毎年恒例!『マンガプレゼン大会2019』イベントレポート【2019年12月】
はじめに
どうも、クチコミとランキングでいいマンガが秒で見つかるサービス『マンバ』です!2019年12月21日(土)に、東京・豊島区の『Comic Cafe & Bar しょかん』にてマンバ主催「マンガプレゼン大会」が開催されました。
スペシャルゲスト&司会としてご参加頂いた、マンガソムリエの兎来栄寿さんによるイベントレポートが届きましたのでどうぞお楽しみください!
(写真・兎来栄寿/マンバスタッフ一同)
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2019年12月21日。『ダイの大冒険』が再アニメ化&ゲーム化というジャンプフェスタで発表された特大のニュースに世間が湧いた翌日。
ちょうど先日『ダイの大冒険』を語る読書会も行われた池袋のComic Cafe & Bar しょかんにて、第3回目となり年末の恒例行事となってきた感もある「マンガプレゼン大会」が開催されました。令和では最初のプレゼン大会となります。
今回は10名の方がスピーカーとして登壇。それぞれが「今、一番推しているマンガ」を、前半・後半5名ずつ発表していきました。
早めに到着したスピーカーの方々からは、
「ずっとカラオケで練習して来ましたよ!」
「5分間の発表の中で使うスライドが去年41枚だったから今年は減りました。練習する度に猫がビックリしていました」
などなど、プレゼンに懸ける熱い想いが始まる前から溢れ出ていました。
最後に行われる観客からの投票で決まるベストスピーカーには、今回も豪華なプレゼントが用意されていました。
果たして頂点に輝いたのは、誰の、何を紹介するどんなプレゼンだったのか……?
それぞれのスピーカーの方々が行った発表を順番に紹介していきましょう。
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1人目 せとゲノムさん 『中華一番!』
前回も「『駆けろ!大空』に出てくる雷の表現」という独特の切り口で発表を行って下さった、せとゲノムさん。今回もまた「『中華一番!』(小川悦司)に出てくる悪い顔」という絶妙なテーマを提げて登壇して下さいました。
まず『中華一番!』の概要に触れながらも、
「一旦ストーリーとかキャラとかはいいです。悪い顔だけを見て下さい!」
と、作中の悪い顔を次々と例示。「お前に生きる力を与えてやろう」と言う悪役に対し、
「こんなフォントの人が生きる力を与えてくれるわけがない!」
「『中華一番!』には料理に麻薬みたいな物を混ぜて人をダメにするというパターンが多いんですけど、そういう小悪党の顔がこれです」
などパワーワード連発で爆笑を誘い、開幕から会場を見事に温めて下さいました。
ちなみに、『中華一番』は過去の作品であるというイメージを持っている人は少ないかもしれないですが、2019年12月現在『真・中華一番!』のアニメが放映中、マガポケでは最新作『中華一番!極』が連載中で現役バリバリのコンテンツですので、かつて読んでいた・アニメで観ていたという方もぜひ触れてみて下さい。
2人目 ショウコさん 『SAND STORM SLUGGER』
59ページにも及ぶ今回最多のスライドを準備して発表に臨んで下さったショウコさん。別冊少年チャンピオンで3年間連載されていた、テレビの砂嵐の画面を観続けることで動体視力が鍛えられた主人公を描く野球マンガ『SAND STORM SLUGGER』(高嶋栄充)を紹介。
「敵チームにもスポットライトを当ててくるので連載時は堪らなかった。とにかく人間関係が凄い」
と評しつつ、
「このマンガに出会うまで野球には一切興味がなかった。自分の高校生活が酷かったので男子高校生が大っ嫌いだった」
「高校野球をTVで観られることすら知らなかったが、こんな私が西東京大会の決勝は必ず観に行くようになり、今年の夏は甲子園にも行きバッティングセンターにも行ってホームランを出した。嫌いを好きに覆すくらい大きな力を持つマンガ」
と、作品との出逢いによって自らにもたらされた大きな変化を熱く語って下さいました。
そして、プレゼンのあとには
「今日、実は全巻持ってきてるんですけど3セットしかないんです……」
と、単行本セットを渡して布教するファンの鑑。そのため、急遽ジャンケン大会が行われることになりました。(イベント中に、このあとも何度か突発的なジャンケン大会が行われていきます(笑) )
(ジャンケンの勝者に贈呈された賞品)
なお、作者の高嶋栄充先生による新たな野球マンガ『クワトロバッテリー』も11月から別冊少年チャンピオンにて連載が始まっています。80ページ以上にも及ぶ1話の試し読みもありますので、注目です。
3人目 ワタナベテツオさん 『バタフライ・ストレージ』『特蝶』
ナベテツさんはまず、オシャレで格好いい公式PVを紹介。
「人が死ぬとその魂が蝶になって抜け出る」という、独特の世界設定が特徴的な近未来SF『バタフライ・ストレージ』(安堂維子里)。そしてその16年前の前日譚である『特蝶』の魅力を、今回は『特蝶』中心で語っていきました。
「主人公の陣営は人を殺すことができないが、敵組織は人を殺しても構わない。暴力が偏っていることによるジレンマも魅力の一つ」
