TRPGシナリオ製作術 【慈悲なきアイオニアのシナリオ作り7つのヒント】
フシギ製作所のイチさんが、TRPGシステム『慈悲なきアイオニア』というダークファンタジーなシステムを発表されました。
イチさんが普段CoCのシナリオを発表されているため、遊んでみたい興味のあるTRPGユーザーもCoCで遊んでいるTRPGユーザーが多くいらっしゃると思われます。
この度は『慈悲なきアイオニア』でのシナリオ制作について、『CoCでのシナリオ制作』と比較しながら色々と考察した内容をまとめたいと思います。
今後、慈悲なきアイオニアのシナリオを制作しようと思った方々の一助となれば幸いです。
慈 慈悲なきアイオニアのリソースについて把握する
CoCが多くのTRPGユーザーに受け入れられた理由の1つとして、例えゲームそのものの経験が少ないPLの無意識下であったとしても、ゲーム戦略の基本である『リソース管理』が楽でありRPG初心者向けだった、というのは大きな理由だと思います。
リソースとは、特定のステータス値のことであり、ある程度PLの意志と意識で数値の増減を管理しなければならない数値のことです。
CoCのステータスの中では主にHP、MP、SAN値のことをリソースとするのが一般的です。その他のステータスであるPOWやAPPといった数値は、PLの意志で数値を上下させたり出来ませんので、基本的にリソース扱いはしません。
シナリオによっては、POWなどのステータスをリソース化してPLに管理させるイベント、またはギミックが存在するシナリオなどが世の中にはあると思います。その場合はもちろん、PLに追加でリソース管理をしてもらうことが狙いのイベント、またはギミックですので、リソースに含まれるようになります。
上記のようなリソースと呼べるステータスを、PLが管理することを『リソース管理』と呼びます。『リソース管理』は、シナリオ中の状況をゲーム的に捉えて、現在や未来の盤面の有利不利についてゲーム的な目線で考えることになりますが、RPを重視してあえてリソースを減らす行為もまた『リソース管理』と言えるでしょう。
『リソース管理』という行為をCoCで例えるなら、「そろそろSAN値がキツくなってきたから、他のPCに探索してもらおうかな」というPL間での相談や、「HPが先程の怪我で減っているので、応急手当で回復しても良いですか?」といったKPへの提案などなど、HPやSAN値などを減らさないようにゲームを遊ぶシーンが該当します。
CoC中級者になってくると、『気絶しない程度であれば、味方をかばってHPが減っても良い』とか、『SAN値が低い仲間を温存するために、自分のPCで積極的に探索する』といった作戦で行動したりしますが、このような作戦もまさに『リソース管理』です。
もっとも究極のリソースはPCの命1個です。『俺はここまでだ! 俺に構わず先に行け!』と、自PCを犠牲に仲間を助ける行為は、ある意味では最期のリソース管理と言えます。
というわけで、CoCにおいて気を付けないといけない自分のキャラクターのステータスは主にHP、MP、SAN値の3つですので、これらがリソースです。
どれもこれも無くなったら大変なことになる重要なリソースですが、ぶっちゃけMPはあんまり使わないので、実質HPとSAN値の2つに気を付ければ遊べます。リソース管理にいちいち頭を使わなくて済むので、RPに集中出来ますよね。
では、慈悲なきアイオニアのリソース管理について考えてみましょう。
今まさに傷を負った場合の『ダメージ』
そのダメージを治療した結果の『傷跡』
精神的な疲労や緊張を表す『ストレス』
ダメージチェックや、シナリオクリア後のストレスチェック処理によって永続的に発症する肉体的、または精神的な『後遺症』
慈悲なきアイオニアはHPとMPというリソースではなく、上記の上3種類、ダメージと傷跡とストレスをリソースと考えてよいでしょう。
物凄くざっくばらんに説明してしまうと、ダメージと傷跡がHP、ストレスがMPとSAN値を合体させたもの、そして後遺症は冒険に参加出来るタイムリミットです。
