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キッチンの洗い残しで死なない。食物アレルギーっ子5歳の話

我が家の次男には、食物アレルギーがあります。
当事者にとっては命に関わる問題なのに、「好き嫌い」や「考え方」の問題だと捉えられてしまったり、「無添加なら安心」「国産なら大丈夫」という認識の人も。
少しでも多くの人にアレルギーのことを知ってもらいたくて、次男のアレルギーにまつわるお話を書いてみました。

最初に症状が出たのは生後5ヶ月で、離乳食を始めたばかりの頃・・・。

離乳食で大量嘔吐、アレルギー検査へ

粉末をお湯でふやかすタイプのベビーフードを、ベビー用スプーンにひと匙。
口に含んだ後にベーっと出したので、離乳食初期の赤ちゃんにはよくある可愛いリアクションかと思っていたら、みるみる顔が腫れ、大量の嘔吐を繰り返すので慌てて小児科へ駆け込んだ。
服薬すると症状は落ち着き、その日は帰宅したものの、後日大きな病院でアレルギーの血液検査を受けることになった。

血液検査の結果、次男は小麦の他にも乳製品、卵、ごま、魚卵などの数値が高かった。
実は、血液検査の結果だけで、陰性陽性が判断できないのが食物アレルギーの厄介なところ。
数値が低いのに症状が出る人もいれば、数値が高くても問題なく食べられる人もいる。
そういう訳で、診断には「食物経口負荷試験」という検査が行われる。
入院をして万全の医療体制のもと、実際にアレルギーが疑われる食材を食べてみて、何グラムで症状が出るかを調べるという、なんとも原始的(?)な検査だ。
症状が出たら、その場ですぐに治療を行う。

食物経口負荷試験での検査入院

1歳で小麦と卵の食物経口負荷試験(以下、試験)を行って以降、イヤイヤ期や感染症の流行もあって乳製品の検査を進められずにいるうちに、3歳半になってしまった。
普段「危ないから食べちゃダメ」と言って避けている食品を、ものごとを理解し始めた幼児に、それも病院という特別な環境で食べさせることがどれだけハードルが高いか。
わたしは気が重かった。

久しぶりの試験当日。
パックの牛乳を持って病棟へ向かう。
前回1歳で試験を受けたときは、柵のついたベビー用ベッドだったのに、今度は大人用のベッドが用意されていた。

まずは牛乳0.01ml。
0.01mlは量が少なすぎて計れないので、水で10倍に薄めたものを、シリンジ(針なしの注射器)に0.1ml取るという。
小学校の頃にやった理科の実験を思い出した。

いくら治療の準備ができていて、先生がそばに付いているとはいえ、アレルギーだと分かっている食材を食べさせるのは勇気がいる。
シリンジを持つ手が震えた。

0.01mlの牛乳を次男の口に入れると、口の中に違和感があるのか不機嫌に。
飴を舐めさせると、機嫌はもどった。
アレルギー症状は出なかった。

時間をおいて、0.1mlに挑戦。
0.01mlの10倍だ。
スポイトで飲ませると、頬に湿疹が出た。
気をつけてはいたけれど、牛乳が付いたのかもしれない。
それでもアレルギー症状は出なかった。

同じように0.2mlに進めると、症状は出ない。

もしかしてこのまま出ないかも、と期待して挑んだ0.5mlでは、しばらくすると顔中を掻きながらぐったりしてしまい、お薬を使うことになった。
「0.2mlまでなら牛乳が飲める」ということが分かって、試験は終了した。

コンタミOKで広がる可能性

食品の製造過程で起こる、ほんの微量の混入のことを「コンタミネーション」、略して「コンタミ」という。
重度のアレルギーを持つ子の中には、このコンタミでも命の危険に関わる場合がある。

「0.2ml」というのは、スポイト1〜2滴の量。
本当に少ない量ではあるけれど、これでコンタミや、キッチンの洗い残しで死なない可能性が高くなったのだ。

小学校の給食では、コンタミが不可だと給食自体の提供ができないという。
「これで就学はどうにかなる」と、ほっとした気持ちで病院を後にした。

離乳食で「アレルギーを見つける」

アレルギーが気になって、離乳食の開始を遅らせたくなる気持ちはすごくよく分かる。
だけど、今の医療では、アレルギーが心配でも時期は遅らせないのが一般的だ。
少量からスタートするのは、「アレルギーにならないようにするため」とか「アレルギーを避けるため」とかではなく、「重い症状を起こさないでアレルギーを見つける」目的がある。
だから、初めての食材は「小児科が開いている平日に」、小麦のように時間差で症状が出る食材もあるので「午前中に」試すことが薦められている。

アレルギーがあっても、完全に食材を除去する必要がない場合も多い。
「経口免疫(減感作)療法」という、毎日自宅でアレルギー食材を少しずつ食べて、原因の食材を食べられるようにする治療もあって、次男にもこれを行なっている。
医師の管理のもとに食べられる量を増やしていく、「練習」みたいなものだ。

あれから1年、継続のむずかしさ

実は、この記事の前半部分は1年前の日記で、次男がまだ4歳になる前に書いたもの。
本人の体調不良が続き、自宅での「練習」が思うように進まないまま、5歳になってしまった。
先月、定期の血液検査を受けると、乳製品の数値が、自宅で摂取するには危険なほど高い。
牛乳は、完全除去のふりだしに戻ってしまった。

これは、次男とわたしの5年間の話で、毎日の「練習」がおろそかになってしまったことへ、自戒の念を込めて書きました。
(ただ、治療と言っても「子育て」って暮らしだから、これ以上は無理だったとも思う。同じように自宅負荷が進まないママパパはこれを読んでも自分を責めないで!)
同じ「アレルギー」でも、同じ人はいないこと、アレっ子親視点での文章なので間違った情報があるかもしれないことをご理解いただけると嬉しいです。
治療やアレルギーについては、自分で判断せず、必ず主治医に相談してください。

キッチンの洗い残しで死ぬかもしれない。
そんな不安を次男が抱えないで暮らしていけますように。
アレルギーへの理解が、もっと広まりますように。

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