、このような現象が起きるのでしょうか?

 小脳の運動学習について知ってみましょう。

小脳の運動学習

Bastianさんは、小脳の運動学習(フィードバックとフィードフォワードの関係)について以下に説明しています。

※フィードバックとフィードフォワードの詳細は以下のリンクから参照

小脳は予測的に運動をコントロールする役割を持っており…

☑︎ 誤ったフィードフォワードの姿勢を修正するフィードバックによる反応は、小脳が作用しなくても起こる。しかし、最初の運動から「次の運動」へのフィードフォワードによる適応は、小脳の参加なしには起こらない。

☑︎ 小脳の現在の運動から「次の運動」へのフィードフォワードの適応性のある予測的調節のために必要とされる。このことはエラーを学習するメカニズムによって起こる。継続する運動中に、フィードフォワードの指令の中でエラーは減少する。当然、フィードバックによる修正も必要である。
bastian(2006)  脳卒中後遺症へのボバースアプローチ

 脳のフィードバックの作用は、小脳が関与しなくても作動しますが、1つの運動から「次の運動」へのフィードフォワードによる適応は、小脳が役割を果たさないと出現しません。

 そのため、小脳が関与しない、ただ繰り返す反復運動では、小脳病変のケースは、エラーを減少させる学習は進んでいかないことがわかります。

 ただ、フィードバックも必要です。

 遠心性コピーとして、小脳へ送られた情報と、末梢からの感覚情報が照合されたエラーの検知と修正がなされた大脳の運動領域に向かいます。

 この小脳からの情報は「次の運動」のために関与し、運動からフィードフォワードとして予測される運動として発進が続けられます。 

これらの運動学習を経て、円滑かつ効率的な行為が達成されます。

次は、それを踏まえた運動失調の関係を説明します。

リーチ動作で考える小脳失調のフィードバックとフィードフォワード

 健常者のリーチ運動の第1相と言われる開始時からの早い弾道運動(目標を決めプログラムするようなイメージ)は、フィードフォワードとして予測されて開始します。

 Bastianさんは、小脳のフィードフォワードの役割はフィードバックよりも重要であると述べています。

☑︎ 小脳性失調症のケースでは…
 リーチ運動の第1相で、フィードフォワードによる調節が乏しいと、対象物へ手が到達する時の減速的なフィードバックによる不随意運動の調節を継続させることを困難にし、到達時に動揺を起こすと結論づけている。

 この点で「大脳損傷による低緊張」と「小脳性弛緩」では、治療プログラムは異なります。

 前者では抗重力姿勢を整えたら整えたら四肢近位部の同時活動をフィードバックで改善させ、速やかな四肢の運動をフィードフォワードへと徐々に繋ぐことが多いです。

 これに対して、後者では、相対的に弛緩の程度が軽度なことが多く、座位や立位で上肢の指示をする過程で肩甲帯から肩周囲の同時活動による安定性を高めたなら、即座に上肢の速やかな空間動作等やステップに向けての運動の開始を図ることが要求されます。

 よって、全身の姿勢を整えたら、リーチ運動時の第1相において弾道運動といったフィードフォワードの機能回復の練習を優先すべきことが示唆されます。

 また、運動失調では、当初予測した目的物との距離や運動の方向は視覚で判断するが、早期運動を最初から正確に速やかに修正をすることによって、測定障害を運動開始時から抑える運動学習を行います。

測定障害

 リーチ動作で手が対象物に近づくと、測定障害が生じます。

 測定障害の中の「測定過大」と「測定過小」は、主動作筋と拮抗筋の同時活動が乱れた非協調性運動の過程で起きます。

 このことから、プルキエン細胞を主とした測定過大への抑制能力は残存しているが、主動作筋に現れる測定過大に対し、拮抗筋に不均等で、過剰な抑制で過小な働きとして現れる過小な動きとして現れるのが測定過小と言えます。

 つまり測定障害とは、それを繰り返す現象といます。

測定障害の治療

 低緊張の肩甲帯と主動作筋の姿勢筋緊張を、運動初期の上肢の支持にて収縮させて高めます。

 遅延して現れる拮抗筋の活動も主動作筋と拮抗筋の活動を先行させて協調し安定させる必要があります。

 リーチ動作開始時のフィードフォワードがうまく実現すると、対象物に首相が近づいて調節をする最終のフィードバックの運動も協調することを、Bastianは述べています。

測定障害と運動療法

 リーチ動作の第2相の対象物へ到達するまでの段階で、視覚によるフィードバックを優先するまでの段階で、視覚によるフィードバックを優先する運動療法を用いている傾向が多いと思います。

 視覚を優先するフィードバックでの誘導では、意志による協調性をケースに優先させてしまい、運動中の体幹の平衡機能障害にゆる動揺や、上肢の動揺の再出現に繋がりやすくなります。

 このため、実際の治療において、療法士は小脳の大きな役割である「次の運動」の調節についてもフィードフォワードで開始できるように関わる必要があります。

 これにより、立直動作の第2相でもフィードフォワードへの介入を前提として、後半のフィードバック作用中に姿勢筋緊張の上で同時格闘が高まり好影響を与え、測定障害が少なくなるように働きかえを続けることを重要と考えます。

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