後遺症はあえてリソースという考え方から外しています。継続冒険者としてシナリオをクリアすればするほど確立で増えていく後遺症は、ゲーム的にはデメリットなんですが、それでも継続したいというPLの選択は尊重されるべきですし、あえてデメリットを享受する遊び方に対してゲーム的な『リソース管理』という考え方を当てはめるのは野暮かと思いましたので、後遺症はリソース管理という考え方で扱うべきではありません。
残った3種類のダメージ、傷跡、ストレスが『リソース管理』に当てはまるステータスだと思われます。
そのため、慈悲なきアイオニアのシナリオを作成する際には、これらのリソースをPLにどのように管理させるかによって、シナリオのトーンが決定されます。
なぜなら、『緊張と緩和』というシナリオ制作テクニックに対してのゲーム的なアプローチとして『リソース管理』というゲームデザインが開発されているからです。
悲 『緊張と緩和』のために『リソース管理』というゲームデザインがある
PCがダメージやストレスを負う描写は、PLに緊張を感じてもらうために行う描写です。ダメージを治療することで傷跡になるゲームルールも、治療という名前の行為ではあるものの、潜在的な後遺症や死亡のリスクの蓄積を意味しますので、ダメージを負ったことによるPLは、ダメージを治療しても『緊張の緩和』に今一歩及ばないというか、完全回復しないので微妙にスッキリしないです。
ストレスというリソースも、魔法を行使するためにストレスを受け、戦闘不能状態からの回復にもストレスを受け、友人が死んだりしてもストレスを受け……といった感じで増える一方です。ストレスを減らす場合は、『特別に癒やされたと感じるような状況』でストレスを1点回復できる(GM裁量)という塩梅です。セッション開始時にストレス値は0からスタートするというルールのため、継続冒険者でもセッション毎にストレス値はリセットされるとはいえ、セッションクリア後のアフタープレイ時にあるストレスチェックによる後遺症の可能性を考えると、リソース管理に関して慈悲なきアイオニアはCoCと比べてちょっと塩辛い印象を受けます。
しかしこの塩辛い部分が、ダークファンタジーの慈悲なきアイオニアのコンセプトであることを、シナリオとして意識するのは大事です。
ダークファンタジーであり、慈悲もないという部分を強調しているのが、傷跡というルールです。
しかしながら、もっと平和なシナリオを書きたいという人達のための余白も用意されています。次の段落に移りましょう。
悲 1つのハードルとしての『短期間で5点ダメージを受けるとダメージチェック』
戦闘中ならば1ラウンド、戦闘外でならば短時間に5点ダメージを受けた冒険者は『ダメージチェック』というルールが発生します。
ダメージチェックに失敗すると戦闘不能、難易度の半分以下で失敗すると後遺症(弱点)の付与、難易度の1/5の数値を出して失敗してしまうと死亡となります。
つまり、戦闘中1ラウンド以内に1人のPCが5点ダメージを食らうような状況を作らなければ、基本的に戦闘時のダメージチェックは発生しません。
戦闘時以外であれば、なおさらシナリオ作者のコントロール下にあるので、意図的に5点以上のダメージを受けるようなイベントを配置しなければダメージチェックは発生しません。
つまり、ダメージチェックを発生させるかどうかがシナリオのトーンを決める1つの大きな別れ目となるでしょう。
悲 戦闘のないシナリオはアリ
戦闘しないシナリオでも、危"険"を"冒"さないといけないのであれば『冒険者』の出番です。
危険というのは自分自身の身の危険という意味もありますが、自身にまつわる何かが無くなったり、減ったりするのも危険だと捉える価値観も存在します。
PCの財産が減るのも危険ですし、友人の身の危険もPCの危険です。友人の命も亡くしたくないのが人情というものであり、友人のために冒険に出るシナリオも、シナリオとして成立するでしょう。
ということは、友人の財産が危険にさらされているのを何とかしようとするシナリオもまた成立するでしょう。
そして、"冒す(おかす)"という言葉の意味は、"あえて危険や困難に挑む"ことを"冒す"と言います。
ということはつまり、危険とまではいかなくとも、困難な出来事に挑戦するシナリオもまた『慈悲なきアイオニア』のシナリオとして成立するでしょう。