「メカを始めデザインセンスが優れていて格好いい」
「それぞれが抱えてるものを強く感じさせられるキャラクターたちが良い」
とナベテツさん。質疑応答の際に
「好きなキャラとその魅力は?」
と訊かれた際には
「荒井さんです。なぜなら、私はテツオという名前なのですが『守ってテツオ!』という台詞があるからです」
と語り、笑いを誘っていました。そして、ナベテツさんも布教用の単行本を持参していたため、急遽第2回ジャンケン大会が開催されました。
残念ながらあと2回で連載が終了してしまう『特蝶』ですが、作者の安堂維子里先生が体調を崩されたため連載は中断中。快復を切にお祈りしております。なお、単行本化されていない安堂先生の短編「鳥の日」「いつかきたみち」が現在電子のみで販売されています。こちらもお薦めです。
4人目 いさおさん 『雪女と蟹を食う』
『雪女と蟹を食う』(Gino0808)は、自殺願望を持った青年が最後に蟹を食べてから死にたいと豪邸に強盗に入ったら、そこにいた美人の人妻と関係を持つことになり、彼女と2人で北海道まで旅をする物語。
「非現実的な設定を採用しながら、非常にシビアな現実を描いている」
「なぜ彼女が着いてきたのか、その理由が解る時がやってくる」
「主人公は夢のような旅を始めたが、その夢を奪われる。それによって絶望的な現実が炙り出される」
「茹だるような夏に、雪女のような美女と旅をする。夢と現実。コントラストが生み出す唯一無二の"酔い"という感覚を味わって欲しい」
と、いさおさん。
会場からも「プレゼンっぽい!」という声が上がるほど、綿密な資料を使い論理的に筋道立てて作品の魅力を解き明かして下さいました。
5人目 ソゴールさん 『ヤンキー君と白杖ガール』
スライドを使わず、マイク一本でプレゼンに臨んだのはソゴールさん。
『ヤンキー君と白杖ガール』(うおやま)は、小学生の頃から高校生をブチのめすような不良の黒川と、弱視の女の子・ユキコを中心に展開される物語。
「今までの漫画史の中でも障害というテーマを描く転換点のようなマンガ」
「従来は障害を乗り越えるべきハンディキャップとしてシリアスに描いている作品が大半だが、本作はラブコメとして描いているのが新しい」
「目の見えないという個性を一つのアイデンティティとして描いている」
として、さらに
「今回マイクのみでプレゼンしたのは、この作品は目の見えない方にはそのままの形では届けられないマンガという媒体でありながらも、目が見えない方に対しても色々な取り組みを行っている作品だから」
とのこと。
「音訳」と「点字版」、そして声優さんが声を当てた「ボイスコミック」と呼ばれる形式のものが2種類、YouTubeで出されているとのことです。1つは台詞だけを読んだもの。そしてもう1つは、台詞以外の情景や描写のナレーションなども音声で説明したものだそう。
たとえ目が見えなくなってもマンガを楽しむ方法があるというのは、大きな希望ですね。
(余談ですが、作者のうおやま先生の名前をAmazonで検索にかけたら、優秀なAIが「もしかして」とばかりに、うえやまとち先生の『クッキングパパ』がサジェストに出て来るおもしろ場面がありました)
こちらのソゴールさんの発表をもって前半は終了。15分ほどの休憩時間が挟まれました。
しょかんさんによる美味しい軽食やお酒も片手に、インターバル中にも紹介された作品やプレゼン内容の話などで会話が弾みに弾んでいました。
会場の興奮冷めやらぬまま、プレゼン大会は後半戦へ。
6人目 takaakiさん 『流血鬼』
後半のトップを務めたのはtakaakiさん。紹介するのは、昭和53年12月25日に発売された『週刊少年サンデー』クリスマス号(52号)に掲載された、藤子・F・不二雄の短編「流血鬼」。リチャード・マシスンの『アイ・アム・レジェンド』がベースとなっており、あまりに衝撃的な内容とそのラストに、「当時サンデーを読んでいた子供たちも大混乱したに違いない」とtakaakiさん。
「当たり前だと感じていることを疑ってみよう、相手の立場に立って考えてみよう。これらのテーマを藤子先生は言いたかったのではないか。それを僅か38ページで描いた作品」
「『寄生獣』もこの作品の影響を受けているのではないかと考えてます」
また1点、私自身も気になって会場で訊いてみたのですが、30人ほどいる会場の中で
『ドラえもん』を読んだことのある方 → ほぼ全員
「流血鬼」を読んだことのある方 → 2人
という結果でした。これだけのマンガ愛溢れる方が多くいる会場でこの結果は少々意外で、過去の名作を繰り返し紹介していく意義をあらためて感じさせられました。
プレゼンでは設定やラストの詳細まで語られましたが、あえてここでは書きませんので、ぜひご自身の目で読んで頂きたいです。
(『藤子・F・不二雄少年SF短編集2 絶滅の島』、『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版5 メフィスト惨歌』、『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編1』などに収録されています)
7人目 おのDさん 『五百年目のマリオン』
後半戦2人目は、先程まで美味しい食事を拵えて下さっていたしょかんのオーナー・おのDさん!
