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ふじまる虫時間・第1限「オトシブミってどんな虫」

昆虫カメラマン、藤丸篤夫さんによる新コーナー「ふじまる虫時間」が始まります!
身近に息づく昆虫をおもに撮影する藤丸さん。その写真にうつる虫たちはどれもイキイキとした表情で、藤丸さんが虫たちへ向ける、優しいまなざしまでもが伝わってくるようです。
どうぞお楽しみください。

藤丸篤夫(ふじまる・あつお)
1953年東京生まれ。昆虫生態カメラマン。育英工業高等専門学校グラフィック工学科(現サレジオ工業高等専門学校)卒業。平凡社の動物雑誌「アニマ」フォトコンテストで最優秀賞に選ばれ、その後、28歳でフリーとなる。どこにでもありそうな身近な環境をテーマに、そこに住む虫たちの生態、植物と虫との関係などを撮影している。
著書に「虫の飼い方 さがしかた」「花の虫さがし」「たくさんのふしぎ ノイバラと虫たち」(福音館)、「アリ観察事典」「オトシブミ観察辞典」(偕成社)、「科学のアルバム ミツバチ」(あかね書房)、「ハチハンドブック」(文一総合出版)、「どんぐりむし」(そうえん社)など。

葉っぱの巻物のナゾ

森や公園を歩いているとき、ちいさな葉っぱの筒が地面に落ちているのを見たことがありませんか。

ヒゲナガオトシブミの揺籃

とても丁寧できれいに作られているので、誰かが遊びで作ったんだろう・・・と思う人もいるかもしれません。実はこれ、人間ではなく、「オトシブミ」という虫の仕業。上の写真の葉の筒は、ヒゲナガオトシブミが作ったものです。

「オトシブミ」ってどんな虫?

「オトシブミ」とは、ゾウムシ上科オトシブミ科オトシブミ亜科に分類される甲虫の総称です。
オトシブミの仲間は、日本では沖縄を除く全土に20種類以上分布していて、体長は3ミリから10ミリほどです。

クビナガオトシブミ_DSC2565(縮小)

▲カマツカの葉にとまっているオスとメス(アカクビナガオトシブミ)

器用に葉を巻くオトシブミ

オトシブミは、メスが葉っぱを使って円筒形の巻物、「揺籃」(ようらん・ゆりかご)を作ります。

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▲時々反対側に移動しながら 葉っぱを器用に巻いていく(ナミオトシブミ)

ナミオトシブミが葉を巻きあげている様子を観察してみましょう。葉っぱを巻くといってもただクルクルと巻くのではなく、その様子はよく考えられた折り紙のようです。口と足を使って折りこむように巻き上げます。とっても器用なオトシブミ。その様子はいつ見ても感心させられます。

メスに乗っているのはオス

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▲反対側の縁を折り曲げている(ナミオトシブミ)

メスが揺籃作りをしているときに、オスが一緒にいることがよくあります。オスは、メスが葉を切ったりしているときに出る臭いに寄せられて飛んでくるようです。オスの目的は交尾で、一緒にいても手伝うようなことはありません。

そこへ別のオスがやって来ると、オス同士の争いが始まります。オスの首が長い種類のオトシブミでは、まず首の長さ比べから始まり、それで決着がつかないときは取っ組み合いのケンカとなります。

卵のための「揺りかご」

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▲もうすぐで完成(ナミオトシブミ)

最後に、残った葉の縁の部分を表側に折りかえします。こうすることにより、バラけずに巻くことができるのです。

揺籃は、多くは地面に切り落とされますが、落とさない時もあります。また、オトシブミの種類によっては、地面に落とさないものもいます。

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▲葉の内部。何重もの層になった、葉の中心ちかくに卵がある(ナミオトシブミ)

葉の中には、たいてい、卵が一つ産みこまれています。この卵は、最初、2・3巻きしたところで、葉に切れ込みを入れて産みこまれます。

葉の中で卵はふ化し、幼虫は内部から葉を食べて成長、やがて羽化します。メスが一生懸命作っていた葉の筒は、幼虫のための「揺かご」なのです。

いろいろな発想を与えてくれるオトシブミの「揺籃」


昔、日本には、恋文や大事なことを書いた手紙を、他人に悟られないよう伝えたい人の近くに落として拾わせる「落とし文」という風習がありました。

「オトシブミ」という名前は、オトシブミが作る揺籃を見て、「落とし文」に結びつけた、日本人的な発想から生まれたのです。

また、東京都の青梅のほうではオトシブミの揺籃のことを「スズメのお弁当箱」と呼んでいたという話を聞いたこともあります。

季節限定になりますが、「落とし文」という和菓子もあります。本物の揺籃とはかなり違いますが、季節感のある上品な和菓子です。

人々の目を引き、いろいろな発想をさせてくれる、「揺籃」という作品を作るオトシブミ。

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▲ケヤキの葉を巻いている(ルイスアシナガオトシブミ/脚の長いほうがオス)

また、それを作り上げるためにたどり着いたオトシブミ自身の姿かたちもユニークで、好きな虫のひとつです。(文・写真・藤丸篤夫)

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