解明されていない魔法の原理を探求する、芸術とはなにかを模索する、飼い猫の機嫌が悪くなったのをどうにかする、母親のために年端もいかない少年少女PCが商店街へ買い物に向かうなどなど、日常にも冒険はあるということです。
悲 ストレスチェックはクリア後に必ず1回行うし、失敗すると後遺症
ダメージチェックに対して、ストレスチェックの方はかなり手厳しい印象です。魔法の使用でも、非日常を経験することでも、PCのストレスは増加するため、戦闘のないシナリオを制作しても、魔法を使用するとストレス値が上昇します。
ストレスチェックはルール上必ず1回行うタイミングがあり、そのタイミングとはアフタープレイ、つまりシナリオクリア後の処理の時間です。
魔法使いのストレス値の上昇は避けられないため、シナリオクリア後に報酬としてストレスの回復をして帳尻を合わせる手法を取ることになりそうです。
しかし、『ストレスの回復』という報酬は、次回の冒険でストレス値が0にリセットされることを考えると、ゲーム的には報酬として微妙だったりします。
PCが苦労したことで貰えるクリア報酬は、経験点を基本として何らかのアーティファクトといった貴重品や、特別な人脈や、自分や友人たちの平和だったりするシナリオの方が報酬としては嬉しいはずですので、シナリオのトーンに合わない過度なストレス回復報酬は緊張感を無駄に損なう余計な報酬になってしまうかもしれません。
慈悲なきアイオニアのコンセプトは、やはり慈悲の無い世界で足掻く冒険者たちの物語だと思いますので、ストレスチェックの後遺症は仕方ないと受け入れるぐらいが丁度良い気がしますが、それでもシナリオクリア後にストレスが0になるような報酬を渡せば、ストレスチェックは自動成功となり、後遺症を負うリスクを0に出来ます。
どんなに困難で慈悲のない世界でも、そのような世界観のアニメや漫画には必ずと言ってよいほど『日常回』が存在するのは、ストーリー全体を通して見た時に『緊張と緩和』テクニックを取り入れた結果だと思われます。
バチバチに戦闘するシナリオも、戦闘はないけど恐怖によりストレスがどんどん溜まるシナリオも、そのどちらもないシナリオも、『慈悲なきアイオニア』は世界観に遊びや余白が用意されていますので、シナリオトーンがどのようなものになろうと問題ありません。
アフタープレイのストレスチェックの難易度をどうするのかは、冒険が終わった冒険者の心境に寄り添えるような値にするべきでしょう。
例えば、街を襲ってきたオークたちを、住人たちと協力して無事に撃退出来たエンディングなら、PCは自身と仲間たちの功績を誇りに思うことでしょう。その場合、アフタープレイによるストレス回復報酬によって最終的なストレス値は限りなく0に近くても問題無いはずです。
しかし、命からがら撃退して住民たちにも死傷者が出ているのなら、精神的な後遺症を負うほうが自然というものです。更に、オークに襲われて命からがら故郷を捨てて逃げ切って終わるエンディングなら、その冒険は明らかにトラウマになるでしょうから、精神的な後遺症は必須とも言えるでしょう。
魔術の探求によって神々の真実の一端に触れることにより、精神に異常をきたすエンディングであれば後遺症は必須かもしれませんが、研究仲間と協力して、オリジナル魔法を1つ完成させることが出来た場合、慈悲なきアイオニアの世界観的には偉業を達成したことになりますので、PCも気分が高揚するでしょうし気持ちの良い出来事、思い出ということになるでしょう。その場合、アフタープレイでストレス回復報酬が多く支払われてもおかしくありませんし、魔法を使いすぎてしまったことにより、人知れず精神的な後遺症を負ってしまうのもまたエモいかもしれません。
はじめてのお使いのような平和な冒険でも、自分より大きな体格の大人の竜人に脅かされた少年少女PCは、竜人に対してトラウマを負ってしまうかもしれません。無事にやり遂げて母親に褒められ、成功体験が自信に繋がるかもしれません。
上記の例のように、アフタープレイのストレスチェックをどうするのかは、シナリオ作者として如何に冒険者に寄り添った報酬を渡せているかが重要です。
慈 人々の価値観の違いに気を付ける