「作品の決定が今朝だったので、スライドは準備できていません! マイク1本ですが、ソゴールさんのように高尚な理由ではありません!」
とおのDさん。
「『ドカベン』と最後まで二者択一で散々迷って、こちらを持ってきました」
と出したのは、ゼノンで連載していた『五百年目のマリオン』(日笠優)。1940年、ドイツに侵攻される1カ月前のパリが舞台。窃盗団の頭を務める14歳の少女が、その歌声の素晴らしさを見初められ、「ジャンヌ・ダルクの役で舞台に立ってみないか」と歌劇の世界に誘われる物語です。
「『ガラスの仮面』、『アクタージュ』、『ひとひら』など舞台系のマンガがとても大好きで、舞台の内外の人の二面性がとても面白い人の作品。彼女を舞台に誘ったことの思惑はぜひ作品を読んで頂きたい」
「1巻を読んでこれはたまらん、と思っていたら2巻で終わってしまったが、作者のブログでは『いつの日か〝ドイツ占領下編〟と〝パリ解放編〟も描きたい』と書かれており、今日来て下さった方に読んで頂き、応援の声が強まればその望みも強まるかなと」
と、惜しくも打ち切られてしまった名作への想いが語られました。
8人目 ヒガキさん 『グヤバノ・ホリデー』
「後半が始まって、3人とも服が上下黒っていう……(笑)」という、セルフツッコミから入ったのは、最近になって新しくしょかんスタッフに加わったヒガキさん。紹介するのはpanpanya先生の最新短編集『グヤバノ・ホリデー』。
「買った理由はとにかくオシャレ。普段からジャケ買いがメイン。荻窪や神保町が好きな方にオススメ」
「オススメポイントは『好奇心』から始まり『妄想』がとても緻密な絵で具現化されるところ。最高級の日常系。達観しておらず、焦ったり迷ったりする作者を投影しているであろう主人公に共感できる。何とも言えないゆるさが良い間を作ってくれて、最後にはゆるく落語のように落としてくれる」
「このマンガの素晴らしさはインスタントを刺激に変える力。日常にある何ともないカップラーメンのようなものの構造を捉えて、楽しみに変えてしまう。描きながら楽しんでいることが解る、絵も内容もとても良い幸せの塊みたいなマンガ」
と、独特の世界観を持つ作品に最大級の賛辞を贈っていました。
「このマンガがすごい!2019 オトコ編1位」を獲得した『天国大魔境』の作者・石黒正数さんも、「最近面白いマンガは?」と訊ねられた時に『グヤバノ・ホリデー』の名を挙げています。一読の価値有りです。
9人目 なかやまさん 『きつねとたぬきといいなずけ』
この日一番の猛烈なテンションでプレゼンし会場を沸かせたのは、なかやまさん。「マイクは要りません!」と、カラオケボックスで練習してきた張りのある地声で勝負して下さいました。
「今回は発表するに当たり作者の許可も得てきました!」
という宣言には会場からも歓声も。
紹介して下さったのは、高尾山に棲むきつねとたぬきが、都会に住む青年のもとにやって来るところから始まる物語。Twitter・noteで連載をしており、紙の本は中野のタコシェなど極一部の店舗のみの取り扱いの同人作品です。
「2匹と1人が特別な存在になっていく様子がコミカルに優しく描かれる物語」
「キャラとセリフ回しがかわいい!」
「成長と見え隠れする謎」
と作品の魅力に触れていき、
「点と点が線で繋がっていく快感がある」
というところでは、工作によるギミックも披露して下さいました。
そして「この作品は見守りマンガ。まさに……」と言いかけたところで、惜しくもタイムオーバーになってしまいましたが、作品の持つ魅力は十分に伝わっていたと思います。
10人目 のれん雛さん 『???』
トリを飾って下さったのはのれん雛さん。
去年の大会では『灼熱カバディ』でプレゼンを行なっていたのれん雛さんですが、今年の発表作品は、蓋を開けるまで秘密とのことでした。そしていざ蓋を開けてみると……今年も『灼熱カバディ』(武蔵野創)!
