そのパターンあんの!?

世の中は大変だ。ライブができないので、ライブの思い出話をひとつ。

九月 ピザって10回言って
相方 え、それ知ってるよ
九月 いいから言って
相方 引っかからんから
九月 いいから
相方 えー、ピザピザピザ...
九月 海外旅行に行くのに絶対必要なものは?
相方 ビザ?
九月 ブブー、正解はパスポートでした
相方 ...そのパターンあんの!?

昔コンビを組んでいたとき、この導入から始まる漫才があった。ネタとしてはシンプルで軽め。「知ってるクイズがなんか違う」の一点でバリエーションを見せていくネタ。

3問くらいツカミ的にやってから、別の漫才に移行することが多かった。思ったより反応がよかったら、そのまま5問くらいやることもあった。

寄席や営業など、はじめてのお客さんが多いときに便利なくだりだった。お客さん参加型っぽくなるので、見てもらいやすい。バカウケを狙えるようなネタではない。でも、ある程度の反応は来る。

ホームランはないが三振もしない、楽天の高須のような便利なネタだった。

しかし、一度問題が発生したことがある。

九月 ピザって10回言って
相方 え、それ知ってるよ
九月 いいから言って
相方 引っかからんから
九月 いいから
相方 えー、ピザピザピザ...
九月 海外旅行に行くのに絶対必要なものは?
相方 パスポート!

最初のくだりで、ついうっかり相方が正解してしまったのだ。

ヤバい。完全にやってしまっている。正解してどうする。高須が三振するパターンあんの!?これはまずい。解決策はあるか。頭の中を瞬時に色々な考えが駆け巡った。

⑴ちゃんと「ビザ」と間違えた体にして、進めてしまうパターン。いやでも無理だ。そういうごまかしが効かないタイプのミスだ。「パスポート」「ブブー、パスポートでした」はヤバすぎる。人間がする会話じゃない。

⑵「正解してどうすんねん!これ間違うネタやろ!」と全部バラしてしまうパターン。いや、それをやると2問目以降に進みにくいし、ネタを戻しにくくなる。それは最後の手段でいい。

⑶「ぶぶー!正解は...自分の体でした」のようにシステムごと変えてしまうパターン。いや、これも無理だ。複雑すぎる。ベタな10回クイズと見せかけて、新しいパターンの10回クイズと見せかけて、実はなぞなぞだった。いくらなんでも複雑すぎる。情報量が多すぎて、お客さんが付いて来れない。

色々悩んだが、僕は考えることをやめ、自然な会話を優先した。

九月 海外旅行に行くのに絶対必要なものは?
相方 パスポート!
九月 ...正解!
相方 やったー!
九月 やるね
相方 やったやった!
九月 引っかからないもんだね
相方 これくらいいけるわ
九月 やっぱお前すごいわ
相方 せやろ
九月 いやぁ、僕らこんな風に仲が良くて...

後にも先にも、ネタ中に「ただ友達と話した」のはあれが最後だ。地元の居酒屋でやればいいような会話だった。そのあと本ネタに入ったけれど、普段より仲良し感を出してやるしかなかった。皮肉にもその頃、コンビはかなり不仲だった。

その後、その相方とは解散した。解散後に仲が良くなることもあるもので、今はごく普通におしゃべりをする友達だ。

彼はいま、どこかの自治体の子ども向けフリースペースを運営している。立派なものだ。そこで僕が作った10回クイズのネタを、子ども向けに再利用しているらしい。そのパターンあんの!?


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