この記事を読んでいる方は現代日本の社会を生きる方々だと思われますが、慈悲なきアイオニアの世界に生きる人々の価値観とは全く違う価値観である可能性があります。
しかしながら、現代日本社会でも未だに昭和の悪いところを引きずっているオジサンがいるのと同じく、アイオニアの世界で生きている人々全員、全てが同じ価値観でもって行動しているとは限りません。
文明的な都市や国では先進的な考え方が受け入れられているものですし、地方の町村では古い価値観が根強く残っているのが一般的です。CoCでも、いわゆる『因習村』シナリオというものは、価値観の違いをホラーに仕立てたシナリオであると言えるでしょうし、アイオニアの世界ならば『因習村』はたくさん存在する可能性があります。
そのため、シナリオ制作の資料として1200年代ぐらいから1700年代ぐらいのヨーロッパ周辺の資料を読んでおくのは、シナリオの雰囲気作りに大きく助けられるでしょう。アイオニアの世界の住人たちの価値観に合わせて、プロットの内容を考える必要があります。
悲 魔法使いの価値観について
例えばですが、魔法使いに対する現実世界の歴史は、かなり暗い歴史です。あまり細かいことを書くと怒られそうなので自粛しますが、魔女狩りや魔女裁判という行為が行われていた歴史と、アイオニアの魔法使いの差別的な雰囲気は一致するものがあるでしょう。
もちろん、アイオニアの大きな都市では、魔法使いに対する偏見も減りつつあるのでしょうが、これまた地方の町村となってくると、価値観は全くそれぞれになってしまうことでしょう。
魔法の便利さに気付いている町村であれば、魔法使いは受け入れられるでしょうが、それはその町村でとある魔法使いがとてつもない貢献をしたからに違いないかもしれませんし、その町村そのものが、迫害を逃げ延びて寄り集まった魔法使いの集団かもしれません。
CoCのシナリオにおいても、魔法使いといった存在は人知れず存在している世界観のため、実はこのあたりの描写については流用の効く部分だったりしますが、中世や近世のヨーロッパ感みたいなものをそれにプラスできれば、より雰囲気が出ることでしょう。
悲 戦争、紛争、内戦という価値観
現実世界でも、数百年前は剣や槍や棍棒で戦い、時には何百の馬を管理して騎馬隊を編成し、大きな投石器まで作って城壁を破壊し、城を兵士で囲って食べ物の供給を絶って飢え死にさせる作戦が実行され、領地の農民を戦争に参加させ、傭兵が金銭を目的として戦争に参加し、国王が崩御すれば跡取り争いで内戦が始まり、他国が政治的理由で他国の内戦に介入して紛争化し、領地や宗教的理由で国々が団結して戦争に発展しています。
悲しいことに、久しく行われていなかった戦争行為が今現在発生していますので、ちょっとセンシティブな話題ですが、慈悲なきアイオニアの世界でも戦争は起きています。
北の大陸『グレイベル』の戦況は、事実上の停戦状態でありながらも侵略戦争が継続中であり、国境付近では小競り合いが発生している模様です。
北の大陸『グレイベル』では、ラウステン王国とウルド古王国の同盟、そしてスリーズ帝国という3つの国が戦争状態であり、3つの国の国境付近である『とびら谷』では、スリーズ帝国の私掠軍(しりゃくぐん)が通商破壊を行っているそうです。
私掠軍の私掠とは、国やそれに準ずる存在に認可された山賊や海賊のことです。
通商破壊とは、他国の商人や町村などを略奪して、交易路を破壊する行為のことを言います。
つまり、スリーズ帝国は山賊に許可証などを与えて軍となし、他国の商人などを『とびら谷』付近で攻撃、略奪している事になります。
一方では、北部の国ラウステン王国の北の港町ナヴァレーにおいて、海賊が他国の船を私掠しているとのことです。
こちらの海賊についてはラウステン王国が認可しておらず黙認している状況ですが、歴史的に権力を持ってしまった海賊たち自らの取り決めによって、自国の船を襲わない約束などを取り付けており、ただの海賊ではなくなってしまっている状況です。
国境付近でお互いの国民が略奪の被害にあっているこの状況は、ラウステン王国とスリーズ帝国の両国が正当な理由で戦争を再開出来る状況ではありますが、両国とも国内に不穏な様子があり、戦争どころではないようです。
