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「最終列車」: 短編小説
佐藤龍馬(75歳)は、退職して10年が経つ元電車整備士。彼の人生は、まるで行き止まりの駅に停車してしまった古い客車のようだった。
ある日、龍馬は地下鉄に乗っていた。車内アナウンスが流れる。
「次は終点、霊園前駅です」
龍馬は苦笑いした。「俺の人生の終点も近いってわけか」
そんな時、不思議な出来事が起こった。車内に、若かりし頃の自分が現れたのだ。
「よう、爺さん。随分とさびついちまったな」
若い龍馬が話しかけてきた。
「お前は...俺?」
老龍馬は目を疑った。
「そうさ。お前の過去だ。というか、お前の捨てた情熱の具現化とでも言おうか」
若龍馬は続けた。「このままじゃ、お前は本当に終点行きだぞ。最後の列車に乗る気はないのか?」
「最後の列車?」
「そうさ。人生を蘇らせる、最後のチャンスってやつさ」
老龍馬が答える前に、電車が急停車した。気がつくと、見知らぬ駅のホームに立っていた。駅名は「第二の人生」。
駅員らしき男が近づいてきた。
「やあ、佐藤さん。あなたの乗る列車はまもなく到着します。行き先は自分で決められますよ」
龍馬は戸惑いながらも、ホームに立っていた。すると、一台の真新しい電車が入ってきた。
「さあ、乗るんだ」若龍馬が背中を押す。
龍馬が乗り込むと、車内には様々な年齢の「乗客」がいた。みな、人生をやり直そうとしている人々のようだ。
車掌のアナウンスが流れる。
「本日は『人生やり直し特急』にご乗車いただき、ありがとうございます。この列車は、あなたの望む目的地へ向かいます。ただし、途中下車はできません。また、目的地に着いても、二度と戻ることはできません」
龍馬は迷った。このまま「霊園前」に向かうか、それとも...
彼は決意した。「よし、俺は『技術継承学園』行きだ!」
するとその瞬間、景色が変わった。龍馬は工業高校の教室にいた。黒板には「特別講師:佐藤龍馬」と書かれている。
生徒たちが熱心に聞き入る中、龍馬は語り始めた。
「電車の技術は日々進化する。だが、その根幹にある原理は変わらない。それは人生も同じだ。歳を取っても、学ぶ心さえあれば、いつだって新しいレールを敷くことができる」
講義後、一人の生徒が質問した。
「先生、いつまで教えてくれるんですか?」
龍馬は微笑んだ。「さあな。霊園前駅に着くまでは、ずっとかもしれんよ」
その夜、龍馬は日記にこう書いた。
「人生という列車は、思わぬ駅で急停車することもある。だが、そこで降りてしまうか、次の目的地に向かうかは自分次第だ。たとえ終点が見えていても、最後の一駅まで楽しむのが人生というものさ。さて、明日はどんな景色が見られるかな」
龍馬の新たな人生は、まるで終わりのない環状線のように、いつまでも走り続けるのだった。
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