低温火傷の恋 ろく
「はい、一周年記念」
昼休み、机の上にチョコひとつ。
通りがけにあの人が置いていった。
好物のウインナーを頬張ったところに、それは突然訪れる。
(一周年って、なんだ??)
事態が飲み込めない。
戸惑いながらも、ぺこっと頭を下げる。
あの人は何も言わずに立ち去る。
口いっぱいのウインナーと、チョコレートが残される。
もぐもぐもぐ
もぐもぐ
ごっくん
あ、わかった。
この部署に来て、今日でちょうど1年だ。
4月異動が多い中、わたしは3/17に配属された。
本人も忘れているようなことなのに、よく覚えていたものだ。
そういうとこ、
そういうところ、
ほんとうに、マメである。
好きじゃない、
好きじゃないけど、
そういうところを見ると、
ああ、この人のこと、嫌いじゃないなぁと、
思ってしまう。
恋というほどでもないし、
ましてや愛でもないけれど、
親しみを感じていることは事実で、
だから些末なことでも、心が温もる。
♪
わたし失ったことも 戦ったことさえもないから
怖いものなんて 知らないから
(中略)
お願いこっちを向いて
あなたは怖いことも 失うことも知っているけど
♪
昨日の福山雅治オンラインLIVEにて歌われた歌詞の一部。
何も知らないわたしと、
知っているあの人。
社会人2年目のわたしと、
社会人20数年目のあの人。
家庭を築くことはおろか、結婚もしたことのないわたしと、
先日離婚し、家を出たあの人。
歌と自分を重ねたら、継ぎ目なく合う気がして、
怖くなったから重ねるのをやめた。
ただの歌として聞き流した。
だけど今朝からまた、上司と部下として仕事して、
どことなく嬉しそうな自分を見つけたとき、
また歌と自分を重ねそうになっていた。
『好きよ 好きよ 好きよ』
と歌はいう。
これは恋なのだろうか。
そんなに好きなのだろうか。
嫌いすぎて気になるのだろうか。
どこがいいのだろうか。
どこが嫌なのだろうか。
わたしはどう思っているのだろうか。
認めたくないけど確かにある自分の気持ちの、
落とし前の付け方がわからない。
だから今日もまた、火傷とともに綴る。