ラウステン王国側は宗教上の問題を抱えており、スリーズ帝国側は長期化した侵略戦争によって内政不安が発生しています。
長期化した侵略戦争によって発生する内政不安といえば、戦争による農民不足&軍隊の食糧需要増で国内の食糧事情や金銭事情が悪化していたり、国民が戦争に対してネガティブになっていて兵士の士気が低下していたり、急速な侵略戦争によって吸収合併した元国家や都市群が、スリーズ帝国に非協力的な態度を取っていたり、といったものが考えられます。最悪の場合は、帝国内が再分裂して内戦が勃発してもおかしくはありません。
ラウステン王国側の宗教問題も、最悪の結末は内戦に繋がる可能性のある深刻な問題です。国教指定された宗教『シャーマ教正教会』の権力が政治に関与しており、司祭たちが水面下で権力争いをしている事態に発展しております。
更に、前国王の悪政によって甘い蜜を吸っていた貴族たちは、善政を敷いて国民に人気のある現国王イードレッド王に対して不満を覚えており、そんな貴族たちと司祭たちがいつの日か問題を起こすのは目に見えている状況なのです。
現代人からすれば、そんな簡単に戦争なんて……という気持ちがありますが、慈悲なきアイオニアの世界は少なくとも戦争中の国家が3つあります。
これらの国家に所属している国民たちの不安は、現代日本人の我々は想像することしか出来ません。
しかし、この雰囲気と価値観をシナリオに組み込む必要はあるでしょう。どれぐらいの量を組み込む必要があるかはシナリオそれぞれですが、全く無視して良いかと言われれば、戦争という行為と雰囲気は完全に無視出来るような空気感では無いと思います。友人や夫や息子が戦争によって帰らぬ人になるのが日常化するのが、戦争というものです。
CoCのシナリオ制作と比べると、上記の点はかなり違う点だと思われます。
しかし、度々筆者の記事に出てくる脚本テクニック『衝突(コンフリクト)』と、戦争問題や政治問題は相性が良いです。
人は必ず誰かと衝突していますが、これほど分かりやすく衝突している舞台設定が用意されているのであれば、この舞台設定に乗っかるだけでコンフリクトは完成したも同然です。
もちろん、もっと個人的な問題に対してのコンフリクトを演出しても問題ありませんが、世界的に武力で衝突している慈悲なきアイオニアの世界においては、個人的な衝突の解決が戦闘になることも少なくなさそうです。
一方で巨大な組織同士の衝突を戦闘で解決するということは、戦争を再開する、または内戦が勃発するということです。どのような世界であっても、戦争を望む勢力がいる一方で戦争を望まない勢力が存在しており、その存在同士も衝突しています。
シナリオのスケールがどんどん巨大化してしまうのを良しとするなら、3つの国が戦争を再開するシナリオを書いても良いのですが、戦争という結末を回避をしながら問題を解決するシナリオはスマートなシナリオになると思いますので、大きな組織同士の衝突は逆に内々に処理するエンディングの方が、シナリオ制作の面から見ても、慈悲なきアイオニアの舞台設定から見ても現実的かもしれません。
いずれ冒険者が北の大陸の戦争状態を過熱させる、または集結させるシナリオが世に出回ると思うと楽しみですね。
悲 魔物に対する価値観
慈悲なきアイオニアの世界には、直接見たことはないにしても、魔物の存在そのものを人々は認めています。
冒険者や傭兵、考古学者や魔術研究家などであれば、オークやゴブリンと戦った経験のある人物も存在するはずです。それぞれの魔物がどれぐらいいるのかについては、公式で明言されていないので、余白があるということです。
勿論、公式ルールブックに存在しない魔物を登場させることも可能です。
どのような魔物にしろ、慈悲なきアイオニアの世界において、人類は魔物の情報を集め、対抗策を練っています。努力出来るだけの努力を対魔物に費やしているという世界観があります。
そんな世界観の中で、シナリオ作者として考えるべき重要なことは、動物や魔物にも、人間と同じく事情があるということです。
