低温火傷の恋 よん
今日は21時まで残業だった。
年度末というより、忙しい時期と年度末が重なったという感じで、毎日わたわたと過ぎていく。
それはあの人も同じで、グループで遅くまで残っていたのは、わたしたちだけだった。
そして、
一緒に帰れた。
一緒になんか帰りたくない
みたいな顔して、
でも喜びを隠しきれない、目。
ばれなかっただろうか。
「もー、ほんとさぁー、」
最近愚痴っぽい。
仕事が溜まっていることや、来年度のこと、人事のこと、新人教育のこと、自分のこと……etc、
考えることがたくさんあるからだろう。
そういう時、
「聞くだけでいいからさー、聞いてくれよー」
と、途端に愚痴が始まる。
「みんながみんなさ、ひかりさんくらい出来ればいいのにな」
「ほんっと、よくやってくれてるよ」
「それに比べてさー、あいつらは」
やめて。
弱り果てたような顔、もたれかかるような足取り、頼り切った声。
そんな姿、見せないで。
ただの、部下だから。
家族でも、恋人でも、友達でも、ない、
本当に、ただの部下、だから。
頼ってくれるのは嬉しい、
褒めてくれるのも嬉しい、
だけど、
愛おしくなってしまうから。
ただの部下を、やめてしまいそうになるから。
嬉しいけれど、受け取れない、思い。
ここでしか吐き出せない、思い。
嬉しさで跳ねた心が、
思い募って、
じりじり痛む、火傷。
ああ、どうか神様、
この時間が一秒でも早く、終わりますように。
早く駅で別れて、この痛みを忘れられますように。
ああ、神様、そして、
この時間が1秒でも長く、続きますように。
たくさんお話しできて、この嬉しさが、続きますように。
今日の神様は、電車を1本逃させてくれた。
それは、幸なのか、否なのかわからなかったけど,
たくさん話ができた。
ありがとう。
☆
そして今日は、日常に感謝する日だった。
日常を送れることが、当たり前でないことを、私達は知っているけれど、それを改めて思い出す、日。
仕事で黙祷ができなかったので、代わりにここで祈りを捧げます。
あの日を想い、未来を願う、すべての人に、幸せが訪れますように。
☆