「マンバさんのテーマが『今一番推しているマンガ』だから! このテーマが変わらない限り、私は『灼熱カバディ』を発表し続けるしかありません!」
という力強い宣言。これにはリピーターの方から「時代劇を観てるみたいな安心感があった」という声も。
「一人一人が主人公のように魅力的(※筆者注…特に2019年は『SLAM DUNK』の陵南VS海南戦を彷彿とさせるようなライバル校同士の名勝負が描かれていました)。だからこそ、逆に今回は主人公の宵越くんに焦点を当てて語りたい」
「カバディのことを全く知らず、先輩に敬語を使うこともなかった彼が泥臭い努力をし、『先輩を笑うな』と言うように変化していくところに心が熱くなる」
「絵もどんどん上手くなるし、最新話が一番面白い」
と、魅力を熱を込めて語って下さいました。
マンガワンで全話無料で読むこともできますし、単行本にはそこでは読めないおまけも多数収録されていますので、熱いスポーツマンガが好きな方は触れてみてはいかがでしょうか。
そして例によって、のれん雛さんも布教用の単行本セットを2人分用意されていて、クリスマス前にプレゼントをもらえた方の多い1日となりました。
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さて、全ての発表が終わったあとは、投票タイム。自分が一番良かったと思う発表者1人だけに1票を投じる形式です。
どのプレゼンにも様々な良さがあったので「難しい!」「決められない……」といった声も漏れ聞こえてきました。
そして、上がってきた集計結果を見て私も驚きました。何と、1位と2位はわずか1票差。皆さん本当に甲乙つけ難い、素晴らしいプレゼンでした。
まずは2位の発表から。激戦を勝ち抜いて見事2位に輝いたのは、『きつねとたぬきといいなずけ』を紹介したなかやまさん!
そして、栄えある第1位は…!『雪女と蟹を喰う』を紹介したいさおさんでした!!おめでとうございました!!
(※スタッフ注…1位のいさおさんには「5000円分のマンバオリジナル図書券」が、2位のなかやまさんには司会のマンガソムリエ・兎来栄寿さんより「手塚治虫カレンダー」が贈られました)
折しも、いさおさんは翌日に『雪女と蟹を喰う』のGino0808先生のサイン会に行くということでした。無事に優勝報告もできたということで、何よりです。
いさおさんがプレゼンで話された内容をまとめた解説記事も上げられていますので、ぜひ読んでみて下さい。作者のGino0808先生もご覧になり、称賛されていらっしゃいます。
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10名のスピーカーの方々のお陰で、今年も年の瀬に本当に素晴らしいイベントができました。「全員の発表が素晴らしかったので全員に1票ずつお願いします」という温かい投票もありました。
2019年に読んだマンガの中でも個人的に特に心に残っているのが、『マンガに、編集って必要ですか?』の
「マンガをつくるのには途方もない時間がかかりそれを読むのは一瞬 しかしその一瞬を何十万何百万という読者がもらっているのだとすれば この1ページはどれだけの人生をもらっていることになるのだろう」
『マンガに、編集って必要ですか?』青木U平
という一節です。
描くのに24時間費やした背景でも読者が目にするのは1秒程度。そう考えてしまうと少しやりきれないかもしれませんが、逆にこのように考えてみると、1つの作品がどれだけの人生に影響を与えているのだろう、と。
たとえ、発行部数が数千部あっても、それが家族や友人知人に貸し出されたり、お店に置かれて様々な人に読まれたり、あるいは特定の読者に気に入られて何度も何度も読み返されて、幾万幾億の時間を貰うことになります。そして1万人の読者がいれば1万通りの、100万人の読者がいれば100万通りの化学反応が起きて、100万の宇宙がそこに生じます。
マンガ愛しかない空間で、それぞれの中に生まれ出た10の愛すべき宇宙をこの夜は感じさせてもらい、大きな幸福感と満足感に包まれました。集って下さった方々に、あらためて御礼申し上げます。
マンガプレゼン大会は次回以降も開催予定です。「とても面白いので半年に1回くらいやって欲しい!」という声もあり、今回の盛況ぶりを考えると前向きに検討もされるのではないかと思います。これを読んで「自分も参加してみたい!」と思った方がいらっしゃいましたら、ぜひオススメの作品を温めておいて頂ければと思います。
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【次回のイベントのお知らせ】
1/18 (土)17:30〜21:00に、池袋『Comic Cafe & Bar しょかん』にて2019年のあらゆるマンガの振り返る読書会を開催!ご参加お待ちしております!
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