悪い魔法使いに使役されているガイコツも、地縛霊に操作されているガイコツも、魔物という点で見ればスケルトンと呼ばれる魔物でしょうが、事情は違います。そもそもスケルトンはガイコツだけで動く魔物のため脳がありませんが、悪い魔法使いに使役されている時は悪い魔法使いの事情に合わせて行動しますし、地縛霊に操作されているスケルトンは地縛霊の事情に合わせて行動するはずです。
更に言えば、良かれと思って神々の神域を守ろうとして地面から這い出てくるスケルトンもいるかもしれません。この場合のスケルトンは神々の守護を目的とした大義でもって、魔力で自律していてもおかしくありません。
同じ魔物でも所変われば品変わるといった具合に、事情というものが存在します。そのため、過去人間の友人が居たオークが、今でも人間に友好的であってもおかしくありませんし、古代遺跡の自己防衛機能が暴発して、近くの町村に岩で出来たゴーレムが押し寄せてきてもおかしくありません。
魔物も人生ならぬ魔物生を生きています。『とりあえずゴブリン出しとくか』でゴブリンを出すよりも、シナリオに深みを与えられるもっとベストな魔物がいるかもしれません。
CoCと比べてみると、実はCoCの面白い部分が上記の問題を勝手に解決しています。
というのも、CoCには奉仕種族や魔法使い、カルト教団員たちという存在が邪神やグレート・オールド・ワンに付き従って登場します。彼らの目的は基本的に『自分の信じる神の復活』という点で共通しており、神を復活させたい目的はそれぞれ別にあったとしても、共通目標としている邪神復活というものが組織としての団結を生みますし、特定の奉仕種族が登場するだけでシナリオの舞台設定の説明にもなります。
通常CoCのシナリオを書こうとした場合、どの邪神が悪さをしているかを決定することになるでしょうが、どの邪神か決定した時点である程度舞台設定が付いてくるし、その邪神を復活させようとしている奉仕種族や魔法使い、カルト教団員たちの事情が『大ざっぱに言って邪神復活』という点がシナリオ制作者にとってシナリオのプロットを組み立てやすい世界観になっているのです。
そのため、慈悲なきアイオニアのシナリオを制作する場合、フォーカスを当てる魔物の事情をシナリオ作者が考える必要が出てきますが、逆にCoCと比べて自由な発想が使えるとも言えます。
村を荒らし回っているトロルの討伐依頼から始まるシナリオがあったとして、実はそのトロルは村の辺境に口減らしで捨てられていた人間の子供を見つけて愛着が湧いてしまい、その子供を保護して、食べ物を探すため村を略奪していたということがシナリオの真相になっても問題無いということです。
勿論、現実世界と同じく、人類同士が問題を発生させていて、その問題を冒険者が何とかしないといけないシナリオもあって当然です。魔物が必ずしも必要ではないということです。
慈 まとめとして『余白のある世界観』
以上の点に注目してシナリオを制作してみましょう。普段CoCのシナリオを作っている方々に『慈悲なきアイオニア』のシナリオを制作するヒントとなれば幸いです。
最後に、慈悲なきアイオニアの世界観にある余白の話をします。
ルールブックに明記されている国の他にも、南方に大陸があるはずです。というのも、ウルド古王国の南側は内海なのだそうですし、わざわざ北方の大陸『グレイベル』とルールブックに書いてあるということは南方にも大陸があってしかるべきです。内海ということは、何とか諸島のようなものがあってもおかしくありませんし、北の大陸グレイベルの東の方に嵐の国があるのなら、ルドバザールという都市国家と北西の島国の更に西に新大陸が見つかってもおかしくありません。
慈悲なきアイオニアの世界では今まさしく羅針盤が開発されて市場に出回り始めている様子ですので、まだ見ぬ新大陸を見つけるための大航海時代が幕を開ける兆しがみられます。
今後のアップデートで明らかになる部分も楽しみですが、これらの余白のお陰でどのようなシナリオも受け入れられる余地があるはずですので、ファンタジーTRPGシステムとして慈悲なきアイオニアが盛り上がってくれることを願っています。
それに、みんながシナリオを書いてくれたら、筆者がPLで遊べます!
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