見出し画像

地獄を見てるのかと思った(8)

「これさあ、どっかにクレーム入れらんないのかな。
おかしすぎない?
障害者雇用求人ってなってるのに。どうかしてる。ほんとどうかしてる。」


状況をナツコに報告したらLINEの向こうで憤慨していた。
あたしはぐったりしながら、それでもナツコがこの気持ちに寄り添おうとしてくれていることがとても嬉しかった。

ナツコは大学時代からの友人で、たまー-にLINEで連絡を取ることが以前からあった。今はこういうことになって、毎日連絡くれるようになった。

「労働基準監督所に電話したんだけど、採用後の問題を取り扱うところなので、実際に求めている人材と、求人票に記載している人材がちがうことについては残念ながら対応する術はない、って言われたわ」

「この障害を募集してます、この障害は応募しないでくださいなんて、記載されてすらなかったよ。こちらとしては聴覚障害は無理ですって言われた方がよっぽどこういうことに遭遇しない率が下がるのでとてもありがたいんですけど・・・」

「多種多様な障害があるなかで、特定の障害のみ募集は出来ない仕組みなので、そのためにハローワークに専門部署があるんだとも言ってたな」

「多種多様な障害がある中で
特定の障害のみ募集、または断るということが出来るって、結構すごいことだよね」

子どもたちが寝ている部屋に目をやり、私は紅茶をひとくち飲んだ。


今日の昼間、前回ハローワークの職員が見繕ってくれ、応募した会社からのメールが来た。

《高梨さま
この度は「データ入力」の求人に応募いただき
ありがとうございます。
履歴書拝見いたしました。
ハローワーク様より吃音とお話しいただいていますが、
聞くことは問題ないとの認識でよろしいでしょうか。

面接を行う際にそのあたりの状況を確認させていただきます。

また、他に数名履歴書を送付いただいています。
面接により採否を決定させていただくようになると思います。

面接日ですが、10月6日PM4:00時以降、10月7日AM10:00、
10月8日は1日都合いいです。
面接日の希望返信ください。宜しくお願い致します。》


吃音?
何度も就職相談の受付をしてもらったと思うのだけれど、ハローワークの職員さんは私を「吃音」だと話したらしい。
よしんば吃音であったとしても、「聞くことについて問題はないのでしょうか」って結構失礼なのでは。

なんでこんなことに。。。そんなことあるの?

《株式会社 そくこう
採用担当さま

ご連絡ありがとうございます。
私は聴覚障害がありますが吃音ではありません。

音声での発語・音声の聞き取りをすることが出来ないので
双方のコミュニケーション方法は筆談・パソコン入力・音声認識アプリでの方法となります。
ハローワークの担当の方とは「聴覚障害者」と伝え筆談でやり取りをしていましたが、
企業様の方に聴覚障害者と伝えていただけなかったようで齟齬が生じていることとなってしまったようです。

上記のことをお含みおきいただき、面接をしていただけるのであれば再度ご連絡をいただけますでしょうか。》


《高梨 様

返信いただき誠にありがとうございます。
株式会社そくこう、採用担当でございます。

この度は当社とハローワーク様との聞き違い大変失礼をいたしました。
当社の業務は道路、ライフライン、農業、林業、都市計画等多岐にわたり、
都度詳細な説明が要求されます。
社内で慎重に検討しました結果、誠に残念ながら今回はご期待に添えない
結果となりました。
せっかくご応募いただいたにもかかわらず、誠に申し》

読むや否や、あたしはメールを削除した。


思い出すだけで心臓がギュッとなる。

もそも身体的特徴で決めることがどんなことなのかっていうのが認知されなさ過ぎて、それが当たり前になっていることがきつい。
神様級じゃない?
障害ある無しで選べるのって。
それが当然と思ってるところがまたすごい。
他人のことだけど、これこそ烏滸がましいとしか言いようがない。

差別

思いのほか巨大な壁が立ち聳えていることを今までになく強く実感した。
それと同時に
自分はこれからどうなるのか、という言い知れぬ不安に押しつぶされながら
眠れぬ夜を過ごすのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?