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窓辺のハンターの術を見た。

昨日 我が家の茶色のテーブルにパートナーと向かいあって 朝食を食べていたときのことだった。

なにか黒い物体がテーブルの上を飛んでいるのが視界の端に見えた。テーブルの上には食べかけのご飯や汁物が残っていた。

ふたりで慌てて 朝ごはんを手で庇いながら 黒い物体の行方を追う。それは小さなハエのような生き物であった。

わたしの背後にまわり込んだのち 再び旋回してわたしの前に躍り出てきた。まるでプロペラのようにクルクルと回っている。

やがてハエのような物体(以下ハエの君)は窓の方に向かって飛んでいった。窓はブラインドが降ろされて その隙間から外の光が室内に差し込んでいた。

外を見ると曇り空が広がっている。ハエの君は窓にくっついていて 下の方に向かって動いていた。わたしはハエの君を逃してやろうと思い 窓の鍵に手をかけた。

すると その時 窓のサッシの部分に辿り着いたハエの君は突然 新たな黒い物体に襲われたではないか!

その瞬間はあまりに一瞬で わたしが驚いたときにはハエの君はサッシの下に消えてしまっていた。

はたしてハエの君を襲った正体は 同じくらいか それよりも小さな蜘蛛であった。我が家では基本的に蜘蛛は殺さないし 特に追い払ったりもしていない。

なので家の中にはそこかしこに蜘蛛の巣が張られている。時折 掃除する際に家主がいない場合は蜘蛛の巣を撤去させてもらうが 家主がいる場合はあえて撤去していない。

とは言え 今回は窓のサッシの部分に蜘蛛の巣があることに氣がつかなかったので 二重に驚いた。わたしの想像では糸に掛かった獲物に対して もっとゆっくり近くのだろうと思っていた。

だが 今回の蜘蛛はハエの君に対して プロレスラーがポールの上からジャンプしてフォールしに行くかのように大胆に飛び掛かっていた。

やられた方はひとたまりも無かったのか 抵抗するそぶりもなく蜘蛛に連れて行かれてしまった。ハエの君も襲われる直前は蜘蛛の糸に足が掛かっていたが 時間さえあれば逃げ出せそうな掛かり具合だったので わたしは逃げ出す様子でも眺めようと思っていたのだ。

いやはや全くの早業であった。わたしはパートナーにもこの驚きを伝えるべくテーブルの脇に移動し 蜘蛛の行った妙技を全身を使って表現をしたのだが パートナーは阿呆を見るような顔をしてわたしの顔を覗き込んでいた。
 
感想を聞いてみると あまりに突然でなんだかよく分かっていなかったと言うことだった。再度やってみると 伝わったのか伝わっていないのか やはり分からない反応だが 蜘蛛の早業については伝わったようだった。

パートナーに形態模写により蜘蛛の襲うシーンを伝えたあと ふたりで窓辺をあらためて確認してみた。するとさっきまでいたハエの君が完全にサッシの隙間に連れ込まれたようで そこには蜘蛛の糸だけが静けさとともに残されていた。

あんなに小さな蜘蛛であっても 獲物に襲いかかるときのスピードは本当に驚くものがあるなぁ。

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