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”世界”と戦う舞台 ~2008年世界選手権~

2008年3月、はじめての海外試合の撮影を経験します。
マイルも飛行機のアライアンスとかも全くわかっていない頃です。
ひとり移動の不安と、世界での戦いはどういうものなんだろうというワクワクを抱えながら、試合が行われるスウェーデン・イェーテボリまで移動します。


1年前の自分では想像できなかった。
ひとりでスウェーデンに来るとは。しかもフィギュアスケートを撮るために海外に出るなんて。

会場に来てるフォトグラファーの数も多く、スポーツを専門に撮ってる訳じゃない僕は、初めての雰囲気に少し尻込みした。
会場で話せる人も、ペーペーの自分には数人だけ。
実績もなにもない僕は、今では仲良くお付き合いいただいてる日本人のフリーの先輩方にも、このときは恐れ多くて話しかけることもできなかった。

空き時間、プレスルームにいるのも息苦しく感じ、カメラを持って会場近くをブラブラしては声をかけて現地の人を撮らせてもらった。(3月とはいえ、めっちゃ寒かったです。わんこシックになりながら、わんこたちも撮らせてもらいました。)

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実際に競技を撮ると、昨年までの国内でのフィギュアスケートとは全く別物に感じた。

観客の応援の声・タイミング・各国の海外スケーターの演技。
初めて経験する「世界での戦い」というものに、はじめは正直ビビった。
これを撮るために、自分がリンクサイドでカメラを構えていることが信じられなかった。それでも撮り続けるうちに、嬉しいという感情に変わる。この戦いを近くで撮影できることが、ただただ嬉しく、ありがたいと思った。

女子はほとんどの選手がミスが少なく、本番で力を発揮できる女性としての強さを感じた。「美しい、可愛らしいと思う一瞬を写したい」と思った。

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男子の世界での戦いは、よりアスリート感が強まるように感じた。
ジャンプのダイナミックさ、ステップの力強さなど。

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そして、日本代表のスケーターを「いい演技ができるように」と願いながらシャッターを切った。


大ちゃんのSP
沸く欧米の観客の声を聞きながら必死でファインダー越しに追いかけた。
特にステップの歓声は、いちフォトグラファーとしてその場にいた僕でさえも、誇らしい気持ちにさせてくれた。

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真央ちゃんのFS
冒頭の転倒でダメかなと思いながらシャッターを押すも、その後は会心の演技で逆転優勝。(3Aに入る前に突然転んだので、何が起きたかわからないまま撮り続けてました)
ただただ凄いと感心だった。

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まだこのときは、世界のフィギュア事情に疎く、この後2人がマスコミを巻き込んでのライバル関係になっていくとは思いませんでした。
会見中、顔を合わせて笑う2人はただ微笑ましかったです。


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競技終了後の大ちゃん。
惜しくも4位に終わり悔しさを抱えながらも、快く「スケート靴を持って」というお願いに応じてくれました。


この世界選手権の撮影を通して改めて感じたフィギュアスケートの写真。

「切り取り方次第でどういう表現もできる」

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空間をうまく活かした切り取り方を意識しながら、これまで撮影してきたフォトグラファーとの差別化をより強く意識しようと思えた写真だ。
同じ空間で同じ被写体であるスケーターを撮ってるのに、それぞれの個性の違いがはっきりとわかれることも、僕にとっては面白かった。
フィギュアスケートを仕事にしていくには、自分との戦いでもあり、会場にきている他のフォトグラファーとも戦うことなんだと実感した。


また、フリーランスである以上、赤字ではあっても赤字額を減らす努力をしないと、撮りに行きたくてもお金がなくて行けないという状況もあり得る。
このときはまだ高くて買えてなかった、400mmというレンズはどうしても必要だなと思った。(まだ、短い300mmしか持ってませんでした)

フィギュアスケートを撮る上では標準的なレンズだし、”見栄“というか、”見映え“というか、そういう部分も含めて来年の世界選手権までには買わなきゃと思った。
みんなが当たり前のように構えてるレンズよりも、小さいレンズを構えてる時点でもう負けてるとこのときは感じていた。

当然標準的なレンズなので必要ではあると思いますが、なければないでそのとき持ってるレンズで工夫して撮ればいいと、色々経験してきた今では思えます。
撮りはじめたこの頃は、「早く認められたい」「仕事に結びつけたい」などとギラついていたんだと思います(苦笑)

こうして初めての世界選手権は、色々な気づきとともに貴重な経験を積むことができた大会だった。
より一層フィギュアスケートを撮り続けたいという気持ちが強まった。


帰国して仙台に戻ると、すぐ広告撮影の仕事に戻ります。
遠征にかかった半分以上が赤字というのは、フリーランスにとっては問題です。
本来受けれるべき仕事を断り、1週間不在にした上赤字という状況です。
冷静に考えれば、周りから「あいつ何やってるんだ?」と思われても仕方がないですね。
このときは、純粋にフィギュアスケートの撮影が楽しく、撮りに行きたいという気持ちがただ強かったんだと思います。
スケーターを切り取れる喜びがますます強くなった2008年の世界選手権でした。


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